[港町] ロックス・ター : 海賊ロックスターはある港町で一人黄昏ていた

[港町] ロックス・ター : 「はぁ…お頭に頼まれた手紙も渡せなかったし……戻っても合わせる顔がないんすがね…」

[港町] ロックス・ター : どうしたものかと悩む

[港町] ロックス・ター : なぜなら、彼にとってメンツは命の次に大事なものであり

[港町] ロックス・ター : それ即ち、彼は名声を欲していたからだった

[港町] ロックス・ター : 「何とか帰るまでに名を上げられねェかなァ…」

[港町] ロックス・ター : そんなことを考えていると、彼の持つ電伝虫に着信が

[港町] ロックス・ター : 「なになに…英霊を召喚し…?」

[港町] ロックス・ター : 「優勝者は…なんでも叶う!?」

[港町] ロックス・ター : 「これすがねェ!」

[港町] ロックス・ター : この戦いに勝ち…おれは…

[港町] ロックス・ター : 「四皇幹部になる!!!!」

[港町] ロックス・ター : ………彼は同時に、小心者でもあった

[港町]   :  

[港町] ロックス・ター : よくわからない呪文を唱えると…電伝虫が光り輝き

[港町] ロックス・ター : 彼の呼び出した英霊が、その姿を現す

[港町] ロックス・ター : 「…………お!」

[港町] ロックス・ター : 「むほほほほ知らない子だけど美少女なんすがねェwwww」
「おいお前、大海賊ロックス・ター様って名を聞いたことが────」

[港町] ??? : 「黙れ」

[港町] ロックス・ター : 宝具が、突き付けられた

[港町] ロックス・ター : その力は、戦闘力10という四皇海賊団の実力者である彼ですら太刀打ちできないと悟るには十分だった

[港町] ??? : 「海賊と言ったな?」

[港町] ??? : 「例えマスターであろうと、悪は許さん」

[港町] ロックス・ター : 「ちょちょちょちょちょっと待ってくれ!」

[港町] ロックス・ター : 「それは言葉の綾というかいやあのその海賊なのは事実なんすが今は休業中というかそもそも海賊って言っても木っ端の大したものではないし貴方様に逆らういしはこれっぽちもございませんすがねというか」

[港町] ??? : 「言い残すのはそれだけか?」

[港町] ロックス・ター : 「わ、わかった!謝るんすがね!海賊もやめる!言うことも全部聞く!」

[港町] ロックス・ター : 「だから命だけは…!」

[港町] ??? : ため息をつく

[港町] ??? : 「まさかこんな軟弱者がマスターとはな
 まあいい。今言ったこと、忘れるなよ?」

[港町] ロックス・ター : 「はいすがね!」

[港町] ロックス・ター : ………彼は、命が一番大事な小心者だった

[港町] ロックス・ター : こうして、主従関係が真逆な陣営が生まれたのである

[港町]   :  

[港町] ロックス・ター : 「ところで艦長、一つ聞きたかったんすがね…」

[港町] ロックス・ター : 戦いの始まろうとしている方角を眺めながら、男が口を開く

[港町] テア・クロイツェル : 「ん、なんだ?」

[港町] ロックス・ター : 「よく艦長が言っている『自由』な海って何なんすがね?」

[港町] ロックス・ター : 「おれは自由にやってきた気なんすがね…でも艦長は悪を、海賊を許さないと言う」

[港町] テア・クロイツェル : 「自由な海とは何か、か…」

[港町] テア・クロイツェル : 「一言で言えば、皆から愛される海だ」

[港町] ロックス・ター : 「愛…?どういうことすがね」

[港町] テア・クロイツェル : 「そうだな…」

[港町] テア・クロイツェル : 「誰もが臆することなく、恩恵を享受できる」
「誰もが好きなように、行きたいところに往来できる」
「誰もが望むように、それを楽しめる」

[港町] テア・クロイツェル : 「それが自由な海…皆から愛される海だ」

[港町] ロックス・ター : 「なるほど…?」

[港町] テア・クロイツェル : 「……マスター、お前はどうして海賊になった?」

[港町] ロックス・ター : しばらく悩み、答える

[港町] ロックス・ター : 「金と名声すがね…」

[港町] テア・クロイツェル : 「簡潔でいいことだ」
その答えに怒るようなことはなく

[港町] テア・クロイツェル : 「それは確かに、海から持たされるものだ」
「それを受け取る自由は誰にもある」

[港町] テア・クロイツェル : 「だが、今までのお前のやり方はダメだ」
「他者を傷つけることによって得る自由…それは無法であって自由ではないんだ」

[港町] ロックス・ター : 「そりゃあそうかもしれないすが…」

[港町] テア・クロイツェル : 「海はお前が思っているよりずっと懐が深い」
「そんなことをしなくても、お前は自由に生きられるはずなんだ」

[港町] ロックス・ター : 「………………」
悩みこむ

[港町] テア・クロイツェル : 「ま、お前も船乗りならいつかわかるさ」
「海は偉大で広いってことが…守るべき宝だということが」

[港町]   :  

[港町] ロックス・ター : 「……艦長」

[港町] テア・クロイツェル : 「……なんだ」

[港町] ロックス・ター : 「戦闘、終わってるみたいなんすがね…」

[港町] ロックス・ター : 遠くから戦場を眺める二人

[港町] テア・クロイツェル : 「…知ってるか、船は陸の上を走れないんだ」
「だから仕方ない」

[港町] ロックス・ター : 「艦長が長々と話してたせいじゃ──」

[港町] テア・クロイツェル : 「うるさいっ」

[港町] ロックス・ター : 「痛ェ!?」

[港町]   :  

[港町] テア・クロイツェル : 「ははっ、助かったぞ」

[港町] テア・クロイツェル : どうにか逃げ伸びたあと、拠点にて

[港町] テア・クロイツェル : 「まさか、お前が私を守るとは思わなかった」

[港町] テア・クロイツェル : 呆れたように、驚いたように、溢す

[港町] ロックス・ター : 「……あんた、おれを庇おうとしただろ?」

[港町] テア・クロイツェル : 「よくわかったな、さすがは実力者を名乗るだけはある」
からかうように

[港町] ロックス・ター : 「今はそんな話をしてる時じゃねェ」

[港町] ロックス・ター : バッサリと

[港町] ロックス・ター : 「なんでおれなんかを庇ったんすがね…海賊の、あんたの敵のこのおれを」

[港町] テア・クロイツェル : 「……言っただろ、私は海の自由の味方」

[港町] テア・クロイツェル : 「助けられる人は助けるのが私の役目で…やりたいことなんだ」

[港町] テア・クロイツェル : 「お前が根本からの悪者じゃないのは十分わかってたからな」

[港町] ロックス・ター : 「そうすがね…」
彼女の答えを聞いて考えこむように

[港町] ロックス・ター : だが、決意を込めたような目で

[港町] ロックス・ター : 外を見据えた

[港町]   :  

[港町] ロックス・ター : 「最後の令呪…艦長に託すんすがね…」
手の甲に輝く徴を見せる

[港町] ロックス・ター : 「おれにはもう必要なくなったもんで」
決意を込めて、そう言う

[港町] テア・クロイツェル : 「なんだ…知っていたのか?」
「令呪がある限り私がお前に逆らえないことを」

[港町] ロックス・ター : 「い、いや知ったのは最近というか脅されたあとと言うか」

[港町] ロックス・ター : 「まあ何にせよおれにはこれは要らないんすがね…」

[港町] ロックス・ター : なぜなら

[港町] ロックス・ター : この戦いで歩むべき道を見つけたからだ

[港町] ロックス・ター : 「そういうわけで…」
手を差し出す

[港町] テア・クロイツェル : 「わかった」

[港町] テア・クロイツェル : 「その申し出、ありがたく受け取らせてもらう」

[港町] テア・クロイツェル : 「だが」

[港町] テア・クロイツェル : そっと、ターの手を押し戻す

[港町] テア・クロイツェル : 「使う時を決めるのは、お前だ。ターよ」
初めて、名前を呼んだ

[港町] テア・クロイツェル : 「お前の判断、信頼させてもらう」

[港町] ロックス・ター : 「…すがね!」

[港町] :  

[港町]   : 沈む間際、破壊された艦橋にて

[港町]   : 主従は船の最後を見守っていた

[港町] テア・クロイツェル : 「おい、ター」
衝撃の影響で、全身を引き裂かれたサーヴァントは静かに、己がマスターへと呼びかける

[港町] テア・クロイツェル : 「お前の本当の願いは何だ」

[港町] ロックス・ター : 「前にも言ったんすがね…金と名声だって───」

[港町] テア・クロイツェル : 「違う、当時はそうかもしれないが…今までの戦いで、何か思うところがあったんだろう?」

[港町] ロックス・ター : 「見抜かれてやしたか…」

[港町] ロックス・ター : 「……実は、艦長の言う自由の海ってぇのを見てみたかったんすがね」
照れくさそうに鼻を掻く

[港町] テア・クロイツェル : 「そうか、なら…」

[港町] テア・クロイツェル : 「お前、この船を降りろ」

[港町] ロックス・ター : 「ええ!?」

[港町] テア・クロイツェル : 「この船はもう沈む。私と共にな」
「自由の海には辿り着けない」

[港町] テア・クロイツェル : 「だがお前は別だ。まだまだ動けるんだろ?戦えるんだろう?」

[港町] テア・クロイツェル : 「なら、進むべきだ。夢を目指して」

[港町] ロックス・ター : 「けど艦長、聖盃戦争には既に敗れて…」

[港町] テア・クロイツェル : 「なに、自由の海へたどり着く手段はこれだけじゃない」

[港町] テア・クロイツェル : 「艦長命令だ。退艦し、己の道を捜せ」

[港町] ロックス・ター : 「………」
逡巡するように、目を閉じる

[港町] テア・クロイツェル : 「……一つ、お前に教えていなかったな」

[港町] テア・クロイツェル : 「海は全て繋がっているんだ。だから…」

[港町] テア・クロイツェル : もう魔力もない。体が消えかける。だが、それでも
マスターのために気力を絞る

[港町] テア・クロイツェル : 「航海を続けていればいずれまた、会える
 その時はお前の船に乗せてくれ」

[港町] テア・クロイツェル : ニッコリと、微笑む
鋼鉄の下にあった、自分の素顔を、本心を隠さずに

[港町] ロックス・ター : 「………了解すがね…!」

[港町] ロックス・ター : それだけ言うと、男は艦橋を降り、残されていたスキッパーで海を駆けていった

[港町] アドミラル・シュペー : 男の退艦を待つように、耐えていた船は

[港町] アドミラル・シュペー : 男の背を見届けると

[港町] アドミラル・シュペー : 静かに

[港町] アドミラル・シュペー : 眠るように

[港町] アドミラル・シュペー : 暗い海底へと沈んでいった

[港町]   :  

[港町]   :  

[港町]   : 最終決戦と、その後の聖盃降誕
それを見届けた男が一人

[港町]   : 港町で小舟に乗る

[港町]   : 空は晴天、海は穏やか

[港町]   : 今日は絶好の船出日和

[港町] ??? : 「さて…もうそろそろ出港しなきゃなァ…」

[港町] ??? : 「自由の海、どうやったら目指せるかまだわからねェが」

[港町] ??? : 「まあやれることァ…わかりやすいな」

[港町] ??? : 「まずは…お頭にあって話てみるか。このことについて」

[港町] ??? : オールを漕ぎ出す

[港町] ??? : 「そんじゃァ…出港すがねェ!」

[港町]   : 戦いの場に別れを告げ

[港町]   : 自由な海を目指して、船は行く

[港町]   : その船を操る、男の名は────

[港町]   :  

[港町]   :  

[港町]   :  

[港町]   : ───幾らかの未来

[港町]   : 大きな船が、海を征く

[港町]   : 船に乗る人々の胸には、大きく自由な大志

[港町]   : その船頭にはウニ頭の艦長が

[港町] ロックス・ター : 「てめえら!嵐が来たぞォ!」

[港町] ロックス・ター : 「だが目的地まであと少し!ここを乗り越えておれたちゃ目的を果たす!」

[港町] ロックス・ター : 不安になる船員たちを励ます

[港町] ロックス・ター : だが…今までに見たことがない大嵐
果たして生きて抜けられるか…

[港町] ??? : 「おい、艦長ならもっとしっかりしろ」
「声に不安が滲んでいるぞ」

[港町] ロックス・ター : 「そうは言うがあの荒らしじゃあ仕方ないんすがねェ!」

[港町] ロックス・ター : 「……ってこの声は…?」

[港町] ロックス・ター : 背後からかかるのは、記憶に深く残る声

[港町] テア・クロイツェル : 「こんなもので根を上げるような貧弱者の船に乗った覚えはないぞ?」

[港町] ロックス・ター : 「か…か……艦長!?」

[港町] ロックス・ター : 想像もしていなかった
再び会えると言ったが…それは励ましだとわかっていた

[港町] ロックス・ター : それでも、その励ましを胸に海を渡ってきた

[港町] ロックス・ター : そんな彼の"艦長"が、目の前にいた

[港町] テア・クロイツェル : 「本当にまたお前に会うことになるとは思ってなかったがな…」
「アイツからの贈り物か」

[港町] テア・クロイツェル : 遠い空を見上げ

[港町] テア・クロイツェル : 「何にせよ、久しぶりだな。ター」

[港町] ロックス・ター : 「艦長ー! おれァ…おれはァ……!」

[港町] ロックス・ター : 情けなく、涙と鼻水をダラダラと垂らしながら
男は喜びの声を上げた

[港町] テア・クロイツェル : 「フフッ」
その様子を見て、妖精は小さく笑い

[港町] テア・クロイツェル : そして、顔を引き締める

[港町] テア・クロイツェル : 「再会の喜びに浸りたいところだが、今は目の前の嵐に注力するぞ!」

[港町] ロックス・ター : 「了解すがね!艦長!」

[港町] テア・クロイツェル : 「…今はお前が艦長なんだから、艦長と呼ぶのはやめろ」
「私の名前、忘れたとは言わせんぞ」
少し照れくさそうに

[港町] ロックス・ター : 「そういやそうだったなァ!」
「それじゃあ…」

[港町] ロックス・ター : 「テアたん!操舵任せたんすがね!」

[港町] テア・クロイツェル : 「………」

[港町] ロックス・ター : 「痛ェ!!!??」

[港町]   :  

[港町]   :  

[港町]   :