アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
「ここをこうして…………ああして………」
アリス・マーガトロイド :
かちゃかちゃ。ぎちぎち。
糸引く音が、絡む音が、引き締まる音が森に響く。
アリス・マーガトロイド :
「……うん、うん。良い感じ」
アリス・マーガトロイド :
指先の細い銀色が、淡く陽の光に反射する。
少女の声に返すものはおらず。
アリス・マーガトロイド :
ただ、それを聞くのは。
アリス・マーガトロイド :
少女の傍らにて踊る人形だけ。
アリス・マーガトロイド :
「これで……よし!
完璧ね。あとはテストだけ……」
アリス・マーガトロイド :
そうして、木陰から立ち上がった少女は。
森を後にし、“そとがわ”へ。
アリス・マーガトロイド :
都会派の少女へと相応しい舞台へと。
絢爛華美な華の舞台へと去っていった。
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
──さて。
幻想の結界を抜けて外へと歩み出た訳だが。
アリス・マーガトロイド :
外の世界は以前訪れた時と様変わりしている。
建物は角張り、乗物は普遍的なものとなった。
アリス・マーガトロイド :
そうなれば人の身を超えた妖なれど、浮世に踊る少女なれど、その意、その立ち位置は容易に理解できる。
アリス・マーガトロイド :
……ツテのひとつも辿れない。
アリス・マーガトロイド :
何の策も無しに出た訳ではない。
かつて縁のあった同胞や、かつて多少は気に掛けた人間の末裔などを辿って“目的”を果たそうとしていたのだが……。
アリス・マーガトロイド :
ここまで時代が進んでしまっていたとは、想定外であった。
……たかだか80年程度なのに。
アリス・マーガトロイド :
さてどうしたものか、と人形を戻しながら思案していると……。
:
「さて、すみません。そこのお嬢さん」
アリス・マーガトロイド :
聞き慣れぬ声。やたら馴れ馴れしく、鼻につくような、芝居がかった声。
アリス・マーガトロイド :
「……どちら様?」
アリス・マーガトロイド :
「お生憎だけれど、道案内は専門外よ。
私もここに来たばかりだもの」
:
「ああ、いえいえ! 道案内でしたらご不要ですとも。
何なら、不慣れでしたら僕がしてあげましょうか?」
:
「麗しい、“人形”のお嬢さん」
アリス・マーガトロイド :
「………」
アリス・マーガトロイド :
「見ていたの?
でも残念ね。これは私専用の人形」
アリス・マーガトロイド :
「金貨100個も、宝石一山も値しないわ」
:
声の主である男は、その言葉ににたりと笑う。
:
「ご聡明な事で。僕のしたかった話を切り出す前にしていただけるとは」
:
「そんな才気溢れるお嬢さんに、僕からひとつご提案があります」
:
ん、ん、ん。
そう声を鳴らし、指を振り。
男は一歩、また一歩と歩を進める。
アリス・マーガトロイド :
……少女は見据え、張り詰めた“糸”をぴん、と指で弾く。
アリス・マーガトロイド :
「私、暇じゃないのだけれど」
:
「あはは。すぐに終わりますよ」
:
「お嬢さん。貴女はここに初めて、いいえ。
その様子でしたら久方ぶりに来たと見た。
でしたら、そのギャップはひどく煩わしい事でしょう」
:
「あったはずのものが無く、無かったはずのものがある。
いえいえ……僕もそういった経験は何度もしたことがありますから」
アリス・マーガトロイド :
「何がいいたいの?
回りくどいのは好きじゃないの」
:
「おおっと、失礼!
結論から言えと友人にもすぐ怒られてしまう。僕の良くないクセです……。
ええ、つまりは」
サンポ :
「この僕、サンポ・コースキを案内役として同行させる……。
如何でしょう? 悪い提案ではないのでは?」
アリス・マーガトロイド :
「………………」
アリス・マーガトロイド :
沈黙。呆気にとられた、とも言う。
アリス・マーガトロイド :
「……案内役って。
なぁに? 自分から檻に入りたがる趣味でもあるの?」
サンポ :
「そんな、めっそうも!
ただ、僕はお嬢さんの事が心配だったんですよ」
サンポ :
「……この街は、変わりました。
特にここ数年で、治安は悪化の一途を辿っています。
そんな所にか弱いお嬢さん一人を捨て置くなんて僕にはとてもとても!」
アリス・マーガトロイド :
「さっきからいけしゃあしゃあと……。
ちゃんと目的を言いなさいよ。帰るわよ、私」
サンポ :
「あああ、待って!待ってください!
……僕、自分で言うのも何ですが」
サンポ :
「“商人”なんです。
……この街でしばらく食べてきているくらいのね?」
アリス・マーガトロイド :
──ああ、なるほど。
恩着せがましい理由も、自分に執着する理由も察しがついた。
アリス・マーガトロイド :
「…………じゃあ、聞くけど。
あなた、“暗い所”が好きなご友人は多いのかしら?」
サンポ :
「…………ええ、もちろん。
“日向”から“日陰”まで、さまざまな顔ぶれを取り揃えておりますとも」
アリス・マーガトロイド :
「そう──そう。
なら、そうね」
アリス・マーガトロイド :
「貴方に、とびきりの“友達”を作る機会をあげる」
アリス・マーガトロイド :
「代わりに」
アリス・マーガトロイド :
「私の欲する舞台を用意して頂戴」
アリス・マーガトロイド :
そう言うや否や。
アリス・マーガトロイド :
人形が。
アリス・マーガトロイド :
男の周囲をぐるりと廻り。
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
「契約成立」
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
:
サンポ・コースキ :
「……ところで」
サンポ・コースキ :
夜。
自らの拠点を(半ば強引に)明け渡しながら男が口を開く。
アリス・マーガトロイド :
「あら?何かしら」
サンポ・コースキ :
「お嬢さんの求める舞台……それは一体どのようなもので?
日陰を望むとあらば、相応に特殊なものでしょうが……」
アリス・マーガトロイド :
「…………」
アリス・マーガトロイド :
ぽかん、と口を開けて。
アリス・マーガトロイド :
「あ、あなた。そこの見当も無しに私と手を組んだの!?」
サンポ・コースキ :
「……むしろお嬢さんこそ、どれほど特殊なものなんです!?」
アリス・マーガトロイド :
「……」
アリス・マーガトロイド :
はぁ、とため息一つ。
仕方ないとばかりに懐から人形を取り出す。
アリス・マーガトロイド :
「あなた、魔法……いいえ、外に倣うなら魔術ね。
そういった類のものは知ってるかしら?」
サンポ・コースキ :
「御伽噺の中のものですよね?」
アリス・マーガトロイド :
はぁぁ、とため息二つ。
アリス・マーガトロイド :
ぱちん、と指を鳴らせば、たちまち糸は張り巡り。
アリス・マーガトロイド :
項垂れていた人形は一斉に顔を上げ。
アリス・マーガトロイド :
文字通り“生き生き”とアリスの周囲へ浮かび上がる。
サンポ・コースキ :
「わあっ!?」
サンポ・コースキ :
思わず、がたりと音を立てて椅子から転げ落ちた。
アリス・マーガトロイド :
「どう?これが私の魔術。
人形を操り動かす魔術よ」
サンポ・コースキ :
「す……すごいですね。本当に……。
種も仕掛けもありませんよね、これ……」
そう言いながら、糸のありそうな中空へと手を伸ばす。
アリス・マーガトロイド :
手を伸ばせど、そこに糸も何もなく。
見えるものは、魔力の糸。
触れられないし断ち切れない。
アリス・マーガトロイド :
「どう? すごいでしょう!」
そうして少女は得意げに笑う。
サンポ・コースキ :
「ええ、すごい……」
サンポ・コースキ :
「………本当に素晴らしい技術です」
サンポ・コースキ :
ほんの僅かに、男の声色が下がった、ような……。
アリス・マーガトロイド :
「……?」
サンポ・コースキ :
「ああ、いえいえ!
……しかし、この技術と貴女の望む舞台。
点は見えても、線で繋がりませんね」
アリス・マーガトロイド :
「……ああ、そうね。
そこを説明しないとね」
アリス・マーガトロイド :
ぱちん、と指を再び鳴らせばふよふよと人形がどこからか紙を持ってくる。
アリス・マーガトロイド :
「……いーい?
この度この街で、ある儀式が行われるわ」
アリス・マーガトロイド :
「それは……“聖盃戦争”と呼ばれる儀式。
英霊たちを呼び出して、戦わせて、願いを叶える盃を満たす儀式」
サンポ・コースキ :
「それはそれは……剣呑な話です。
そういえば、僕の友人も何人か忙しそうにしていたような」
アリス・マーガトロイド :
「恐らく、聖盃戦争の影響でしょうね。
……私の目的は、まさにこれ」
サンポ・コースキ :
「叶えたい願いでもあるんですか?」
アリス・マーガトロイド :
「いいえ? そんなものに興味はないわ」
アリス・マーガトロイド :
「私が欲しいのは────」
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
「──“過程”よ」
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
「願いが叶うなんて、くだらない。
願いなんて自分で叶えられる範囲しか持たない方が良いのよ」
アリス・マーガトロイド :
「でも、願いを意地でも叶えたい存在の力は膨大だわ。
それこそ、あらゆる手段を問わない程にね」
アリス・マーガトロイド :
「だから──テストには打って付けだったの」
アリス・マーガトロイド :
「そんな本気の魔術師たちに勝った、となれば。
そんな負けたくない存在に負けなかったとなれば。
“そんな魔術を使えるのであれば”!」
アリス・マーガトロイド :
「それは紛れもなく、素晴らしい魔術を作り上げられた……
そういう事だって思わない?」
サンポ・コースキ :
その言葉を聞いて、しばし思案したかのような仕草を見せて。
サンポ・コースキ :
何を考えているかなど少女にわかったものではない。
わかる気なんて欠片もない。
サンポ・コースキ :
しかし、それが。
サンポ・コースキ :
自身にとって“悪いもの”ではない、と察するにはあまり時間は掛からなかった。
サンポ・コースキ :
「それは、それは………僕もとても素晴らしい事に思います。
偉大な技術にはデモンストレーションが付き物です。
どんなに素晴らしいものも、見せる場が無くては意味がない!」
アリス・マーガトロイド :
「でしょう、でしょう!」
サンポ・コースキ :
「ですが、お嬢さん。
素晴らしい技術に、あと一つ欠けているものがあります」
アリス・マーガトロイド :
「……へ?」
サンポ・コースキ :
「大丈夫です、お嬢さん。
このサンポ・コースキ……」
サンポ・コースキ :
「“それ”を得ることに関して、右に出る者はおりませんとも。」
:
:
サンポ・コースキ :
──その夜。
男は少女に、魔術の世界の常識を叩きこまれていた。
サンポ・コースキ :
神秘の技術は秘匿が常識だの、魔術は誰彼構わず使えるものではないだの。
サンポ・コースキ :
「では、聞きますが……それじゃあ僕は首を突っ込む余地なんてありはしないのでは?」
サンポ・コースキ :
男はこの通り、神秘の世界に触れずして生きてきた。
サンポ・コースキ :
そういった才も無く、強いていうなら口八丁の才はあるが。
アリス・マーガトロイド :
「大丈夫よ。だってあなた、私の事が“見えた”でしょう?」
アリス・マーガトロイド :
「……本当に才能も何もない普通の人じゃ、“私”を見る事すら叶わない」
アリス・マーガトロイド :
人形を手に取って、優しく撫でて。
アリス・マーガトロイド :
「だって、おかしいと思わない?
普通の恰好と違う子が、こんなに大きな人形を連れ歩いていて……」
アリス・マーガトロイド :
「しかも、その人形は明らかに……」
アリス・マーガトロイド :
「普通じゃ」
アリス・マーガトロイド :
「ない」
アリス・マーガトロイド :
「……にも関わらず、私は気にも留められなかった。
あなた以外にはね」
アリス・マーガトロイド :
「これも魔術。神秘の素養が無いものを遠ざける魔術。
言うなれば、ふるいのようなものよ。
最低限、この程度は見破ってもらえないといけないの」
サンポ・コースキ :
成程、成程。
言われてみれば確かにそうだと頷いて。
サンポ・コースキ :
「ああ、でしたら。僕はその最低限のお眼鏡に適った……と!
ああ~嬉しい限りですね。お嬢さんのような素晴らしい魔術師に認められるなんて」
アリス・マーガトロイド :
「最低も最低、ギリギリ達成ラインよ」
サンポ・コースキ :
「手厳しい」
アリス・マーガトロイド :
「ともかく……時間が足りないの。
でも、何とかできる余地はあるわ」
サンポ・コースキ :
「おおっ!流石素晴らしき魔術師!」
アリス・マーガトロイド :
「まったく、調子良いんだから……」
アリス・マーガトロイド :
──本来、アリス・マーガトロイドは一人で参戦する事も叶う程の魔術師である。
アリス・マーガトロイド :
しかし、彼女は今、男を利用し“二人”でこの戦場へと乗り込もうと目論んでいる。
アリス・マーガトロイド :
その理由は──。
:
:
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
──草木はまだ眠らない。人々はまだ眠らない。
太陽のみが眠る時間。
アリス・マーガトロイド :
「……で? 一体何をしようって言うの?」
サンポ・コースキ :
人気のない屋外に、男と少女は立っていた。
サンポ・コースキ :
「“欠けているもの”。……以前、お嬢さんにそう言ったものを覚えています?」
アリス・マーガトロイド :
「ああ……何か言っていたわね。
素晴らしい技術のデモンストレーション。
でもそれだけじゃ足りない……って」
サンポ・コースキ :
「……そう! 素晴らしい技術、そしてそのお披露目……
そうなれば、あと1つ必要なものがあります!」
アリス・マーガトロイド :
「それは、一体……」
サンポ・コースキ :
「“宣伝”、ですよ」
サンポ・コースキ :
「どんなに優れた技術も、それを見せたとしても。
それを“見る人”がいなければ……広まりようがありません」
サンポ・コースキ :
「人形使いのお嬢さん。
貴女は、この戦争を“過程”とおっしゃいました。
そして、最後に得るものにも興味がないと」
アリス・マーガトロイド :
「え、ええ……そうだけど。
この戦いに勝って、実力を証明すれば私はそれでいいわ」
サンポ・コースキ :
「だったら!
……違う勝ち方を模索してみませんか?」
アリス・マーガトロイド :
「違う……勝ち方?
何よそれ。戦いに勝って生き残る以外に、何かあるの?」
サンポ・コースキ :
「ありますとも。それこそ、お嬢さんの目的は技術の喧伝です。
でしたら……そう!」
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
「見ていらっしゃるのでしょう、参加者様がた!」
サンポ・コースキ :
「これよりご覧にいれまするは、我らが魔術師の最高傑作のプロモーション!」
サンポ・コースキ :
アリス・マーガトロイド :
《七色の人形遣い》パッシブ
朝、行動と同時に人形作成を行える。
魔力を1000消費することで人形を1つ入手する。この時、交換できる上限はないが1日に1回しか行えない。
人形は以下の効果を持ち、効果を使うとその個数だけ消費される。一度に使用できる上限はない。
また、人形は他人に譲渡することができる。
人形はリソースとして扱われ、宝具としては扱われない(封印、貫通などの効果を受けない)。
人形1個
・好きなタイミングで自分の魔力、耐久、与えるダメージ、受けるダメージのいずれかを±100する。ダメージはそれらが発生するタイミングで合算されるものとして扱う。
・攻撃・宝具の対象を+1体する。
・弱体・封印状態を解除する。
・狙撃、トラップを回避する。
人形2個
・好きなタイミングで任意のキャラクターの「逃走」の値を+1する。
・好きなタイミングで任意のキャラクターの「負傷」の値を-1する。
人形3個
・好きなタイミングで任意のキャラクターの「逃走」の値を-1する。
・耐久が0以下になるダメージを受けた時、そのダメージを0にする。
サンポ・コースキ :
アリス・マーガトロイド :
「………」
アリス・マーガトロイド :
「な、なな、な」
アリス・マーガトロイド :
「何してんのよアナタァ~~~~!!!???」
サンポ・コースキ :
「あっははは、もちろんこれだけではありません!」
サンポ・コースキ :
「皆々様方ご注目。……“人形は他人に譲渡することができる”。
つまり、ええ。皆さまも人形を受け取れば恩恵に肖る事が出来るという事!」
サンポ・コースキ :
「つまり、我々は」
サンポ・コースキ :
「この人形を皆さまに販売いたします!」
アリス・マーガトロイド :
「ま、待ちなさいよ!?
販売ってどういう事!? 私、聞いてな……」
サンポ・コースキ :
「よい、しょっと」
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
◆人形価格表
1体:1500魔力
3体:4000魔力(500魔力off!)
5体:6000魔力(1500魔力off!)(オススメ!)
上記個数以外の受付も行っております。
お気軽にご提案ください。
◆永続割引キャンペーン
セルフギアスクロール『アリス陣営と敵対しない』を結んで頂けた方に限り
永続的に1日1回、人形1体分1000魔力でご提供させていただきます(2体以上ご購入の場合は1000+(割引込みの本来の価格)魔力となります)。
◆注意事項
人形の作成は朝行動となります。
その為一律で受け取りは翌日朝となります。
また、処理の混乱を招かない為に受注受付は朝は行っておりません。併せてご了承ください。
◆受注受付期間
毎日昼~夜終了時まで
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
「これでよし。……お嬢さん。貴女が考えるよりも、貴女の魔術の価値は高い」
サンポ・コースキ :
「何てったって“金になる”。
シンプルに強い力は数多くあれど、商売に出来る力はより一等上等になります」
サンポ・コースキ :
「……数多の魔術師に必要とされ、最後まで生き残る。
それも立派な、勝利の形と言えませんか?」
アリス・マーガトロイド :
「へ……減らず口を……!!」
アリス・マーガトロイド :
わなわなと男の胸倉を数度叩く。
しかし、当然少女と男、その体格差は歴然である。
ぺちぺちと何度叩いた所でビクともしない。
アリス・マーガトロイド :
「…………ああ、もう!
折角の戦術が全部パァだわ……」
サンポ・コースキ :
「いえいえすみません、すみません。
ですが、こちらの方がより安全にお嬢さんの目的を達成できる事かと」
アリス・マーガトロイド :
「…………それはそう、としか言えないのもまた、腹立たしいわ!」
アリス・マーガトロイド :
「まったく、もう……!
いい! あなたが好き勝手するのは、これが最後!」
アリス・マーガトロイド :
「以降は私の方針に従ってもらうから! いいわね!」
サンポ・コースキ :
「あらららら……そんなに怒らないでくださいよぉ~」
サンポ・コースキ :
「……夜のティータイム、スコーンとケーキどちらがお好みですか?」
アリス・マーガトロイド :
「………………ジャムはたっぷりあるんでしょうね?」
サンポ・コースキ :
「勿論です!」
アリス・マーガトロイド :
「……スコーン。焼きたての奴」
サンポ・コースキ :
「仰せのままに、お嬢さん」
:
:
アリス・マーガトロイド :
「…………あの面霊気も来ていたのね」
アリス・マーガトロイド :
さくさくとスコーンを食みながら、人形の調べた情報をまとめて。
……あれだけ目立つチラシも早々無いだろう。
サンポ・コースキ :
「メンレーキ?」
アリス・マーガトロイド :
「妖怪よ。付喪神のようなものの、お面版って所ね」
アリス・マーガトロイド :
二つ目のスコーンに手を伸ばしながら、ジャムを紅茶に溶かす。
アリス・マーガトロイド :
「妖怪寺の住職に、最近現れた仙人に……。
あいつ、変なのに目を掛けられてる印象だったから。
こうして外に平気な顔で出てくるのは意外ね」
サンポ・コースキ :
「そちらの事情はよくはわかりませんが……。
素敵なお友達に恵まれている事は大変よくわかりました」
アリス・マーガトロイド :
「私はあんまり関わり合いになりたくないけどねー。
縁の深さは因果の深さ。シガラミも当然深くなるってものよ」
アリス・マーガトロイド :
「というか……ううん、ライブ?をやるですって?」
サンポ・コースキ :
「ライブ?」
アリス・マーガトロイド :
「能楽かぶれなのは風の噂で聞いたけれど……。
外の世界で何やらかそうってのかしら。
流石に、やる事によってはあのスキマ妖怪が黙っていなさそうだけど」
サンポ・コースキ :
「そうですね~。僕としましては……出来るだけ“楽しい”ものになる事を祈る他ありませんね」
サンポ・コースキ :
そうして、何もつけずにスコーンを口にした。
サンポ・コースキ :
夜のティーブレイクは、まだまだ続く。
:
:
アリス・マーガトロイド :
「……ねえ。どうして私たちが“魔法”って言葉を使わないかわかる?」
アリス・マーガトロイド :
夕暮れ時。日がすっかりと暮れ、空が蒼暗く染まり出したころ。
少女は人形の服を縫いながら男に問いかける。
サンポ・コースキ :
「そういえば、お嬢さんが自己紹介する時言い換えていましたね」
アリス・マーガトロイド :
「アンタ、そういう所は目敏いのね。
……私たちの棲む世界なら、そんなくだらない隔たりは無いのだけれど」
アリス・マーガトロイド :
「外の世界で、“説明の出来ないこと”、即ち“神秘”は失われつつある。
……魔法は本来、説明も代替も利かないはずのものなの」
アリス・マーガトロイド :
「でもね。この世界で、出来事は陳腐になり下がった。
考えてもみて。火を起こす、なんて昔は奇跡だったのに、今じゃ誰でも当たり前の事よ」
アリス・マーガトロイド :
「陳腐になり下がった奇跡。それを人は、魔術と呼ぶようになった。
幻想の消えゆくこの世界で、それでも抗おうとしている」
サンポ・コースキ :
「御伽噺のような話ですが……何となく、掴めてきましたよ。
方法が見つかったものが魔術と言うなら、未だ魔法であるものは──」
アリス・マーガトロイド :
「……そう。陳腐に成り下がっていない、方法がそれしか見つかっていない、人智を超えた奇跡。」
アリス・マーガトロイド :
「それが、この世界の魔法なの」
アリス・マーガトロイド :
「“幻想郷”(わたしたちのせかい)では、そんな区別も無いのだけれどね。
どんなものも、等しく幻想。幻想を介して起こしているものに、区別をつける必要がある?」
アリス・マーガトロイド :
そうして、服が縫い終わった人形がふわりと宙を舞う。
アリス・マーガトロイド :
「……まあ、それはさておき。
だからこそ、この世界で“魔法使い”なんて名乗るような輩がいたら用心しなさい」
アリス・マーガトロイド :
「とんでもないペテン師か、とんでもない異常者か。
その二択しか存在しないわ」
サンポ・コースキ :
わぁ、とその“奇跡”に目を輝かせながら。
サンポ・コースキ :
「承知しました、お嬢さん。……いやはや、素人同然の僕にこんなに丁寧に説明してくれるなんて、流石お優しいお嬢さんだ!」
アリス・マーガトロイド :
「はいはい。……じゃあ、そんな素敵な私にちゃんとお礼は用意してるんでしょうね?」
サンポ・コースキ :
軽く鼻から息を吐きながら、にこやかに。
サンポ・コースキ :
「本日は苺のタルトをご用意しておりますとも」
アリス・マーガトロイド :
「それでよし」
:
:
アリス・マーガトロイド :
「そういえば思ったのだけれど」
サンポ・コースキ :
「はい」
アリス・マーガトロイド :
「この街、ちょっと方針見直した方が良いんじゃない?」
サンポ・コースキ :
「はい?」
アリス・マーガトロイド :
「だって、見なさいよ」
アリス・マーガトロイド :
指を指す。
アリス・マーガトロイド :
「あんなおかしな塔がランドマークなんて、趣味悪いわ」
サンポ・コースキ :
「……」
サンポ・コースキ :
「なんでしょうアレ」
アリス・マーガトロイド :
「えっ」
サンポ・コースキ :
「僕も知らないですね、アレ」
アリス・マーガトロイド :
「じゃあ何なのよアレ」
サンポ・コースキ :
「何なんでしょうねアレ」
:
:
アリス・マーガトロイド :
「術式、準備良し。人形、準備良し」
アリス・マーガトロイド :
──拠点にて、少女は魔術を張り巡らせる。
アリス・マーガトロイド :
「ふぅ……これで良し。
来る本番も憂いなしね」
サンポ・コースキ :
「手早いものですねえ。
僕なんて、まだ実感が湧いてませんよ~」
サンポ・コースキ :
──拠点にて、男は変わらず寛いでいる。
アリス・マーガトロイド :
「こういうのは実際に始まらないと実感もへったくれもないわよ」
アリス・マーガトロイド :
くるりとスカートをたなびかせ、少女は男へと向き直る。
アリス・マーガトロイド :
「………ねえ」
サンポ・コースキ :
「ん? どうかなさいました?
何か準備すべきものでも増えてしまいましたか?」
アリス・マーガトロイド :
「違うわよ。
……あなたの事。」
サンポ・コースキ :
「僕? 確かに僕はまだ、心の準備も作戦の準備も出来ていませんが」
アリス・マーガトロイド :
「そうじゃないわよ!」
アリス・マーガトロイド :
「あなた……本当に良いの?
ここから先、後戻りは出来ないわ。
……契約を破棄するなら今よ」
アリス・マーガトロイド :
「下手をすれば死ぬかもしれない。
だってあなたは、私とは違うもの。
私も、あなたの面倒は見きれないの」
アリス・マーガトロイド :
そう言いながら、少女は片手を出す。
何も「しるし」の無い、真っ白で真っ新な手を。
アリス・マーガトロイド :
「もし、やっぱり命が惜しいなら。
もし、やっぱり引き返したいのなら。
この手を握って、『契約を破棄する』って言って。」
アリス・マーガトロイド :
「私はそれを止めはしないわ。
最初から、私一人で踊るつもりだったもの。
元通りに戻るだけ。」
サンポ・コースキ :
「……」
サンポ・コースキ :
男はほんの僅かに逡巡する仕草を見せたかと思えば。
サンポ・コースキ :
「では、お嬢さん」
サンポ・コースキ :
少女の華奢な手を取って。
力を込めてしまえば折れてしまいそうな、細く嫋やかなそれを包み込んで。
アリス・マーガトロイド :
ぴくり、と跳ねる。
アリス・マーガトロイド :
──ああ、やはり。
サンポ・コースキ :
──すう、と息を吸って、紡がれた言葉は。
サンポ・コースキ :
「──契約」
サンポ・コースキ :
「“続行”します」
アリス・マーガトロイド :
「っ、え?」
サンポ・コースキ :
「………ふふふ」
サンポ・コースキ :
「あっはは、そんな顔なさらないでください!」
サンポ・コースキ :
「命あっての物種。しかし、スリル無くして利益は得られません」
サンポ・コースキ :
「僕が望む先の利益。そこに、命を懸けるだけのリスクがあるだけですよ」
アリス・マーガトロイド :
しばし、言葉にぽかんと呆気に取られて。
……本当に何を言っているのだ。この男は!
アリス・マーガトロイド :
「ば、ば……バカじゃないの!?
商人を名乗るくらいなら、ちゃんと自身が生きてないとダメでしょう!?」
サンポ・コースキ :
「あーん。そんな怖い顔もなさらないで。
お嬢さんに似合うのは、どんな時でも余裕の笑顔です」
サンポ・コースキ :
「もちろん、それは重々承知の上ですよ。
ですが、僕はこう思ったんです」
サンポ・コースキ :
「“お嬢さんと一緒なら大丈夫だ”……ってね?」
アリス・マーガトロイド :
「なによ……それ…………」
アリス・マーガトロイド :
驚きやら、怒りやら、困惑やら、呆れやら。
様々な感情が掻き回され、ぐちゃぐちゃのひとつになる。
アリス・マーガトロイド :
自分は今、何を感じているのだろう。
わかるのは、この味を一気に飲み干す事なんて出来ないことくらい。
アリス・マーガトロイド :
……でも、それを彼が選んだのなら。
アリス・マーガトロイド :
「……………わけわかんない」
アリス・マーガトロイド :
ただそう呟いて。
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
──魔力を込める。
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
それは自身と彼を繋げる“糸”。
“主人”と“従者”を繋ぐ“きずな”。
サンポ・コースキ :
それは“しるし”となって、男の手へと浮き上がる。
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
「……これは。お話に聞いていた、マスターの証である……」
アリス・マーガトロイド :
「そ。令呪よ。今までは他の勢力に勘付かれるのが嫌で契約していなかったけれど……」
アリス・マーガトロイド :
「……あなたがそこまで言うなら仕方ないわね。
認めてあげる」
アリス・マーガトロイド :
「私は、アリス・マーガトロイド。
此度の戦争、“魔女”の名を借りて参戦するわ」
アリス・マーガトロイド :
「私の隣で、無様な踊りは見せないで頂戴ね。
“相方”(マスター)?」
サンポ・コースキ :
「当然ですとも。可憐で都会派のお嬢さんに恥をかかせるなど、紳士の風上にも置けませんから」
サンポ・コースキ :
「僕は隣で、支え抜いてみせましょうとも。
“お姫様”(アリス)。」
:
──さあ、幕は上がる。
舞台に上がれば、もう引き返せない。
:
今宵の役者は若き二人。
片や夢を夢見る可憐な少女。
片や夢を語り騙る疑心の男。
:
歌い語るは──しばしお待ちを。
:
:
:
アリス・マーガトロイド :
「……帰り道どこ?」
サンポ・コースキ :
「……」
アリス・マーガトロイド :
「……」
アリス・マーガトロイド :
「……詰んだ!!!!」
:
:
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
「さぁて、お嬢さん。やりたい事は決まりましたか?」
サンポ・コースキ :
退却後、ひとまず一息つく為に入った喫茶店にて男は問う。
サンポ・コースキ :
からからとアイスコーヒーの氷をかき混ぜながら。
アリス・マーガトロイド :
「やりたい事も、なにも……。
私のやる事は最初から変わってないわよ」
アリス・マーガトロイド :
そう言いながら、苺の乗ったパフェの少し溶け始めたクリームを掬い取って口へ運ぶ。
アリス・マーガトロイド :
「この戦争で、自分の力を見せつける。
それだけ。最初から、最後まで」
サンポ・コースキ :
「……んふふ。に、しては」
サンポ・コースキ :
「お嬢さん、最近自分の意思で動いておりますね」
アリス・マーガトロイド :
「あら、悪い?」
サンポ・コースキ :
──からん。溶けた音が、響く。
サンポ・コースキ :
「いいえ、ちっとも。
ですが……お嬢さん、貴女が積極的に動いた事で」
サンポ・コースキ :
「貴女の望みは既に“叶っている”んですよ?」
アリス・マーガトロイド :
「………」
アリス・マーガトロイド :
スプーンを奥へと沈める。
かしゃり、フレークの崩れる音。
サンポ・コースキ :
「お客さんが実際に使用してくれて、
しかも自分自身でも大いにその力を見せつけて」
サンポ・コースキ :
「デモンストレーションは既に満点、天井を叩きました」
サンポ・コースキ :
「なのに」
サンポ・コースキ :
「何故、まだこの戦場に居るのですか?」
アリス・マーガトロイド :
「……………」
アリス・マーガトロイド :
「それは……………」
アリス・マーガトロイド :
言葉に詰まる。
サンポ・コースキ :
「僕も目的を果たしました。
立派な立派な、“友”が出来ましたので」
サンポ・コースキ :
「では、我々の陣営は──」
サンポ・コースキ :
「既に居る意味がない」
アリス・マーガトロイド :
「……」
アリス・マーガトロイド :
「じゃあ、逆に聞くわ」
アリス・マーガトロイド :
先の割れたスプーンで、さくりと苺を刺した。
アリス・マーガトロイド :
「まだ利益の見込める場で、それをみすみす手放すのは」
アリス・マーガトロイド :
「商人失格じゃなくって?」
サンポ・コースキ :
「………」
サンポ・コースキ :
「言うようになったじゃないですか。お嬢さん」
アリス・マーガトロイド :
ふふん。苺をぱくりと一口。
アリス・マーガトロイド :
「それに、ね。
私こう見えても負けず嫌いなの」
アリス・マーガトロイド :
「自分が勝つ事を信じて疑わない、自分が負ける事なんて欠片も思っていない、そんな陣営……鼻を明かしたくならない?」
サンポ・コースキ :
「意外ですねぇ」
サンポ・コースキ :
「……まぁ、同感ではありますが」
アリス・マーガトロイド :
「理想の為とか何だか知らないけど!」
アリス・マーガトロイド :
「地に伏せた事が無い奴の言う事なんて、信じられないのよ」
サンポ・コースキ :
「……」
サンポ・コースキ :
本命はこちら、と。
サンポ・コースキ :
成程成程、頷きながらコーヒーを飲む。
サンポ・コースキ :
「(彼の言う事が本当なら、地には一度は伏せているんじゃあないでしょうかね…)」
サンポ・コースキ :
と、いうのは呑み込んで。
サンポ・コースキ :
「…………では、ではでは」
サンポ・コースキ :
「我々のデモンストレーションの終着点はそこにしましょうか」
サンポ・コースキ :
「未来より出でる、妄執の産物。
大和の国が叡智の結晶」
サンポ・コースキ :
「最先端と最先端。勝ち残れば見事な“成果”になる事でしょうとも」
アリス・マーガトロイド :
「……ええ。未来の技術に勝ったとなれば、相当な成果だわ」
アリス・マーガトロイド :
「“相方”(マスター)」
アリス・マーガトロイド :
「最後まで、ついてきなさいよね」
サンポ・コースキ :
「勿論ですとも。お嬢さん」
:
:
サンポ・コースキ :
「……いやー」
サンポ・コースキ :
「大変な事になっちゃいましたね。お嬢さん」
アリス・マーガトロイド :
「二人ならやってくれるわ……。
絶対あのいけ好かないヤローを何とかしてくれるわよ」
サンポ・コースキ :
「……」
サンポ・コースキ :
「お嬢さん、何かありました?」
アリス・マーガトロイド :
「? 何かって?」
サンポ・コースキ :
「いやあ……確かに敵視こそしていたものの
エンジン急に入るなぁって……」
アリス・マーガトロイド :
「…………」
アリス・マーガトロイド :
「別に。私が勝手に恨み募らせて、勝手にぶつけてるだけよ」
アリス・マーガトロイド :
「…………脱落者を勝手に使われると、色々と困るの」
サンポ・コースキ :
「ふぅーん?
お嬢さんはその辺りの事、あまり気にしないタイプかと思いましたが」
アリス・マーガトロイド :
「別に良いでしょう? 乙女心は秋の空なのよ」
サンポ・コースキ :
「はいはい。じゃあ、そういう事にしておきましょう」
アリス・マーガトロイド :
「……はっ倒しなさい蓬、紗雪!
ボコボコにして再起不能にしちゃいなさい!!」
サンポ・コースキ :
「ここで屋台を開くのも……手かもしれませんね?」
:
:
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
アリス・マーガトロイド :
──聖盃へと至る少し前。
アリス・マーガトロイド :
「じゃ、私はここまでね」
サンポ・コースキ :
「おや、良いんですか?」
アリス・マーガトロイド :
「ええ。私の目的はもう果たしたし……
ここまで至れた、それで十分よ」
アリス・マーガトロイド :
「これ以上は蛇足よ、蛇足」
サンポ・コースキ :
「そういうものなんですかねぇ~……」
サンポ・コースキ :
「……ま、それならここでお別れですねお嬢さん」
アリス・マーガトロイド :
「そうね。…………………まあ」
アリス・マーガトロイド :
「貴方との日々は……トラブルばっかりで、安心出来た時が一度も無かったけれど」
アリス・マーガトロイド :
「二度と体験できないような体験ばっかりだったわ」
アリス・マーガトロイド :
「………………楽しかったわよ」
アリス・マーガトロイド :
「さようなら、マスター」
:
:
男が振り向けば、少女の姿はもうどこにも無い。
:
まるで一夜の夢かのように、どこにもなにも残っていない。
:
───いいや、ただ1つ。
:
男の懐に残った人形ひとつ。
:
それだけは確かに、残っていた。
:
サンポ・コースキ :
「…………」
サンポ・コースキ :
「やれやれ、こちらの言葉を待たずに消えるとは」
サンポ・コースキ :
「随分とせっかちなお嬢さんですよ」
サンポ・コースキ :
「都会派と言うには少々お転婆が過ぎる、台風のようなお嬢さん」
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
「……楽しかったですよ」
サンポ・コースキ :
「さようなら、アリスさん」
:
:
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
──帰路について少しして。
サンポ・コースキ :
男は最強の男に口を開く。
サンポ・コースキ :
「そういえば……例の最終決戦、どこまで見てました?」
サンポ・コースキ :
例の最終決戦。即ち、カグツチとの決戦について。
フォルテッシモ :
「アレか」
フォルテッシモ :
「全部に決まってるだろ全部に」
サンポ・コースキ :
「流石ぁ」
サンポ・コースキ :
「……じゃあ、彼の主張に関しても聞いていましたか」
フォルテッシモ :
空間操作、その能力の汎用性は限界を知らない。
あまりにも遠く離れた事象ですら視覚として、聴覚として捉えることもできるのだ
フォルテッシモ :
「まあな」
サンポ・コースキ :
かつ、と靴音を鳴らせば足を止める。
フォルテッシモ :
同じく、足を止めた数秒後に足を止める。
サンポ・コースキ :
「……アレなんですよねぇ。あの場ではお行儀よくしていましたが」
サンポ・コースキ :
「少々思う所がありましてね。あの問答は」
フォルテッシモ :
「と、言うと?」
フォルテッシモ :
珍しく、フォルテッシモはその発言が気になったのか。
続きを促す。
サンポ・コースキ :
「何と言いますかぁ……一市民、一般人代表として思ったんですが」
サンポ・コースキ :
「随分と、過保護だなあ、と思ったものです」
フォルテッシモ :
「ほーう、それはそれは……」
フォルテッシモ :
「俺と案外似た意見だな?」
サンポ・コースキ :
「おや。珍しい」
フォルテッシモ :
「いやいや、と言うのもだ」
フォルテッシモ :
「人間は転んで起き上がるから、何かと糧に出来るってのはよくある話で、俺もそれは認めている」
サンポ・コースキ :
ええ、と相槌ひとつ。
フォルテッシモ :
「だからこそ、痛い経験が起きない様になっちまったら、他は成長も何もあったもんじゃねーだろ、ってな?」
サンポ・コースキ :
「……ふふ。僕も同意見です」
サンポ・コースキ :
「痛みが無くして人は進めない。痛みを奪われた世界など……停滞しか生まない」
フォルテッシモ :
「1人だけ前に前に進んでもこれじゃあ他の全ては怠惰貪るだけだろーよ」
サンポ・コースキ :
「本当です。そんな世界で商売なんて成り立ちませんって」
フォルテッシモ :
「ハッハハハハハ!!違いねえ、そんな世界じゃ商売は成り立たねえ」
サンポ・コースキ :
「そう、そうですので……僕はあの方の意見に反対だったんですよねぇ」
フォルテッシモ :
「なるほど…な」
フォルテッシモ :
「一般人らしくねえな、普通なら痛みがないなど大歓迎だろうに」
サンポ・コースキ :
「ええ~? そんな事ありませんよ」
サンポ・コースキ :
いっぱんじん
「僕は紛れもなく、逸般人ですよ」
サンポ・コースキ :
──己が普通だと強く信じるものこそ、異常である。
サンポ・コースキ :
己を普通と信じて疑わない異常。
それこそが──サンポ・コースキという男だ。
フォルテッシモ :
そして、それと話すこの男フォルテッシモこそ。
どこまでも常識外の存在であり、自分をどこまでも最強と信じて疑わないものである。
フォルテッシモ :
「なるほどなるほど、イッパンジンらしかったな、確かに」
サンポ・コースキ :
「でしょ~う?」
サンポ・コースキ :
くすくすと笑って、再び足を動かし出す。
サンポ・コースキ :
「ま、彼らが勝てたから良いんですけれどね」
フォルテッシモ :
「違いねーな」
フォルテッシモ :
はっ、と鼻で笑い
そのままフォルテッシモも歩行を再開する
サンポ・コースキ :
二つの規格外は歩を進めていく。
日常に相応しくない存在であれど、日常へと潜っていく。
サンポ・コースキ :
──そうして、いずれまた、異常が欲された時に彼らは浮上するのだ。
サンポ・コースキ :
彼らのいるべき場所は、そこしか無いが故に。
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
夜は、何れ来るだろう。
サンポ・コースキ :
サンポ・コースキ :
:
:
:
夜。
魔法の森の奥深く。
:
静かな静かなその場所で、大地を揺るがす音がひとつ。
:
ずしん、と大きな音を立てて──夜に、その巨影は現れ出でた。
:
アリス・マーガトロイド :
「忘れてなんてやるもんですか」
アリス・マーガトロイド :
「こうして、私なりの形にして──ずっとずっと、覚えててあげるわ」
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:
皇帝特権取得済み
→忘却補正A
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