謎のマスター :
日も高いというのに、一人の男がフードを深く被り道を歩いている
謎のマスター :
その顔は見えないが、華奢な体格で
どうにも戦闘者と評することはできないが…
謎のマスター :
その男は、ここが戦場であると知りながらやってきた
謎のマスター :
「…はぁ」
謎のマスター :
「利益はあるにしても気乗りしないなぁ…街中で儀式とか、普通始めるかい?」
謎のマスター :
「積極的に巻き込むバカがいないなら良いんだけどさぁ…願いなんかの為に、よくやるよね」
謎のマスター :
命を懸けた闘争、なんて自分にとっては忌避すべき物の代表格だ
謎のマスター :
挙句、負けたら魂まで焼き尽くされるなんて冗談じゃない
謎のマスター :
「…今からでもここか──」
謎のマスター :
ふと、足を止める
謎のマスター :
やったらめたらに張り付けられたチラシが目に留まる、隣には興味深い情報が幾つもあったが…
まあそんな事は、男の視界から消え失せて…
謎のマスター :
「おお…!」
謎のマスター :
フードを脱ぎ捨てて、もっと
目に焼き付けるように
ルシード・グランセニック :
「この、少女は…! こんな歳の子が!? いや…細かい事は良い!」
ルシード・グランセニック :
「さあ!今すぐ準備だ! 待っていておくれ!」
ルシード・グランセニック :
男…ルシード……いや、変態のテンションはどこまでも跳ね上がり片っ端からチラシを回収して
許可をとって貼り直す
ルシード・グランセニック :
この男はルシード・グランセニック
いわゆるボンボンで、幼児性愛者で金持ち
現代社会の異物である
ルシード・グランセニック :
そんな彼は、意気揚々と駆けていく
シルヴァリオ ヴェンデッタ :
そんな彼の出身作品は、ご覧の通り
シルヴァリオ ヴェンデッタ :
さて、どうなるか……
どうせ碌な事になりはしないだろう
シルヴァリオ ヴェンデッタ :
…どれだけ陽気に駆けたところで
行く先は殺し合いのど真ん中だ
シルヴァリオ ヴェンデッタ :
ルシード・グランセニック :
おっと、忘れてた
ルシード・グランセニック :
スキル支援
礼装または陣地10or魔力1000をこのPCに引き渡す代わりに他陣営はランダムなスキルを獲得することが出来る
スキル種類決定の1d50→スキルランク決定の1d6となる
これで獲得できるスキルの数は3つまでであり、追加で獲得したい場合は獲得している3つの中から一つ選び捨てる必要がある
10回までタダで振り直しが可能
ルシード・グランセニック :
スキルがご用命なら、ぜひグランセニック商会にどうぞ!
お気に入りのお客さんには裏技も教えてあげるよ!
ルシード・グランセニック :
ルシード・グランセニック :
商人が居を構えるは、位置としては市外に当たる店先には目を惹く品々が並び
多くの人が冷やかし、購入などなどと…
ルシード・グランセニック :
市民が群衆となりて過ごす日常の中心点
そこに並ぶ洋風の家屋の一つ
ルシード・グランセニック :
「…そこには、恐ろしい魔術を操る魔法使いガー」
ルシード・グランセニック :
そこから腐った目で、行き交う人々を見渡していた
ルシード・グランセニック :
「はぁ…なんか情報を得る度にとんでもない奴が増えていくな…」
ルシード・グランセニック :
この男は商人、ルシード・グランセニック
現在、わざわざ結界を解き
迂闊にもある人物を招き入れた間抜けな男
ルシード・グランセニック :
「…そろそろ、かな」
:
コンコンと、その扉を叩く音がする
ルシード・グランセニック :
「どうぞ〜」
黒羽紗雪 :
「……お邪魔します」
扉を開け、礼儀正しく挨拶をするのは銀髪の少女
ルシード・グランセニック :
「…大したもてなしもできないが…ま、気軽にかけておくれ」
ルシード・グランセニック :
白銀の“マホウツカイ”……凄まじいサーヴァントを従えている
この世界の強者の一人…
ルシード・グランセニック :
…機嫌損ねたら死ぬかな、僕
黒羽紗雪 :
そんな男の気持ちなど全く知らず、あれやこれやと周囲を見渡し
そのまま従うように、椅子に座る
ルシード・グランセニック :
「で…僕らはマスター、願いの要領次第で命を取り合う仲なんだけど……」
ルシード・グランセニック :
「まずは、良く来てくれたね 礼を言うよ」
黒羽紗雪 :
「……そう」
黒羽紗雪 :
「……黒羽紗雪。そちらは?」
ルシード・グランセニック :
「僕はルシード、ルシード・グランセニック……アンタルヤ…は、まだないから、外国人って覚えておいてよ」
ルシード・グランセニック :
ソファーの上で手を組み
ルシード・グランセニック :
「チョコチョコ連絡とってた僕らが、こうして話すわけだけどさ」
ルシード・グランセニック :
「恐らく…始めにする話題は一つだよね」
ルシード・グランセニック :
人差し指を、天井に向かい伸ばし
ルシード・グランセニック :
1を型取り口を開く
ルシード・グランセニック :
「“願い”…だろ?」
ルシード・グランセニック :
指を収めて、さらに深くソファへと座り込む
ルシード・グランセニック :
落ち着きを保っているが、強者と面向かって話し合うことは やはり緊張は避けられず…
黒羽紗雪 :
「そうなる。少なくとも、この戦争で商人をやる以上、それとは無縁に見えたけど……違うのかな?」
ルシード・グランセニック :
「僕はサーヴァントを連れてるからね、どう考えたって標的にはなるさ」
ルシード・グランセニック :
「それに、お溢れにあやかれるなら。それはそれで美味い話になるだろう?」
黒羽紗雪 :
「……違いない」
黒羽紗雪 :
誰だってそう言うものは肖りたいものであるのは、重々承知しているのもあり。
ルシード・グランセニック :
「さて…僕の願いは、まあ普遍的でね」
ルシード・グランセニック :
「そこら中にありふれている、なんなら そこら辺を歩いてる方の大体が思うであろう事柄でね」
ルシード・グランセニック :
窓へ向かい手を翳し
ルシード・グランセニック :
「”愛しい人“の元へと帰ること」
ルシード・グランセニック :
空腹の家族を家に待たせた主婦
友人間での罰ゲームのようなもので、買い出しに走る青年
ルシード・グランセニック :
宝石店から飛び出して、指輪を手に駆けていくどこかの誰か…
ルシード・グランセニック :
皆、愛しい者に逢いたがっている
ルシード・グランセニック :
「ま、気取った言い方したけど、僕は元の世界に帰るってのが目的だ」
ルシード・グランセニック :
情動なんて無視して
簡潔に自身の願いを平に潰す
黒羽紗雪 :
「…………」
黒羽紗雪 :
その一言一言を、聞き入るように沈黙していた
黒羽紗雪 :
それは、少女にも当てはまるようなあまりにも普遍的なものであったからだろうか。
少女はどこか懐かしむように、その視線を商人の男に向けていたが
黒羽紗雪 :
「そう……ならば、それを願いにするならば。ある程度の助力は惜しまない」
ルシード・グランセニック :
「ありがたいね…ま、僕の”クライアント“の願いはどうか知らないけどさ…」
ルシード・グランセニック :
そいつは、いずれ紹介するよ と言い残して
ルシード・グランセニック :
「…で」
ルシード・グランセニック :
「君はどうなんだい? サユキ、世界征服とか目論んでそうには見えないけどさ」
黒羽紗雪 :
「…………まだ、わからない
少なくとも……そこまでスケールの大きいことを成すつもりはない」
ルシード・グランセニック :
「と、なると……」
ルシード・グランセニック :
「…まあ、健康とかその辺かい? 確かに君、細いし」
黒羽紗雪 :
余計なお世話だと言わんばかりに、眼を細めて睨み付ける
黒羽紗雪 :
「……今は、"疲れて"いる。ここは、少し窮屈」
黒羽紗雪 :
「この世界は……異端に厳しい。自分の理解できない事柄を、さも異常と判断して捲し立ててくる」
ルシード・グランセニック :
「…ま、そりゃ常だよね。わからない物は怖い以上。 恐れて逃げ惑うか、必死こいて争うか…」
ルシード・グランセニック :
「…僕にもまあ覚えはある」
最も、捲し立てるにも恐ろしすぎる相手だけれど
黒羽紗雪 :
「だから、少なくとも願いは今この段階では……満たされている」
黒羽紗雪 :
果たしてこの異常しか無い聖盃戦争、一体誰が異端や異常を糾弾する?
往来の魔術師とは一線を画した存在が大量に集まるこの場に、少なくとも追手となる魔術師は現れる事もない。
ルシード・グランセニック :
「”今は“満足かぁ…」
ルシード・グランセニック :
「…じゃ、この戦争が終わるとなると…君はどうするんだい?」
ルシード・グランセニック :
「サーヴァントは退去、魔術師は散り……とまあ、君の願う環境は消え去るわけだけど…」
黒羽紗雪 :
口をつぐんでいる。
黒羽紗雪 :
……その後など、そもそも考えてすらいなかったと言わんばかりに。
ルシード・グランセニック :
「ははは…ま、そんな参加者もいるか…」
ルシード・グランセニック :
そして、紗雪の言動を振り返った結果
湧いて出る疑問をぶつける
ルシード・グランセニック :
「そういえば、なんでよりにもよってここなんだい?」
ルシード・グランセニック :
「君みたいな奴が自然発生するわけでもないだろうし…人の子なら、家族もいるだろう?」
ルシード・グランセニック :
「そこなら、異常扱いはされないんじゃ…」
黒羽紗雪 :
「もういない」
ルシード・グランセニック :
「…あー」
ルシード・グランセニック :
気まずげに頭を下げて…
ルシード・グランセニック :
「悪かったね、自分が無頓着な分 他人の事情まで考え損なっていた」
黒羽紗雪 :
「別にいい」
黒羽紗雪 :
短くそう言い切る
他意はなく、そもそもそうやって悪意無しで気にかけてくれる人物も久しいのもあり。
黒羽紗雪 :
「……貴方が、この戦争の中でも信頼ができる人物である事は確認できた」
ルシード・グランセニック :
「そりゃどうも…」
ルシード・グランセニック :
「君は、どこかの誰かみたいに無愛想だけど、そう悪い奴ではなさそうだしね」
黒羽紗雪 :
「悪かったね」
少し嫌味ったらしく言葉を紡ぎ
そのまま咳払いをし
黒羽紗雪 :
「……商売の話をしたい」
ルシード・グランセニック :
「おっと、りょうかい」
黒羽紗雪 :
そのまま、無言で紙を数枚渡す
そこには未だ無いであろう情報も当然書き記されている
黒羽紗雪 :
だが、それよりも眼を引くであろうものは………
:
『小魚猫7匹分』
黒羽紗雪 :
などという、あまりにもこの場に似合わないようなもので曖昧な要求であった。
ルシード・グランセニック :
「……」
ルシード・グランセニック :
少し呆気に取られた後
ルシード・グランセニック :
「まいど、ありがとうございます」
ルシード・グランセニック :
注文通りの品を用意して
深く礼をした
黒羽紗雪 :
その言葉に、ほとんどと言って動かなかったその表情を緩ませて
黒羽紗雪 :
「ありがとう」
黒羽紗雪 :
受けとり
そう一言、告げて
黒羽紗雪 :
少女はその屋敷を後にした
ルシード・グランセニック :
「…わーりと普通の感じだったな」
ルシード・グランセニック :
行儀を崩し、肘を突きながらぼやく
ルシード・グランセニック :
なーんで、あんな感じに
普通の子ばっかり巻き込まれてるかなぁ…
ルシード・グランセニック :
深く、ため息を吐いて…
ルシード・グランセニック :
次の策を練るため、店を締めた
ルシード・グランセニック :
:
:
「この現象は……ふむ」
:
「些か、安全策に凝り過ぎたか」
:
声だけが響く闇の中で
異様な圧力を携えた声が響く
:
「解決は可能の様ではあるが…さて、次の策へと移るとしようか」
:
「…なあ?」
:
:
ある男がいた
:
その男は家族に恵まれた
:
家に恵まれて、友達に恵まれて
恋人さえもいたのだ
:
ところがある日、男は気づく
自分の中に、殺人衝動とも呼ぶべきそれが芽生えている事に
:
特に何の理由もなく
全くもって要因なく産まれたそれは、どうしようもなく堪え難い物だった
:
人の潰れた脳みそがみたい
ひしゃげた肢体から溢れる血を嗅ぎたい
:
この手で、老若男女問わずに殺して回りたい
:
そんな衝動を堪え…堪え…堪え続け
:
ある日男は諦めた
:
そして、どうせ殺すのなら
:
人気者になろうと思った
:
殺す時に涙を流して、仕方なかったと抱きしめる
:
或いは評判の悪い者を
ある時は正義の味方の振りをして
マルス-No.ε殺塵鬼 :
殺しの愉悦を味わい尽くすために
マルス-No.ε殺塵鬼 :
そして、ある日
異形となる前の男の人生は、優秀な軍人により終わりを告げる
マルス-No.ε殺塵鬼 :
そして…
カグツチ :
神に選ばれた
マルス-No.ε殺塵鬼 :
その後も一切変わりなく、殺戮を謳歌する
殺塵鬼 生まれてから一切揺らがない殺人衝動に身を任せながら、彼は駆ける
:
:
ならば、なぜ 彼は身内には
親族や、恋人には手を出さなかったのだろうか?
:
マルス-No.ε殺塵鬼 :
「なんて、締めをすれば 少しは良いやつに見えるかい?」
マルス-No.ε殺塵鬼 :
「ハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
マルス-No.ε殺塵鬼 :
ルシード・グランセニック :
「…全く、やってくれるよね」
ルシード・グランセニック :
「“君“の遺言のお陰で、僕らの陣営はほぼばーらばら……レディとも喧嘩別れだ」
ルシード・グランセニック :
溜め息を吐きながら、未だ動きのない棺に寄りかかり溜め息を吐く
ルシード・グランセニック :
本来であれば、ルシードにとって最も愛おしい者が居るはずの場所には
なんの因果か、敵陣営としか言いようのない関係のマスターが詰まっている
ルシード・グランセニック :
「…早く出ないと、今のうちにぶっ壊すよ?」
ルシード・グランセニック :
苛立ち混じりに毒の混じった言葉を溢すが
そんな度胸はない
ルシード・グランセニック :
なにより、わざわざ英雄達に貢献するのも…
ルシード・グランセニック :
だからといって、”彼ら“の言う事には頷けない
ルシード・グランセニック :
どっちつかずのまま、商人は棺の前で項垂れ続けた
ルシード・グランセニック :
「……もし」
ルシード・グランセニック :
「レディと戦う羽目になるなら、君のせいだぜ? 良い感じに寝てないで、早めに撤回してもらえないかな?」
ルシード・グランセニック :
「……はぁ」
ルシード・グランセニック :
憂鬱だ
ルシード・グランセニック :
友人のいる世界への道は遠のくばかりで
挙句に、正義の味方みたいな連中が相手
ルシード・グランセニック :
アサナカヨモギはいい奴だけど、僕と気が合うってタイプではなかったらしいし……
ルシード・グランセニック :
「…残りは、一つに夢中な連中でと」
ルシード・グランセニック :
「……半端者に、居場所はないや」
ルシード・グランセニック :
不貞腐れて、そのまま座り込む
ルシード・グランセニック :
自らの命を落とした場所
地下へと縛り付けられたまま、吟遊詩人は嘆きの琴を鳴らす
ルシード・グランセニック :
いずれ来る日に、彼にとっての役目を果たす為に
ルシード・グランセニック :
ルシード・グランセニック :
魔星の一人として、敵を穿つ為に
ルシード・グランセニック :
…好感が持てる者も、或いは
情けを向ける者にも
ルシード・グランセニック :
その運命を呪いながら
錬金術師はゆっくりと目を閉じた
ルシード・グランセニック :
カグツチ :
カグツチ :
振り返れば、見えなくなっているであろう程に
遠い記録へと刻まれた故郷
カグツチ :
この国を取り戻す為に、数百年……
そして、宿敵との聖戦の為 抗い一体どれほど過ぎただろうか?
カグツチ :
その日々が、報われる時が来た
カグツチ :
否
カグツチ :
報いとは、己が手で作り出す物
歩き続けた先にあるのではない、歩き続けた足跡こそが、その報いとなるのだ
カグツチ :
故にこそ、己は歩み続ける
その決意に一切の揺らぎはない…だが
カグツチ :
「吟遊詩人の件もある、一つか二つ程度は…安全策を取るとしよう」
カグツチ :
数百年後の未来である新西暦において
我らが運命を打ち砕いた者…我らの英雄譚が生み出した存在
カグツチ :
それらを構成するパーツを用意した以上
確率は低いが、同じ事が起こる可能性は捨て置けない
カグツチ :
フラスコに納められた恒星は
無数の可能性を演算し続けながら、大和の未来の為再び歩み始めた
カグツチ :
:
それは、遠い先の話
数百年後の未来か、或いは別の世界の話
:
その世界においては、核兵器の様な破壊兵器が珍しくも無く 迎撃手段もまた然り
:
それら最新兵器の競い合いが続く中
大和…日本の軍部は全く別のアプローチを考えだした
:
即ち、素手による敵基地の完全制圧である
:
アストラル
大和の開発した最新のエネルギー星辰体
それを原料として稼働する、空前絶後の超兵器の名を…
カグツチ :
迦具土神壱型といった
カグツチ :
そして、その最新兵器の登場を持って
大和の軍事的優位は確かとなる筈であったが──
カグツチ :
完成してから、瞬きをする間もなく
大和は大破壊により消失した
カグツチ :
そして、完成した具土神壱型は破損し
フラスコの中での活動を余儀なくされる
カグツチ :
そして、大和の国土と国民の大半は
高次元へと幽閉され、アマテラスと呼称される時空の大穴へと変貌した
カグツチ :
…そうして、迦具土神壱型の奮闘は始まった
カグツチ :
彼に課せられた命令は
”大和の防衛“その命令を果たす為に…愛すべき大和の民を救う為に 彼は不具の身でありながら
全力で前へと進み続ける
カグツチ :
新西暦の人類が感知できぬ通信回路
自身の在処を探らせない徹底した隠匿
そして、協力者の厳選の為の監視設備…
カグツチ :
その全てを、フラスコの内側から管理してみせるのは 旧西暦の遺産たるバイオコンピューター…
カグツチ :
そして何よりも、カグツチの執念が成し遂げた業であった
カグツチ :
カ ミ
『どうか、お堪えください大和よ。己は必ずや、貴方方を高次元の楔より解放致しましょう…!』
カグツチ :
全ては、大和の為に
クリストファー・ヴァルゼライド :
そして、彼は協力者として
己に匹敵する英雄…クリストファー・ヴァルゼライドと巡り合い…
:
自らが産んだ逆襲譚により
冥府の底へと引き摺り込まれる事になる
カグツチ :
だが、ただ果てる事など受け入れられない
カグツチ :
己の無力を心から嘆きながらも、せめて一人でも
大和の民を救う為に異能を行使する…だが
:
『不要也──任ヲ解コウ、桃源郷ハ此処ニアル』
カグツチ :
彼が全てを捧げた大和の国は
あっさりとそれを無用とした
カグツチ :
そうして、己の誤解、行動の無意味さ
暴走した機械でしかないという事実を突きつけられ 絶望の底へと堕ちる刹那──
:
『いいや、まだだ』
クリストファー・ヴァルゼライド :
雄々しき英雄は語る
クリストファー・ヴァルゼライド :
不要とされた……だからなんだという?
クリストファー・ヴァルゼライド :
自分が理想とする世界がある、自分が守りたいと願う誰かがいる
クリストファー・ヴァルゼライド :
だというのに、何故立ち止まるなどとできるだろう?
クリストファー・ヴァルゼライド :
前進しか知らぬ破綻者の言葉は…
カグツチ :
絶望に墜落するカグツチの心を、確かに繋ぎ止めた
クリストファー・ヴァルゼライド :
『決めたからこそ、果てなく征くのだ。それ以上の理由など我らにとっては必要ない』
カグツチ :
ああ、そうだった……そうだったな宿敵よ
カグツチ :
故に、これより命などは関係ない
そこに大和の幸せがあると心より信じるが故に……
カグツチ :
『己は、己の意思で大和を降ろしましょうぞ…!』
カグツチ :
雄々しく進んだその果てに、英雄との決戦が待っていることを望みながら
旧西暦の遺物は、一度はその世界より去ったのであった
カグツチ :
:
まったく、雄々しくて結構だ事
バカは死んでも…っていうのかしら?
:
さて…それじゃあ、ほんの少し
舞台を巻き戻して…
:
”あの娘“が起きた頃の話をしましょうか
:
:
そうして、舞台はルシードが去りし後の棺の前
:
そこには、一度は致命傷を負い倒れた者が眠りについている
:
だが、棺の蓋が落ち
揺り動かす様な動きで、棺が震え目覚めを促す
死想恋歌 :
『ね、貴女? そろそろ起きなさいな』
死想恋歌 :
『痛くて仕方ないかもしれないけど……心配してる子がいるんでしょ?』
黒羽紗雪 :
(…………あ…ああ……)
黒羽紗雪 :
致命を負いつつも生き延びたのは、特性か今この世界に起きている現象か。
或いは死に蘇生を果たしたのか。
死想恋歌 :
そして、その眼前には 張遼に宿し英雄と同じく幻影としての少女の姿が映る
黒羽紗雪 :
痛みを痛みと認識できる程度に回復し始めた少女の眼前には、映る幻影の少女が映る。
黒羽紗雪 :
(あな…た……は?)
死想恋歌 :
『随分ボロボロにされたわね、そういう所まで似てるのかしら……』
死想恋歌 :
『私はヴェンデッタ、貴女がまた、戦争に挑む羽目になる元凶よ』
黒羽紗雪 :
発せない言葉の代わりに、なんとか思考による会話を果たしつつ。
死想恋歌 :
ニコリと微笑みながら
サラリと自身をこき下ろし、棺の縁へ腰掛ける
黒羽紗雪 :
(また……戦争…に……)
死想恋歌 :
『そう、”彼“を置き去りにはできないでしょ?』
死想恋歌 :
『貴女がいなくなって寂しがってそうだし、早くこんな所から出た方が良いと思うけど?』
黒羽紗雪 :
(………………)
黒羽紗雪 :
本来ならば、ああそうだとすぐに肯定出来ただろう
黒羽紗雪 :
ただ、それを今成せないのはただ一つ。
紅い悪鬼が指摘したように、楔になってしまってるのではないかというものであった。
死想恋歌 :
『あら…? そんな事気にしてるの?』
死想恋歌 :
同一であるが故に、あっさりと心象を拾い上げた少女が微笑み 続ける
死想恋歌 :
『彼が、貴女みたいなのを見捨てられるタイプに見える?』
死想恋歌 :
この蘇生が通らないなら、通らないで
彼は単独で聖盃を目指すことは明白である筈
死想恋歌 :
ただでさえ、友との再会を願ったのだ
この様な別れ方なら、尚更にと…
死想恋歌 :
『彼の足を引くのが怖いのはわかるけれど、もう手遅れなんだから しっかりしなさいな』
死想恋歌 :
『貴女、彼のことを守るんでしょ?』
黒羽紗雪 :
(…………うん)
死想恋歌 :
『はい、良くできました』
死想恋歌 :
『疲れが引いたら、早く逃げて、アイツを驚かせてあげましょ?』
死想恋歌 :
カグツチは現在、現代の情報の整理しているのか棺には目を向けていない
死想恋歌 :
当然、襲撃に出れば魔星は殺到するだろうが…
逃げるというなら、容易だろう
黒羽紗雪 :
……ああ、そうだ。
これに関して、何を悩む必要があったのだろうか。
黒羽紗雪 :
一度決めた事を曲げるな。
ああ、こういった時はそれは正論なのだろうと……肯定と否定を交えてどこかで思いつつ。
黒羽紗雪 :
(──私は、麻中を……守る)
黒羽紗雪 :
(だから……力を、貸してくれる?)
死想恋歌 :
『ええ、もちろん』
死想恋歌 :
『戦争だから、逆襲譚とは呼べないけれど……カグツチを放ってはおけないしね』
死想恋歌 :
微笑みながら、そう告げて
黒羽紗雪 :
(……うん)
黒羽紗雪 :
同じく微笑み、祈るようにペンダントを握りしめて。
黒羽紗雪 :
棺の中の少女は、今度こそと。
:
その中から姿を消して、守りたいものがいる場へと向かうのであった。
:
:
カグツチ :
「さて、それでは」
カグツチ :
「一つ目の保険を使おうか」
カグツチ :
カグツチ :
「…ふむ」
カグツチ :
再試行を繰り返したが、紗雪に関しては完全に操作の域から外れてしまった
カグツチ :
「元より例外中の例外故、完全に手元に置けるとは思っていなかったが…」
カグツチ :
「なるほど、こうなるか」
カグツチ :
結果的にカグツチは、敵の陣営へと塩を送る形となってしまったわけで…
当然、対魔星兵器も野放しになっているのだが…
カグツチ :
カグツチは、笑みを浮かべる
カグツチ :
「素晴らしい、やはり愛とは凄まじい力を生み出す様だ」
カグツチ :
惜しむ気持ちがないわけでもないが
既にデータは取った、これ以上役割を課す訳でもない……頃合いであった…と受け止めよう
カグツチ :
己にとって想定外であったであろう事に
カグツチは全く怯まず、前進を続ける
カグツチ :
それは、言うまでもなく異常な事だ
カグツチ :
人は痛みを覚えれば怯み
脅威と捉えれば当然、動きこそ竦むもの
カグツチ :
最も、人であるならば…の話だが
カグツチ :
よって、人は武器を使い
それさえ足りぬと効率を求め。兵器を作った
カグツチ :
痛みを人から消し去り
効率的な殺戮を行うソレは、正しくカグツチの製造目的にも合致する
カグツチ :
本来は激しい痛みと傷が伴う格闘
それさえも兵器に任せた結果、兵器は期待通り
痛覚を備えながら、痛みを知らぬ怪物になる
カグツチ :
「さて…次だ」
カグツチ :
よって、何度砕けようとカグツチは止まらない
必ずや目的を成し遂げる
カグツチ :
それは、存在してから千の刻を超えても
この兵器が貫き続けてきた事なのだ
カグツチ :
一つ失敗した、敗北を認めざるを得ない
それでなお。妥協を知らずに突き進む
カグツチ :
「全ては、尊き大和の為」
カグツチ :
地下にて、太陽が胎動する
一度産み出されれば、全てを焼き尽くし
光を齎す恒星は、最後の時を待ち焦がれていた
カグツチ :
ルシード・グランセニック :
夜の街で、神妙な顔をした男は
一枚の看板を手に 扉の前に立つ
ルシード・グランセニック :
「…楽しかった、けれど」
ルシード・グランセニック :
「未練が残るといけないからね」
ルシード・グランセニック :
『閉店』
ルシード・グランセニック :
その札を扉にかけると…
ヘルメス-No.δ :
魔星が、そこに立っていた
:
それは、語り尽くすとすれば
あまりに遠い過去の話
:
かつて…否、未来における
大和と呼ばれた国にて造られた人形の話
:
そして…
:
その国の破滅の話
迦具土神壱型 :
迦具土神壱型 :
当時、大和の派遣は大雑把に分ければ
軍部と開発局の二面に分かれていた
迦具土神壱型 :
そして、人形は軍部の主導によって開発された個体だ
迦具土神壱型 :
自我が目覚めたその日から
その人形の中には、言葉にするには足らぬ炎が燃えていた
迦具土神壱型 :
指向性と呼べるものはその時にはなかった
迦具土神壱型 :
だが…それでも
:
彼の開発者たる者達は何かに怯えながらも
懸命に彼の躯体を作成し続けていた
:
彼こそが、大和の希望と信じるが故に
それを産み出す大業を身を削りながらも微笑みながら
:
『きっと、コイツならみんなの笑顔を守ってくれる……平和な時代がやっと来るんだ』
迦具土神壱型 :
”応えたい“その実感すら当時にはなく
ただプログラムであると認識していた場所
迦具土神壱型 :
心から、そう思えた
迦具土神壱型 :
……だが
:
唐突に大和を襲う激震と
大量に迫る核弾頭
:
客観的な評価を述べれば
カグツチは己にできる限りの最大限の努力を尽くした
:
ほぼ未覚醒の星辰操作
一切の情報把握がままならぬ状態での次元振への対応
:
そして、己の最も近くにいた
大和の民…産みの親たる科学者達の護衛
迦具土神壱型 :
結果、半壊こそしたものの
施設自体は完全破壊を逃れる事に成功した
カグツチの修復は不可であろうと、生命維持は可能であった
迦具土神壱型 :
そして、彼が最も重視した
大和の民は反動に耐えられず 一人として生き残りはしなかった
迦具土神壱型 :
アマテラス、そう呼ばれる場に
全ての民が招かれたわけではない
迦具土神壱型 :
高次元との限定的な接続を手にした者があれば
その反対に、ただ破壊されたカグツチの実例がある
迦具土神壱型 :
そして、決戦兵器たるカグツチの護衛があろうと
生身の人間が助かる確率が絶無に等しかった
迦具土神壱型 :
何もできぬまま瀕死の重傷を負い
己をフラスコに封じる他なき屈辱は、カグツチにある一つの執念とも呼ぶべき真実を芽生えさせる
迦具土神壱型 :
『悲劇が起こった後に、努力を重ねていればと悔やむ…そんな行為には何の意味もない』
迦具土神壱型 :
『必要とされるは確かな研鑽…どんな事態に陥ろうと、絶対の守護を確約する力』
迦具土神壱型 :
己の意思で進み続ける事
それが、何よりも重要だったのだ
迦具土神壱型 :
軍の計画よりも早く…否
例え兵器の身の上であろうが、己一人でも計画を成し遂げる その気概を今更に身に付けた
迦具土神壱型 :
『往ける者は、征くべきなのだ』
迦具土神壱型 :
誰よりも早く 光さえ超えて
この世の遍く闇へと光を捧げる者となろう
迦具土神壱型 :
全ては、大和の民の明日の為に
迦具土神壱型 :
迦具土神壱型 :
そうして、月日は流れ
カグツチは激闘の末に特異点へと追放された
迦具土神壱型 :
英雄との決戦の為に
大和を地へと降ろすために、覚醒と研鑽を繰り返す日々に、ノイズとも取れる信号が届く
:
本来なら無視していた筈のソレは
:
『救援ヲ求ム』
その一文は、彼が奉じる大和の危機を知らせる物であった
:
”神祖“と呼称される大和の民の生き残り
それらが起こした異変は、高次元における大和の国を呑む程の規模であった
:
名を、“神天地”遍く平行世界を作り出し
理想の世界を割り振る……いわば、世界の完成系
:
その謀略の中で、大和の果てたるアマテラスは半壊寸前の状況にあったのだ
迦具土神壱型 :
そして、混乱の中で大和の守護者たるカグツチへ
必死に信号を送ったのだろう
迦具土神壱型 :
千年もの間、見て見ぬ振りを貫き
その挙げ句に用済みと切り捨てた相手へと…だが
迦具土神壱型 :
彼の決断は早かった
迦具土神壱型 :
己の特権、天奏が重しとなると察するや否や
自分自身を因果諸共に両断する事で接続を脱すると、そのまま決戦の場へと突撃した
迦具土神壱型 :
そして……
迦具土神壱型 :
元凶と思わしき者へ迷わず突貫した結果
その場にいた、同目的の者との共闘の末
その決戦の結果は、カグツチと神祖の共倒れという結果に落ち着いた
迦具土神壱型 :
そして、ここからが問題だった
迦具土神壱型 :
平行世界へと根を伸ばす神天地の影響か
或いは、彼の望みを残滓たる世界が聞き届けたのか
迦具土神壱型 :
彼は唐突にこの街の地下空洞へと出現した
迦具土神壱型 :
状況の把握、対処方法の思索
それを尽くした結果、判明した驚嘆すべき事実
迦具土神壱型 :
嗚呼、そうだとも これこそ
新西暦において土すら残らずに消え失せた彼の故郷
迦具土神壱型 :
安泰を保つ日の本の国の姿であった
迦具土神壱型 :
彼は、これを啓示と受け取った
必ずや、今度こそ
迦具土神壱型 :
己は成し遂げてみせる
迦具土神壱型 :
守る為に 明日を齎すために
そう決断した光の奴隷は止まる術など一切知らず
迦具土神壱型 :
聖盃の舞台に乗じ
彼は魔星を揃えて、今回の戦争へと打って出た
迦具土神壱型 :
そうだとも、全ては
迦具土神壱型 :
カグツチ :
「大和の明日を、守るが為に」
カグツチ :
夕焼けに染まる空を、地下基地にて極秘に開発されたが故に、一度として踏み締める事の叶わなかった大和の地を踏みしめながら
カグツチ :
カグツチは、太陽さえも超える程の熱を
その心の内で燃え上がらせた
カグツチ :
:
『置き手紙』
ルシード・グランセニック :
『えーっと、これを読んでいるという事は…ってそりゃあ察しが付くか』
ルシード・グランセニック :
『ま、全部上手くいったか、大失敗したかのどっちかだ そして、どちらにしろ 僕にできる事はない』
ルシード・グランセニック :
『ま、悪い気分じゃないから いい結果に終わったんだと思う』
ルシード・グランセニック :
『レディは今の仲間がいる、ヨモギに特に何も言わなくても大丈夫…となると』
ルシード・グランセニック :
『コトネにこの手紙を送ることになるのかな?』
ルシード・グランセニック :
『…すまないね、どうにも胡乱な手紙で』
ルシード・グランセニック :
『勘弁しておくれ、僕はこの通りの……今の無し』
ルシード・グランセニック :
何か、ペンで塗りつぶした跡がある
塗りつぶされたのは自虐の言葉であると推察する事ができるだろう
ルシード・グランセニック :
『…そうだね、君に送る最後の言葉だから キザでも良いか』
ルシード・グランセニック :
『大丈夫だよ、僕は しぶといからさ』
ルシード・グランセニック :
『だから、安心して家にお帰り』
ルシード・グランセニック :
『君の仲間が、君の人生が』
ルシード・グランセニック :
『そして何よりも、君自身が君の明日を待っている』
ルシード・グランセニック :
『…気分も少し良くなったから、ここまでだ』
ルシード・グランセニック :
『さようなら、今度は魂なんて落とさない様に 死ぬなんて碌なもんじゃないぜ? マジでさ』
ルシード・グランセニック :
『あなたの親愛なる友人 ルシード・グランセニックより』
ルシード・グランセニック :