:  
   :  
   : 月明かりと照明で照らし、星の輝きよりもそちらに目を取られるような都会
   : その中にある、ありふれたビルの屋上
黒羽紗雪 : 銀髪の少女が、街を俯瞰するように月明かりを背景に佇んでいる
黒羽紗雪 : 『……目標地点に到着。後は手筈通りにお願い』
黒羽紗雪 : 最新の携帯を片手に、連絡するその声だけが静寂に響く
黒羽紗雪 : 愛銃を二挺、手に取って
黒羽紗雪 : それをくるりと回し
黒羽紗雪 : 安寧を目的に、渦中へ自ら堕ちる矛盾を果たさんと
行動を開始した─────
   :  
   :  
   :   
   : 雨が降り、風が吹く夜の郊外
   : もはや使われなくなったであろう、廃墟のビルの屋上に
少女ともう1人、人影が
   : 本来では立ち入る事の出来ない場に人がいる事も確かだが、異常なのはその屋上での光景だろう
黒羽紗雪 : そこにいる2丁拳銃の少女も、眼前にいるもう1人も
何故かその衣服が揺れてすらおらず、濡れてもいない
黒羽紗雪 : 少女は何も語らず、眼前の人物も何も話はしない
周囲に自身の魔力結界を貼り、誰かしらは何かを監視しているのではないかと探知したからだろう。
黒羽紗雪 : そのズボンのポケットから取り出したのは、一枚の紙
それをそのまま、投げ飛ばす
黒羽紗雪 : 投げ飛ばされたその紙は
物理法則を無視し、紙にも関わらず風の影響を受けず眼前の人物に渡される
   : 眼前の人物は、視線を落とす
なるほどこれは────
   :

┌────────────┐
│まずは最初の予定通り、 │
│拠点の確保から     │
│その後、参加者達の………… │
└────────────┘

黒羽紗雪 : 「方針。異論が無いならこちらに戻して」
   : 紙を受け取った人物は、指示通りに投げ飛ばす
黒羽紗雪 : 「異論は無い。わかった」
黒羽紗雪 : そう言い、視線を落とすと
   :

┌────────────┐
│ │
│ │
│ │
└────────────┘

黒羽紗雪 : 思わず、少女の額を水滴が流れる
雨風の影響はないことから、冷汗だ。

何を……した?
黒羽紗雪 : コイツは今、何をした…?
黒羽紗雪 : ………考えるのはよそう。
時間だと、別行動を取る様に一足先に雨風に打たれるよう、ビルの屋上から飛び去っていく
   : そして、受け取っていた人物も同じく別方向に飛び去っていく
黒羽紗雪 : それを片目で確認した時、更なる異常が眼前にて繰り広げられていた
黒羽紗雪 : 先程までいたはずの、廃墟と化したビルの姿は
既に無く、そのビルがあった場所には数粒の砂しか無い
黒羽紗雪 : 異常すぎる様に表情の変化の少ないその目は大きく見開かれ、驚きつつも
誰かが視認している事を奴は忘れたのかと内心怒りつつ
黒羽紗雪 : 再び少女────黒羽沙雪は闇夜を駆けるのであった
黒羽紗雪 :  
黒羽紗雪 :  
黒羽紗雪 :   
黒羽紗雪 : 月明かりが照らす中、1人廃墟の柱にもたれかかるように座り
黒羽紗雪 : 甘いクレープを片手に、2枚のチラシを並べ
吟味するようにそれを見比べる
黒羽紗雪 : 「人形と………ん……能楽?」
黒羽紗雪 : 双方とも、自身
────否、聖盃戦争の参加者にとって相当なアドバンテージになるものだ。
黒羽紗雪 : 片や実質的な令呪とすら言えるもの、片やそれの入手に一役買うもの
断る理由が現状薄く、ついでに言うと人形も能楽もちょっと気になる
黒羽紗雪 : うん、ちょっとだけ。少し余裕ができれば見てみたいな。
黒羽紗雪 : だが、強く利益があるのはあくまでも勝利を目指す聖盃戦争参加者のみ。
クレープを食べるその手の甲には未だ"ソレ"は浮かんでおらず、あるのは……
黒羽紗雪 : 「……正規枠、追ってきた資格のある魔術師からやるしかないか」
元から追われる身、異端はこの世界で生きる事を許されない
ならば、ここに異端と異端狩りの理を捻じ曲げてやる。
黒羽紗雪 : 辺りを数度見渡す。
特異性を"保管"しようとする追手が、強大な反応を伴いつつすぐ近くに迫っている事を確認しため息を吐いて
黒羽紗雪 : アタリマエの移動手段
"あまりにも常識外の魔術"により、その場からの空間転移を果たし、月夜を駆ける
   : 少女が立ち去った後に残るのは、文字通り何も存在しなかった
   :  
黒羽紗雪 :  
黒羽紗雪 :  
黒羽紗雪 : 逢魔時、夕陽が沈み
今にも崩れそうな廃屋の中
黒羽紗雪 : 銀髪の少女は、静かにこの街の魔力に因んだ者達の情報を確認する
黒羽紗雪 : とはいえ、あるモノは異世界から来たと噂されていたり
そもそも無名のものであったりと成果は著しくないようだ。
黒羽紗雪 : その中で、著名であるとするならば時計塔から数名
追手としてこちらに向かっている。
黒羽紗雪 : 舌打ちが、静寂の廃屋に鳴り響く。
黒羽紗雪 : 「お前たちが、いなければ……兄さん達は」
黒羽紗雪 : 忌々しく呟き、腰のホルダーから二丁の銃を取り出す
黒羽紗雪 : 「"彼ら"は兵器。お前達に関しては、情報の利はこちらにある」
黒羽紗雪 : 自身を"知って"いる魔術師の写真だけを、器用に蹴り飛ばして
黒羽紗雪 : 引鉄は引かれ、銃弾が放たれる
黒羽紗雪 : 写真の顔を撃ち抜くように放たれたそれは
黒羽紗雪 : 写真に触れる直前、あらゆる法則を無視しこの世から消えた
   :  
黒羽紗雪 : 次の朝、廃屋にて一睡もせずに注意を払っていた少女に電話が鳴り響く
『協力者』 : 『よぉ、寝てなさそうで何よりだがビンゴだ』
『協力者』 : 『いや俺にとっては正直アンラッキーなんだが』
『協力者』 : 『とにかく、だ。"腕"はこの地点で千切れ飛んでいる。これでもれなくお前はマスターってわけだ』
黒羽紗雪 : 「……気安く喋らないで。誰かが聞いている可能性がある以上、種は明かしたくない」
黒羽紗雪 : 「使用した弾は"全て"回収して、そのままこちらに……」
『協力者』 : 『これ以上はめんどーだ。切るぜ』
黒羽紗雪 : 「待っ────」
黒羽紗雪 : 一方的に通話を切られ、ため息を吐いて
己の手を見つめる
黒羽紗雪 : 昨夜まで手の甲に浮かんでなかった"資格"は、今この瞬間手中に収めた
黒羽紗雪 : 完全な予想になるが、奴等に対する脅しとしては強く機能したはずだ。
少なくともこの期間は向こうから危害が来ることもないだろう。

……万が一それが起きたら、街……いや、下手をすれば世界そのものが変わるだろうが。
黒羽紗雪 : 少女は廃屋から飛び出し、最初に見定めた拠点へ────
   :  
   : 空の弾倉から放たれた弾は、夜空と時を駆けていく
   : 護るべき者を失った白と黒の猫は、大地と空間を駆けていく
   : それが此度の戦争でどのような音を出すか、それは誰にも予想出来ないまま
   : ただ一つ、空の旋律は奏でられた。
   :  
    :  
    : 戦争前日、ある魔弾が魔術師達を貫いた日。
    : 順を追って説明するならば、貫いた魔術師達は所謂『資格』の所有者であったのだ
    : 資格を保有しているならば……必然的に、その手段もまた保有する事となる。
    : 即ち──サーヴァントというもの。
    : では、そんな彼らはどこへ消えたのか。
何処からともなく現れ資格を奪った、それに対し思うところはないのだろうか。
    : 答えは────
    :  
フォルテッシモ : 「雑魚すぎる」
フォルテッシモ : フォルテッシモは、ぐちゃぐちゃにした人間の頭部のようなもの二つを踏み潰しながら吐き捨てる
フォルテッシモ : とんだ茶番、平均値がこれならゴミ屑の集いにも程があるだろうと
傲岸不遜なこの男は始まってすらいないのに戦争に見切りをつけ始めている
フォルテッシモ : ────あまりにも単純な話で、フォルテッシモがサーヴァントを既に2体
戦争の開始前にもかかわらず始末していただけのこと。
フォルテッシモ : それは、世界に失望したと言わんばかりにため息を吐く
フォルテッシモ : 「退屈すぎる」
フォルテッシモ : この時点で、フォルテッシモは協力者である紗雪にも何ら変革など訪れないだろうと思い込んだ
刺激が足りなさすぎるだろうと。
フォルテッシモ : 「さて、じゃあ土台から───」
フォルテッシモ : あまりにもつまらないことに腹を立てたのか
全てを壊すために、フォルテッシモが活動しようとして目にしたのは……戦争におけるアドバンテージとなる3つの情報であった。
フォルテッシモ : うーむ、と。
それはさながら答案用紙に書き込んだ解答を修正する学生のように悩み。
フォルテッシモ : そして、フォルテッシモが考えた結果。
フォルテッシモ : 戦争のインフレーションにもっとも貢献しそうなところに向かうとするかと、静かに歩いて行った。
フォルテッシモ :  
フォルテッシモ :  
    :  
黒羽紗雪 : 時刻は昼前
塔の戦闘を終えた少女は、自身の拠点にて
黒羽紗雪 : 甘い菓子を食べながら、使う魔力の回復に努めつつ
黒羽紗雪 : 窓から差し込む日差しを浴びつつ、手元の銃を余った片手で磨いている
黒羽紗雪 : 暑いと感じる理由は、果たしてこの季節だけか。
陣地で魔力を回復させつつ、そんな事を少しだけ考えていると……
麻中 蓬 : 「調子はどうかな?」
お菓子の袋をいくつか下げて部屋に入ってくる
拠点の側のコンビニで買ったものだ
黒羽紗雪 : 「だいぶ落ち着いた」
黒羽紗雪 : 本来であれば激痛を伴い、そのまま機能不全に陥るような代物ですらある能力を
しかし僅かながらの消耗で抑えたのもあり
麻中 蓬 : 「そっか、良かった」
安心したように笑顔を見せて
黒羽紗雪 : 「ありがと」
黒羽紗雪 : 菓子を受け取って、その中から甘そうなものを選んで抜き取っていき
1週間前では想像もできないだろうが、微笑みつつ。
麻中 蓬 : 余りの袋を開け自分の口に放り込みながら
麻中 蓬 : 「ん、いつも助けてもらってるし」
麻中 蓬 : 「ゴルドバーンも、俺も…1人じゃ戦えなかったから
 だから、黒羽さんのおかげで助かってるんだよ」
黒羽紗雪 : 「…………………………そう、ならよかった」
暫く口を閉ざしていたが、小さな声でそう言った。
黒羽紗雪 : 普通ならば素っ気なく感じるそれは、今は当てはまらない。
黒羽紗雪 : と言うのも単純で、そもそもこう言った感謝を素直に述べられた経験がここ数年殆ど無かったのもあり
どう言った反応を返すのかそれなりに悩みに悩んだのだ。
黒羽紗雪 : 「でも、私だけじゃない。他の皆の協力もあってこそ。」
黒羽紗雪 : 嬉しかったのを照れくさく思い
少し隠すように、事実を述べる。
麻中 蓬 : 「そうだね。上様とかみんな協力してくれてる」
麻中 蓬 : 「……世界のみんながこうなら、黒羽さんも居場所を見つけられるのになぁ」
黒羽紗雪 : 口に入れた甘い菓子を、噛み砕く音を鳴らして
黒羽紗雪 : 「……難しい話」
黒羽紗雪 : 「誰だって、わからないものは怖いから」
黒羽紗雪 : 「怖いから、安心を得ようとするために力を奮ったりする」
黒羽紗雪 : 「……私としては」
黒羽紗雪 : 「皆が麻中みたいに優しく寛容だったらいいのにと、思うけど……」
黒羽紗雪 : ため息混じりに、小さく呟いた。
麻中 蓬 : 「そうかな…」
その言葉に若干照れくさそうにしたあと
麻中 蓬 : 「……黒羽さんがいい人だってわかってもらうには、か…」
「魔術師にとっては、黒羽さんのマホウはわからないもの…なんだよね」
黒羽紗雪 : 「……そうなる」
麻中 蓬 : 「すごいんだけどなぁ…黒羽さんのマホウ」
麻中 蓬 : しかし、その凄さが魔術師にとっては脅威となってしまっているのだろう
どうしたものかとうんうん唸りつつ
黒羽紗雪 : 少し誇らしそうに頰を緩めている。
そう言ってもらえたのも懐かしいものであり、それ故にか。
黒羽紗雪 : 「……見たい?マホウ」
麻中 蓬 : 「うん、見たい」
黒羽紗雪 : 「……ん、わかった。特別だよ」
麻中 蓬 : 「…! ありがとう」
ワクワクしながら
黒羽紗雪 : 「連携のためにもね」
見せびらかすものでも本来ではないのだが
少し浮ついている本心を誤魔化すように、利点を説いて
黒羽紗雪 : 「ここに飴がある」
黒羽紗雪 : 「私はそれを、麻中のポケットの中に触れずに入れる」
麻中 蓬 : 「触れずに…?!」
黒羽紗雪 : 「しかも、指定した時間帯に」
黒羽紗雪 : ちらりと時計を見れば、11:59と。
まさに残り1分で正午になるので、都合がいいのもあり
黒羽紗雪 : 「今から1分後に入れる」
麻中 蓬 : 「……」
そう言われると、飴と時計を交互に見比べて
唾を飲み込みその時を待つ
黒羽紗雪 : 「……」
黒羽紗雪 : 掌は見せたまま、いつのまにか飴玉だけが既に消えている
黒羽紗雪 : 「ここまでは普通の魔術でもできる範囲」
黒羽紗雪 : それでもそれなりに高等な技術なのだが、それはそれこれはこれ。
麻中 蓬 : 「……なるほど」
既に相当驚いたのだが
黒羽紗雪 : 掌は差し出したまま、着々と刻は過ぎていく。
黒羽紗雪 : 何かを思うように、視線を泳がして
黒羽紗雪 : 「3。2。1。」
黒羽紗雪 : 「0」
黒羽紗雪 : 言い終えたと同時に、確かにその一連の行動は完了させていた。
黒羽紗雪 : ポケットの中にはそのタイミングと全くの同時に飴玉が入っている事が伝わるだろう。
麻中 蓬 : 「うわっ!?」
急に現れた感覚に驚きの声を上げ
麻中 蓬 : 「………すごい」
ポケットから取り出して見れば、確かに先ほどの飴
麻中 蓬 : 「すげー!」
目を輝かせて、少女の手を握り、振る
黒羽紗雪 : 「む…むむ……」
そこまでか、と言いたそうに唸っているが
それとは裏腹に、手を握られ振られている今に赤面している。
黒羽紗雪 : 「ふっ……」
黒羽紗雪 : 嬉しいものは、やはりあるもので
微かに笑って、原理のようなものを説明していく
麻中 蓬 : 一方こちらは目の前で異能を見られた喜びと興奮で嬉しそうに笑って、話を聞く
黒羽紗雪 : 「知ってさえいれば、分かってさえいれば……私はどんなものでも時間や空間を超えてモノを追跡させたり転移させたりできる」
黒羽紗雪 : 「今回は飛ばす飴も、飛ばす先の麻中の事も知っていたからできた」
黒羽紗雪 : 魔術師が聞けば、それだけでも眼の色を変える説明だろう。
空間跳躍能力はまだ理解されるかもしれないが、時間跳躍能力に関しては果ての果て───即ち魔法一歩手前といったところなのだから。
麻中 蓬 : 「なるほど…?」
少年にはそのようなことがわかるはずもなく、ただしげしげと頷いて
黒羽紗雪 : さてさて、どう説明したものかと頭を少し悩ませて。
黒羽紗雪 : 大元の部分を語っていなかったと気づき、口を開く。
黒羽紗雪 : 「マホウツカイは……なれるかどうか適正が強く関わってくる
 なれるかどうかは……資質次第。昔は数百人はいたらしいけど…」
黒羽紗雪 : 「……あるとなった場合、特有の武器のようなものが身近に現れるようになる。それが証」
麻中 蓬 : 「おお…何だかカッコいいね」
黒羽紗雪 : 「……選ばれた場合、文字通り超人的な身体能力と……圧倒的な再生力などを有するようになる」
黒羽紗雪 : 「信じられないかもしれないけど、宇宙空間のような極限環境でも問題なく活動できる」
黒羽紗雪 : 「マホウツカイは……そう言った"種族"」
麻中 蓬 : 「種族、か…」
黒羽紗雪 : 現に、こうして元の身体を保ちここにいるのもこの特性が大きく影響しているからだ。
マホウの証となる武器が完全に破壊されない限り、ある程度カタチが残るのならば再生可能。
麻中 蓬 : なんだか不思議な響きだ
まるで別の生き物のようで…
黒羽紗雪 : 人外のような生命力に、適応能力を持つ存在
果たしてそれは、皆と同じモノなのか。
麻中 蓬 : 「マホウツカイか…特別な存在なんだね
 魔術師が恐れてるっていうのが、何となくわかった気がする」
麻中 蓬 : 人外のような力を持つ存在
その情報だけなら、俺も恐れていたかもしれない
麻中 蓬 : でも…
麻中 蓬 : 「でも、うん」
「俺は…黒羽さんがマホウツカイで良かった」
黒羽紗雪 : 「……どうして?」
麻中 蓬 : 「だって、優しい人だから」
「大きな力を正しく使える。それは本当にすごいことだと思う。俺も守ってもらったし」
麻中 蓬 : 「黒羽さんがマホウツカイじゃなかったら、俺は死んでたかもしれない。こうして仲良くなれなかったかもしれない」
「自分勝手だけど、俺は嬉しかったから…」
黒羽紗雪 : 「……………………………」
黒羽紗雪 : 「……こうやって話せるから、私も嬉しい」
麻中 蓬 : 「そっか」
「黒羽さんもそう思ってるなら…良かった」
黒羽紗雪 : 顔は逸らしつつ、言葉足らずのままそう言い放った。
麻中 蓬 : 嬉しそうに、笑ったあと
麻中 蓬 : 「なんだろう、今更だけど…」
「名字で呼んでるのはなんか余所余所しいな」
麻中 蓬 : ふと、気づいたように
麻中 蓬 : 「名前で呼んでもいい?」
黒羽紗雪 : 「………………いいよ」
黒羽紗雪 : 聞き取れるか怪しいほどの小さな声で、そう呟いた。
麻中 蓬 : その答えを聞いて頷くと
麻中 蓬 : 「紗雪」
試しに呼んでみる
黒羽紗雪 : 「…………蓬」
黒羽紗雪 : 試しに自分もと、小さく呼びかける。
麻中 蓬 : 「………フフッ」
麻中 蓬 : 「ハハハハッ」
何だか可笑しくなってつい笑ってしまい
麻中 蓬 : 「うん。こっちのほうがいい」
黒羽紗雪 : 「……ふふ」
黒羽紗雪 : つられて、少女も微笑んで
麻中 蓬 : 「それじゃ、改めてよろしく。紗雪!」
黒羽紗雪 : 「よろしく、蓬……!」
黒羽紗雪 : そのまま、エプロンを着て少女はこの1週間で何度目か。
黒羽紗雪 : 料理なりお菓子なり作ってやろうと、束の間を楽しむようにキッチンへと向かっていったのであった。
黒羽紗雪 :  
麻中 蓬 :  
麻中 蓬 : 突如現れた太陽に、塔の存在に慣れてきた街も動揺の中にあった
麻中 蓬 : 喧騒を抜け、拠点へと戻ってきた俺たちは
今までの情報をまとめると共にカグツチへの対応について相談していた
麻中 蓬 : 「……カグツチの力って、今どれくらい強くなってるんだろう…?」
黒羽紗雪 : 「わからない」
黒羽紗雪 : 事実、不明なのだ。
その能力の全部を理解することなど、おそらく到底できない
黒羽紗雪 : その上で……
黒羽紗雪 : 「……強いて言うならば、彼の魔力は文字通り無限であること……そして、世界法則を何かしらの形で上回っていることくらい」
麻中 蓬 : 「無限かぁ…」
黒羽紗雪 : 前者はアレほど高密度かつ広範囲に及ぼす魔力を、刹那の時間すら惜しむことなく垂れ流していることから。
後者は本当に推測でしかないが、強化を使い更に高めなければ上回れないそれを素の力だけで上回っているように感じた、ということだ。
麻中 蓬 : 「太陽を出してくるくらいだもんな…」
麻中 蓬 : 妙に納得したように頷きつつ
黒羽紗雪 : 「今は消えているけど……どうなるか……」
麻中 蓬 : 「俺でもわかるくらいの凄いエネルギーだったもんね…」
「……無限の力を倒すには、か…」
麻中 蓬 : 途方もない難題だ
いったいどうすればいいものやら
黒羽紗雪 : 「…………蓬は向いてないよ、そういうのは」
黒羽紗雪 : 小さな声で、所感を呟いた。
麻中 蓬 : 「向いてない…?」
黒羽紗雪 : 「無理して倒すだとか、そういうの」
黒羽紗雪 : 「……勿論、それでもやらないといけない時は……向き不向き別で、やらないといけない時はあるけれど」
麻中 蓬 : 「……そっか、向いてないか…」
黒羽紗雪 : 「……相手にも掲げる義があるのなら…それは……」
黒羽紗雪 : そのまま、口を閉じる。
何がだとか、今の心情も理解しないまま身勝手なことを口走ったと思ったからだ。
麻中 蓬 : 「……確かに、そうかもしれない」
「カグツチさんの意志は絶対に折れない、会った時にそう感じたから…倒さなくちゃいけないって思ってたけど…」
麻中 蓬 : 「カグツチさんも、この世界のことを考えて…より良くしようとしてくれてるんだよね」
黒羽紗雪 : カグツチが掲げたもの、それは未来の安寧のために手っ取り早い方法でこの世を統一すること。
頼んではいないことだが、確かにそれは私たちを含めた人のことを考えて掲げたものなのだろう。
黒羽紗雪 : 「……やり方はともかくね」
麻中 蓬 : 「うん。やり方は…俺には肯定できないけど。あの人も正義を持ってるんだ」
麻中 蓬 : 「……やっぱり、向いてないな」
「そう考えると、倒すっていうのは何だか違う気がしてくる」
黒羽紗雪 : 「……どうしたい?」
麻中 蓬 : 「俺は……」
麻中 蓬 : その時思い出したのは、聖盃戦争に参加する以前のこと
怪獣優性思想を、シズムくんを理解しきれないまま倒すことを選んだ
麻中 蓬 : シズムくんとも仲良くなれた、そんな可能性もあったんじゃないか
そう考えてしまった
麻中 蓬 : だって、彼とは対話も共に遊ぶこともできたんだから
麻中 蓬 : カグツチさんとも、対話はできた
彼の願いも知って理解できている
ならば本当に倒す必要は、意味はあるのか
麻中 蓬 : 「……俺は、カグツチさんの願いも大切にしたい。あの人の人類を助けたいって思いを無駄にしたくない」
黒羽紗雪 : 「…………」
黒羽紗雪 : くすり、と
微かに笑う
黒羽紗雪 : 私と会った時から、その善人そのものと言える優しさは一貫していたのだから
笑わざるを得なかった。
黒羽紗雪 : 「蓬ならそう言うと思ってた」
黒羽紗雪 : だから、向いてないと思ったのだから。
麻中 蓬 : 「そっか…見抜かれてたか」
黒羽紗雪 : 「……私の話をしっかり聞いてくれたからね」
黒羽紗雪 : そして、その上で手を差し伸べてくれたのもまた彼なのだから。
麻中 蓬 : 「……そう言ったはいいけど…どうすればいいか、はまだ考えてないんだよね…」
麻中 蓬 : カグツチの意志は固い
そう簡単に折れてくれるとは思えないのだ
黒羽紗雪 : 「……む」
黒羽紗雪 : 「ああ言うタイプは、頑固者……。一度決めたら突っ走るしか知らない」
黒羽紗雪 : 「知り合いにもいたから、あの手のは」
麻中 蓬 : 「俺の知り合いにはいなかったタイプだなぁ…」
麻中 蓬 : 「……多分、諦めてはくれないと思う。未来の日本を救うっていうのは」
黒羽紗雪 : それを捻じ曲げろ、と言うのも難しい話だろう。
黒羽紗雪 : ……だからこそ
麻中 蓬 : 「だから、俺はカグツチさんを否定も肯定もしない」
麻中 蓬 : 「未来の人たちを助けたいっていうのはとても大切な願いだけど、そのために犠牲を出すやり方はさせない」
麻中 蓬 : 「……そうなると、やっぱり…違うやり方を探すしかないなぁ」
麻中 蓬 : 「俺たちが、今を生きる人たちで何とかできないか。それを探していくしか」
黒羽紗雪 : 「……難しい話」
黒羽紗雪 : 否定も肯定もしないと言うものは、言葉にするのは非常に容易いだろう。
だけど、実情は必ずそのどちらかには偏るもので、それを本気で成し遂げるのは至難も至難だろうのに。
黒羽紗雪 : 「……でも、蓬なら出来る」
麻中 蓬 : 「……ありがとう。信じてくれて嬉しいよ」
黒羽紗雪 : 今を生きる人たちで少しずつ変えていくことだけではなく、肯定も否定とも違う中庸の道を歩むことが。

根拠なんてものはありはしないけど、その優しさで私は助けられたことが理由だから。
麻中 蓬 : 「紗雪も、一緒に手伝ってくれるかな?」
共に今を生きる人として、未来を変えるために
黒羽紗雪 : 「…………私…も?」
当然、ここまで来たのもあるので、手伝うことに異論はないが……。
麻中 蓬 : 「うん。俺一人じゃできるかどうかもわからない道だから……一緒に来て欲しい」
きっと、この道はみんなで達成しなくちゃいけないものだから
黒羽紗雪 : 「……うん、わかった」
麻中 蓬 : 「ありがとう。紗雪はやっぱ…優しいね」
黒羽紗雪 : 「…………」
黒羽紗雪 : …………。
黒羽紗雪 : 「………そ……そう?」
黒羽紗雪 : 奇しくも先ほどとは逆になるように言われ、眼をきょろきょろさせている
麻中 蓬 : 「そりゃね。難しいってわかってるのについて来てくれるんだから」
麻中 蓬 : 「それに、俺のこと何度も助けてくれたし」
黒羽紗雪 : 「うっ…….」
黒羽紗雪 : 素面で……それも、彼にそう言われると、優しいと言われた事もほとんどなかったのもあり
何故だか照れ臭くなってしまうもので。
顔を紅く染める。
黒羽紗雪 : 先ほど少女が彼に対して信じて言った事と、大して変わらない事なのだが。
言われる側になるとなんともとんでもないことを言ったものだと自覚させられることにもなって。
黒羽紗雪 : 「ちょっと出かける すぐ戻る」
麻中 蓬 : 「え、うん。わかった」
黒羽紗雪 : そう言うや否や、一目散に部屋から出て行った。
その表情は彼に見せないように、だが。
麻中 蓬 : どうしたんだろう?と思いつつも
麻中 蓬 : 彼女が共に未来を変えることを手伝ってくれるのならば、難しいことでも成し遂げられるかもしれないと
少しばかり安堵して
麻中 蓬 : 今は、俺にもできることを。
カグツチとの対峙の時のための準備をしよう
麻中 蓬 : そう考えながら、窓の外、喧噪に包まれる街を眺めていた
麻中 蓬 :  
麻中 蓬 :  
    :  
    :  
    : これは、この戦争が始まる数ヶ月程前の話となる
フォルテッシモ : 紫色の服を着た、目付きの鋭すぎる少年のような男は
とある要件が紙を見て興味なさそうに鼻を鳴らす
フォルテッシモ : 依頼主は時計塔と呼ばれる神秘の総本山にいる、この世界ではなかなかに知られた名前の者である。
フォルテッシモ : その依頼内容とは、ただ1人の少女の確保であった。
フォルテッシモ : 生死は問わず、受け取った情報によると大した脅威とフォルテッシモは思えないそれに対し
与えられる報酬はあまりにも莫大なものであった
フォルテッシモ : 数世代は遊んで暮らせるような賞金に、聖遺物のような規格外の情報公開
更にはその個人の講義公開や名前の貸し出しなど、魔術師であれば眉唾物のものであろう。
フォルテッシモ : もっとも、フォルテッシモはくだらないと一蹴した上で
なんとなくの気分でそれを引き受けた。
フォルテッシモ :  
    :  
黒羽 紗雪 : そいつと初めて会ったのは、戦争が始まる数ヶ月程前の話だ。
黒羽 紗雪 : なんとなくと言った理由で、魔術師や代行者と言った存在の小競り合いに介入したり
紛争地帯に突然と姿を現し、場を荒らす…などと。
黒羽 紗雪 : そこに利害ある理由は存在しない。
ただ、何となくで死んだように少女は永遠と戦闘を続けていた。
黒羽 紗雪 : あまりにも突発的に現れ、情報も何も残さず立ち回るその在り方は
魔術師達に対するカモフラージュとしても十分に機能していて
黒羽 紗雪 : 死んだように生きていく、そこから生まれた油断は
黒羽 紗雪 : その男を視界に収めたその瞬間、捨てるようなちっぽけな驕りでしか無かった
    :  
    : たかが音を認識し、概念を超えて追跡させる程度の能力と。
    : 空間という三次元を支配する、絶対的な力。
黒羽 紗雪 : 何度もそいつに対し、銃弾を放ち続ける
そして、その度に白い肌に赤い切り傷が刻まれていく
黒羽 紗雪 : そう、どこまでもそいつは圧倒的であった。
フォルテッシモ : どうやらマホウと呼ばれる未知の神秘を駆使するようだが。
眼前の少女の抵抗を、一つ一つ丁寧にすり潰すよつに能力は放たれる
黒羽 紗雪 : 逃げるしかない。
黒羽 紗雪 : 空間そのものを歪ませて、転移を行おうと更に魔力を高め
黒羽 紗雪 : 超遠方距離の空間転移による退却を行い、確かにそれは成功したはずなのだが
フォルテッシモ : 「面白いことをするな」
フォルテッシモ : その男が少し指を動かしただけで、いとも容易く転移空間に着いていくと言った異常現象が発生する
黒羽 紗雪 : さらに、さらに、さらに遠くと
その能力を拡大させて
黒羽 紗雪 : 転移先は宇宙空間。
外来種かマホウツカイのような、完全な極限空間への退避を行い
黒羽 紗雪 : なんとか、火星と地球の中間地点といった所までの撤退に成功する。
黒羽 紗雪 : 「なに……アレ……は………は?」
フォルテッシモ : 「──どうした?」
フォルテッシモ : 「悪い虫でも見たような顔をしてるな?ん?」
フォルテッシモ : 「ああ、なぜ俺がここにいるかって?」
フォルテッシモ : 「まあ簡単な話、太陽系を少し走り回っただけだが……」
黒羽 紗雪 : 「────」
黒羽 紗雪 : レベルが違いすぎる。
種族としても、能力の練度も、規模も。
何もかもが違いすぎる
フォルテッシモ : そして、全くの無慈悲に少女に向けてフォルテッシモは攻撃を放った。
フォルテッシモ : 認識不可能の空間破壊能力、フォルテッシモはつまらなさそうに必殺を確信したが。
フォルテッシモ : 「ん?」
フォルテッシモ : 見れば、何故かその少女はまだ生きて
己は銃口を向けられている───だけでなく
フォルテッシモ : 「んんん…??」
フォルテッシモ : 「避けたのか?アレを」
しかも───
黒羽 紗雪 : 全くの無自覚のまま行われたそれに対し、少女は否定も肯定も行わない。
黒羽 紗雪 : それもそのはず
確実に死んだと、そう思っていたのに。
黒羽 紗雪 : その怪物に、直進する形で避けていったのだから。
フォルテッシモ : 避けただけではなく、自分に向かって突撃を開始するその姿に何かを見たのか
口角を大きく吊り上げて
フォルテッシモ : フォルテッシモは、再び全開の攻撃を
ただ一点少女に向けて放った
フォルテッシモ : 直撃すれば、臓器が真っ二つに切断される線による空間攻撃を放ち
黒羽 紗雪 : その眼は、困惑を過ぎて何かを決心したようなものであり。
黒羽 紗雪 : その強い眼差しを怪物に向けたその刹那、少女の心臓は次の回避など叶う事もなく両断され
フォルテッシモ : 同時に、この男の胸元を1発の銃弾が貫いていた。
フォルテッシモ : 「─────なんだと?」
フォルテッシモ : 心臓を貫かれ、その事実に大きく眼を見開き
思わずその少女を睨みつけると
黒羽 紗雪 : 銃口が、硝煙を挙げていた
フォルテッシモ : 「……いや、なるほど……な」
フォルテッシモ : フォルテッシモは、何かを理解したかのように頷く。
心臓を貫かれたのにも関わらず、全くの平然と言った表情で。
フォルテッシモ : 「しかし今のは……まさか俺の特性を……?……いや」
フォルテッシモ : その一瞬で、フォルテッシモは結論を下した。
黒羽 紗雪 : 少女は、その怪物が攻撃と防御を無意識下で両立させることが不可能だということに気がついたのだ。
フォルテッシモ : よって、攻撃のその本当に僅かな刹那を
時間と空間を飛ばして弾丸を直撃させるという離れ業により、自身の絶対無敵の空間能力の意表を付くことになった。
フォルテッシモ : だが、それだけではフォルテッシモがただ避ける事も考慮しなければ説明が付かないもので……
だからこそ、フォルテッシモは推測を行う。
フォルテッシモ : ……まさか、未来を見たのではないか、と
フォルテッシモ : 攻撃のタイミングがわかっているのならば、合わせたカウンターは確かに効果的なものであり…
フォルテッシモ : 「──チッ、起きろ」
フォルテッシモ : 自身の空間切断の波動を、閉じ直すといった出鱈目により少し前に放った攻撃を接合すると。
黒羽 紗雪 : 「……あ…かっ…………ッ」
フォルテッシモ : 「辞めだ辞め、ここでおまえを殺すのも連れ帰るのも勿体ねえ」
フォルテッシモ : 針の穴を通すかのような奇跡を成し遂げた少女そのものに、多大な関心を抱いて
息も絶え絶えである少女に、飄々と語りかける
フォルテッシモ : 「なあ………」
フォルテッシモ : 「おまえの立場は確か……魔術師が揃って狙うようなそんなもの…だったよな?」
黒羽 紗雪 : 「……あなたのような刺客を送られるくらいにはね」
フォルテッシモ : 「ふーーーむ…」
フォルテッシモ : それは、見方を変えれば答案用紙に書き込んだ答えを
消しゴムで一旦消して考え直している学生のように見えるだろう
フォルテッシモ : そのような仕草をして、フォルテッシモは理不尽を語りかける
フォルテッシモ : 「おまえは…追われる身」
フォルテッシモ : 「で、魔術協会はこの世界でも一番といってもいいほど規模の大きな組織…と」
フォルテッシモ : 妙案を得た。といったように、フォルテッシモは笑みを浮かべて
フォルテッシモ : 「おまえの味方に俺がなれば……アイツらを敵に回せるんじゃあないか?」
黒羽 紗雪 : 「……は?」
黒羽 紗雪 : いや本当に、何をいっているんだと。
フォルテッシモ : 「いやいやおまえにとって利点だらけだぜ?まず世界最強の力がすぐそばに立つ」
フォルテッシモ : 「で、おまえをとりあえず鍛え上げるのもやってやろう。少なくとも神話の英雄"程度"なら一蹴出来るくらいにはな?」
フォルテッシモ : 「いや、何なら報復としておまえの代わりに時計塔を木っ端微塵に破壊してもいい。そちらの方が奴らも燃えそうじゃないか?」
黒羽 紗雪 : 「……鍛える…って、期待に添えなければ殺すってこと?」
フォルテッシモ : 「そっちのが伸びやすいだろ」
フォルテッシモ : フォルテッシモはその眼差しを見て、死んだように生きている少女の
確かな生の渇望の一つを感じ取ったのだ
フォルテッシモ : ならば刺激して、より強くしてみよう。
フォルテッシモ : 或いはそれは、自分に並べるほどの者になるのではないかと
本当に僅かな期待と多大な無駄だと感じる投資を兼ねて。
黒羽 紗雪 : 「……好きにして」
黒羽 紗雪 : どうせ関係が無い、死ぬ時は華々しく散って思い出へと還りたい。
ただそれだけを胸に秘め、少女は悪魔の契約を結ぶことに決める。
黒羽 紗雪 : 私には場所も、大切な人も何もないのだからと。
フォルテッシモ : 「じゃあまずは、その神話の英雄なんかと目見えることができる聖盃戦争への参加からだな」
フォルテッシモ : 1人、数ヶ月後に思いを馳せつつフォルテッシモは話を続ける
フォルテッシモ : 「勝てば何だって願いが叶うんだってよ、どうする?」
黒羽 紗雪 : 「…知らない」
フォルテッシモ : 「俺も悩んでいる」
フォルテッシモ : 「いっそのこと"蜘蛛"でも叩き起こすかぁ?なんて考えるくらいには悩んでいる」
黒羽 紗雪 : 「……そこまで人に迷惑をかけるのは、流石にやめて」
フォルテッシモ : 「流石に冗……洒落が通じねーなおまえ…」
フォルテッシモ : 呆れたようにフォルテッシモは髪を掻いて
フォルテッシモ : そのまま、神速と言った速度を出し衝撃波を伴いつつ
地球へと降り落ち、帰還していく
黒羽 紗雪 : 「……」
黒羽 紗雪 : どうせ、あなたの言うことなんて叶うはずがない。
黒羽 紗雪 : 居場所も、大事な人もいない。
黒羽 紗雪 : 死にたいのか生きたいのか、ただそれすらわからないような人間もどきが
黒羽 紗雪 : 望む突破など、果たせるはずもないと分かりきっていたから。
黒羽 紗雪 :  
フォルテッシモ :  
フォルテッシモ : その結果は──────
フォルテッシモ : 太陽を見て、目を細めて。
フォルテッシモ : 「幾分かマシになったみてーだが多分俺と戦う理由も何もねーな…?」
フォルテッシモ : などと、どこまでも自分勝手に
フォルテッシモ : 宇宙のどこかで戦う少女を観測しながら、太陽に愚痴を言うかのように舌打ちをした。
フォルテッシモ :