: この手紙を今君が読んでいるということは、まあ、そういうことなんだろうね。
  : 君にお願いがあるんだ。
  : 君を置いて一人いなくなる僕が遺せる言葉ではないだろう。こんなことを頼んだらどんなに僕を憎むことだろうかとも思うけど、聞いてくれ。
  : 確かに人の旅路の先に待つものは“絶対の終わり”だ。それは間違いない。
  : だけど、君がこんな形で終わりを迎えるなんて…僕は嫌だ。君の旅路はまだ続いていってほしいと僕は思う。
  : 剛毅のアルカナは示しただろう…? 避けようの無い窮状においてこそ、新たな道を探るチャンスがある事を。
  : そうさ、僕が今君に道を示そう。
  : "聖盃戦争を──"
  :  
  :  
  : 僕の説明でわかってくれたかな? 聡明な君ならきっとわかってくれたよね。
  : まあ、大事なのはここだけさ。『息も絶え絶えで死にかけている君に、英霊が力を貸すということ』あとは正直読まなくても良かったよ。
  : 君に力を貸す英霊は僕が呼んであげよう……
  : そのアルカナは示した…目標に向かって躍動するその力こそ人が命から得た可能性であることを──
  : 真っ暗な部屋に眩い光がひとしきり輝き、そして消えたあとには。
  : 東洋風の鎧を着た男が女を見下ろしていた。
汐見琴音 : 「あなたが私に力を貸してくれる英霊さんなんだね? よろしくぅ!」
: 「…娘御、お主に聞こう」
汐見琴音 : 「うん?なにかな?なんでも聞いてくれていいよ!これから一緒に闘う仲間だもんね!」
: 「此度の戦において、どう戦略をお主が立てているのか聞かせてもらおう」
汐見琴音 : 「ああ、えっとね。うーん…とりあえず消耗を避けつつ潜伏…かな?陣営の数が減ってきたら──」
: 「ならん」
: 男は顔を歪めて、話を遮った。
汐見琴音 : 「あー……えっと、ごめんなさい!」
汐見琴音 : 「卑怯かもしれないけど、この闘いに私の全てがかかっているから…どんな手を尽くしても私は勝ちたいの」
汐見琴音 : 「従ってくれないかな…? 今の私からあなたに差し出せるものはなにもないかもしれないけど、お願い」
汐見琴音 : 真っすぐに男の顔を見上げて、数秒見つめ合ったあとに頭を下げた。
: 「違うな」
: 「勝つためにあらゆる手を尽くすのは当然の道理。そこに異論をはさむような青さなど私にはない」
: 「私が言いたいのは、だ。具体的な戦略もなしに消耗を避けていては大局的には積む可能性が高いと言っているのだ」
: 「無論勝てる可能性はある。だが、それは他の陣営に知恵者が一人もいなければの話になるだろうな」
汐見琴音 : 男が戦いにこだわりを持つというよりもむしろ、勝利を追求するものだということを察し顔には喜色が浮かぶ。
汐見琴音 : 「あっ、そういうのね!? 私、よく分からないからお願いします!」
汐見琴音 : そうしてもう一度頭を下げた。
: 「あくまで主と従、最終的な決定権はお主にあるが」
: 「我らの武威を早々に示す」
汐見琴音 : 「えっ……あの……でも…そしたら消耗しちゃうし、敵も増えるんじゃないかな…?」
: 「確かにその可能性は高い。だが、勝利を目指すためにはなにをすればいいかわかるか?」
汐見琴音 : 「えっと……? 敵を倒す……? き、筋トレ!」
: 「……まあ、そうだ敵陣営より強くなればいい。この度の陣営がどれだけいるかは知らないが、いずれも強者ぞろいと聞いている。」
: 「最初にいずこかの将の首を落として力を示せ」
: 「此度の戦では各陣営が領地を有し名や領地が知られているわけではない」
: 「誰がこの戦に参加しているかも分からない段階で、目的の知れた実力者が名乗りを上げれば向こうから接触をしてくる可能性は十分にある」
: 「他の陣営が同盟を結ぶ前段階で合従し各個撃破。それが為せずとも複数の同盟同士で腰を据えて相争うのも悪くない」
: 「もしも、我らが目の敵にされ逆に合従軍に狙われるようならば遊撃戦に移行する」
: 「それこそ、我らの得意とするところでもあるからな」
汐見琴音 : 「はー…なんか…難しいけどわかった…かな?わかった、うん。」
汐見琴音 : (……ところで武人さんっぽいけどそういう知恵って合ってる…んだよね? 軍師とかインテリさんっぽくないけど…わかんないや)
汐見琴音 : 「躍動する生命っていうのは、んーとつまり、戦争の最初から最後までど真ん中で戦い抜く覚悟…だね」
: 「ああ、この戦でも降伏はあるようだが、それは相手が認めればのこと」
: 「本来ならばそれが受け入れられなくなりかねぬこうした策は正着ではないかもしれぬ」
: 「だがどうしてもこの戦での勝利が必要だというのならば、さもなくば死というなら、私はこの策を具申させてもらおう」
汐見琴音 : 「あー……うん、そうだね」
汐見琴音 : 「私は…自分が死にたくないからって、人の願いを踏みにじろうとするんだもんね。怯えはいらない」
汐見琴音 : 「みんなの元で安らかな死を迎える選択だって出来たんだから、どんな死を迎えてもそれは私が辿り着くべきだった旅路の終わり」
汐見琴音 : やや遅れて、今やっと彼女の身体に令呪が浮き上がる。
汐見琴音 : 「おお。これで私も魔術師…ってやつ…だね」
: 「そのようだ」
汐見琴音 : 「さ、行こうか。その策、受け容れたよ」
汐見琴音 : 魔術師のアルカナは示した。強い意志と努力こそが、唯一希望を掴む可能性であると──
汐見琴音 :  
汐見琴音 :  
張遼 : 「……」
汐見琴音 : 「ねえ、もしかして道に迷ってる?」
汐見琴音 : 「将軍様だよね?」
張遼 : 「……ここで野営を行う!」
汐見琴音 : 「ちゃんと諦められるのはえらいよ!」
張遼 : 「敵になり得るものの中にいるのを避けただけのこと。もとよりこのつもりであった」
汐見琴音 : 「ふ~ん???」
汐見琴音 : 「まあそういうことにしておいてあげましょう!」
:  
:  
:  
汐見琴音 : 私は、高台からその戦いをじっと見つめていた。
汐見琴音 : 張遼も失ったこの身では、カグツチさんの弱みにしかなれないから…
汐見琴音 : そして、ルシードさんの変わり果てた姿も見たくなかったから。
汐見琴音 : これはきっと、後者が私の本心。でも、それだと覚悟を決めたみんなに面目が立たないから言い訳にしてるだけ。わかってる。
汐見琴音 : それでも、貴き強き意思を持つ人々への、果たさねばならない責として。
汐見琴音 : 戦いにおいて何が起こっているのかなんて、これっぽっちも私には分からない。
汐見琴音 : ペルソナやシャドウによって引き起こされる力は……あそこまで強大になることなんてまず無いんだから、理解が及ばないのも仕方ないとは思っていた。
汐見琴音 : でも、きっと同じ。
汐見琴音 : 心の強さが力になるということは。
汐見琴音 : だから、あそこで戦っている人たちの心はすごく強いんだと感じた。
そしてその感じ方は間違っていないとも。
汐見琴音 : 熾烈極める戦いの中で、時が止まった。
汐見琴音 : カグツチさんと、みんなの願いが結集された巨人はしばし見つめ合った。そして二人の中で、絆が結ばれたのかな。
汐見琴音 : カグツチさんは麻中くんを……いや、麻中くんたちを大和の未来を背負うものとして認められたんだろうか。
汐見琴音 : それなら、私も満足!
汐見琴音 : 敵味方に分かれていたけれど、この戦いに参加して会えた人たちはみんな素敵だった。後悔はない。
汐見琴音 : いずれ訪れる死。それが与えた猶予期間はこのときのためにあったんだよ。
汐見琴音 : 私は高台に背を向けて、帰ろうとした。
汐見琴音 : 旧日本軍基地でもない、この街でもない、私の故郷へ。
汐見琴音 : ところがそのとき身体の中に充足感が漲った。
汐見琴音 : 生まれてきてから今日までずっと感じてきた虚脱感、魂を消費してからは動くことも厳しいほどの虚脱感。
汐見琴音 : それらを隠すため身に着けた空元気であったが…
汐見琴音 : もう、全てから解放されたと直感した。
汐見琴音 : なら…ルシードさんは…?
汐見琴音 : カグツチさんの力によるものだという確信と共に、感謝の気持ちよりなにより先に私の頭の中を占めたのはその一念だった。
汐見琴音 : 私はあてもなく、日輪の消えた空の下を駆けだした。
汐見琴音 :  
汐見琴音 :  
汐見琴音 :