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キノ

キノ

キノ

キノ

旅人は、今日も走る。

キノ

喋るモトラドに乗って。

キノ

「そうだね」

キノ

「ごめんごめん、ただこの先に……」

キノ

「少し、気になる国があってね」

キノ

暖かな太陽と、心地良い風に短い黒髪が揺れながら。

キノ

モトラドのハンドルを握り、ぶろろとエンジン音を鳴らし。

キノ

「マイクロビキニの国さ」

キノ

キノ

キノ

そうしてボクは、こういう姿になったわけだけど。

キノ

なるほど、噂に聞いた通りこの国のマイクロビキニは特殊みたいだ。

キノ

さっきのボクよりも、うんと体が動かしやすいや。
こうなると……ゴールドマイクロビキニの噂っていうのは
案外、嘘でもないのかもしれないね。

キノ

「さて……」

キノ

「マイクロビキニ祭りか……いいね、ボクも久々に体を動かしたかったんだ」

キノ

水鉄砲を片手に、会場へと足を踏み入れる
少年のような見た目をした少女。

キノ

眩しい太陽に、少し目を細めながら。
熱い砂浜に、素足を進ませるのだった。

キノ

キノ

キノ

キノ

潮風によって、響の前に立つ短髪の少女の前髪が揺れる。

キノ

「ええ、ボクもちょうど同じ感想を出そうと思いましたよ」

キノ

淡々とした口調でそう告げる。

キノ

「ここまで戦ってきた人達も、かなりの腕を持っていましたが
　……そうなりますと、決して油断はできませんね」

キノ

その少女の片手には、水鉄砲らしきものが握られていた。

キノ

その水鉄砲は、マイクロビキニの国によって作られた特殊な平気であり。
見た目こそ、おもちゃのようなものではありながらも
発射される水は、音速に近い。そのため、当たったものに大きなショックを与えるものであり。
さながら、ゴム弾の銃と変わらないものだ。

キノ

「へぇ……そんな重い物を持てるのですか」
興味ありげに目を細め、その主砲を見つめる。

キノ

「駆逐艦………そうなると……エルメスと似たようなものなのかな……」
ぽつりと、そう呟きながらも。

キノ

「……やっぱり世界は、驚くものばかりで」

キノ

両手を、ふわりと広げ。

キノ

「とても面白いですね」

キノ

「せっかくなので、少しお話でもしませんか？
　ボクは、あなたに興味が湧きました」

キノ

「ありがとうございます」
にこりと、小さく笑い。

キノ

「ボクは、旅人をしています、キノと言います」

キノ

「ここへ来たのも、旅の一環でしかありません
　そして祭りへの参加理由も、ほんの少しの好奇心、でしかありません」

キノ

「ですがあなたは……どうやらその装備から察するに
　国に召し抱えられた……いわば、"兵器"
　……そうですよね？」

キノ

「ゴールドマイクロビキニのため、ですね？」

キノ

「……なるほど」
少し、声のトーンが落ち。

キノ

そして、響の静かながらも、真っ直ぐで
さらに、その奥に燃える炎のようなものを感じ。

キノ

「あなたの背負うものの大きさ、とても分かりました
　そして………あなたの国にも、興味が湧いてきました」

キノ

チャキッ。
水鉄砲の銃口を、響へと向ける。

キノ

「もっとあなたのことを知ってみたいです
　─────始めましょうか？」

キノ

キノは、目の前にいる、自分よりも背丈の小さな少女が
こうして、言ってしまえば卑猥も卑猥な水着を見に纏いながらも
それでも戦い抜き、勝ち進めていくという姿に
どこか、感銘を受けたようで。

キノ

不思議な人、という言葉に、小さく
「ふふ」
と笑う。
その声は、どこか楽しそうであった。

キノ

そして─────戦いの火蓋が、切って落とされた。

キノ

少女達の動きは、超人的であった。
放たれる水弾を、まるで来る位置が予測されていたかのように
軽やかなステップで避けていき。

キノ

あろうことか、その戦いは……数時間にも及んだ。

キノ

「ふぅ……」

キノ

岩場に背を預けながら、額の汗を拭うキノ。

キノ

……なるほど、国に召し抱えられる兵器、ということだけありますね。
ボクの射撃がここまで当たらない相手は、この祭りで初めてですよ。

キノ

「………本当に、面白い子です」
キノもまた、楽しそうに頬を緩めていた。

キノ

思えば……同年代の、同じ性別の子とこうして
同じ戦場に立つ、ということは無かった。

キノ

この新鮮な空気にキノは、どこか高揚感を感じていた。

キノ

……ですが、こんな強い響さんがいるというのに
国は貧しい……というのですが、なるほど……。
戦争行為で、容易に勝ちを得ることも可能でしょうに……。

キノ

……彼女の国が、ますます気になって来ました。

キノ

「……響さん、ボクはあなたを見縊っていたかもしれません
　ここで、謝らせていただきます」
岩盤に背を預けながら、響へと、少し大きめの声で語り掛け。

キノ

「それに……」
少し岩場から顔を出し、海上に立つ響きを見やる。

キノ

………ビックリだ。ボクよりもまだ、余裕を感じる。

キノ

ボクも、体力には自信がある方だっただけに。
こればかりは……さすがは、国の兵器、というべきか。

キノ

「ボクも勝ちたいので、少し撤退させてもらいます
　この勝負での勝ちは、響さんに譲りたいと思います」

キノ

小さく、にこりと笑う。

キノ

「─────」

キノ

キノは、旅人だ。そして、その命が狙われることも多々ある。
ゆえに、身体能力が常人よりも高くなっており。

キノ

聴覚もまた、例外ではなかった。

キノ

「………ええ、また戦いましょう、響さん」
キノもまた……いじわるで、小声でそう呟き。

キノ

シュッ！
身軽な動きで、撤退していくのだった。

キノ

キノ

キノ

─────これは、驚きましたね。

キノ

狙撃銃を構え、照準器を覗く少女。
その距離、約500m。

キノ

静かに、息を殺しながら、表情を変えず。

キノ

この"儀式"に、最後まで残る方々は化物揃いになることが
先程の戦いでも予測はできていましたが、ここまでとは。

キノ

まずは、一つ目の作戦が失敗に終わりましたね。
三者が集う瞬間を狙い、一網打尽にする、という。

キノ

「ふぅぅ……」
静かに、息を吐き捨てながら、再度照準器を覗くようにし。

キノ

場所は、暗い森の中。
肌色を隠すように、緑の葉々に体を埋もれさす。

キノ

スコープ越しに、3人の会話を唇で読み取り。

キノ

─────合理的ですね。
その戦局的判断を即座に下せるとは、ええ、優秀と認めざるを得ないでしょう。

キノ

実際、この場でイニシアチブを握っているのはボクだ。

キノ

しかし、相手は身体能力をボクの遥かに越すものが多く。
何よりも、このような状況下であっても冷静な思考回路を持つ。

キノ

「………ふふ」
思わず、笑みが漏れる。

キノ

「面白くなってきてるじゃないですか」

キノ

このような戦場は、久々だ。
高揚感が止まらない。

キノ

あなた達のような人達に出会ったことは
これまでの旅でも、決して多くはありませんでした。

キノ

ボクは、ボクの旅を素晴らしいと言えるものにしたい。

キノ

だからこそ─────あなた達のことを、もっと知りたい。

キノ

「ようこそ」

キノ

「ボクの城へ」

キノ

ニヤリと笑うのだった。

キノ

キノ

キノ

あなた達は強い。

キノ

だけど、それを予測しないボクであったのならば。

キノ

ボクは、この場にいない。

キノ

旅人というのはですね、その道中で色んな人と出会うんですよ。

キノ

今まで、犯罪者に、軍人に、或いは……ただの戦い好きの変人に。
とにかく、いろんな人達と出会ってきましたから。

キノ

対策は重ねる。一度破られたとしても、決してそれで終わりにせずに。

キノ

バシュンッッ！！！

キノ

そして、狙撃の手を止めることもしない。

キノ

水弾が、遠く薄暗い森の奥から真っ直ぐと、千束へと放たれる。

キノ

くいっ。
─────遠くで、糸を引っ張る。

キノ

すると………。
ゴォォォォォォォォッ……！！！

キノ

千束、そしてテイルブルー達がいる地点へと
横方向から一気に、まるで津波のような物量の水が放たれるッ。

キノ

………なるほど、これは、想像以上に厄介かもしれませんね。
並大抵の軍人程度であれば、手足も出ないほどの要塞にしたつもりではありましたが。

キノ

あの3人は、その程度では収まらない……と。

キノ

とても…………面白い。

キノ

ボクは、人を殺す時に抱く感情は、何も無い。
旅のための障害を取り除くという、ただそれだけに過ぎないからだ。
だけど─────この戦いだけは、違う。

キノ

ボクがここまでの旅で得てきた知恵を
あなた達に全て、ぶつけたい。

キノ

別にボクは、孤独がどうだとか言うほど軟ではありませんが。
それはそうと……こういう戦いも、悪くないと思う自分もいるわけで。
それを素直に認めつつ……。

キノ

─────さて、そろそろ……ボクの居場所もバレてしまっている頃だろう。

キノ

「─────いいえ」

キノ

「ボクは、ここですよ」

キノ

テイルブルーの、後ろ。

キノ

軽量の、ハンドガンの形をした水鉄砲を既に構えた状態で。

キノ

トリガーも既に、引かれてある。

キノ

バシュンッッ！！！
放たれる水弾は、音速をも超える。

キノ

奇襲、それはいかなる戦いでも定石ですから。
……え？ボクらしくない戦い？
はは、それはもちろん、否定しませんよ。

キノ

千束を指差す。

キノ

「後ろ、気を付けてくださいね」

キノ

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ！！！！
地中より、水爆破。

キノ

「こうでもしないと─────勝てないでしょう？」

キノ

「それにしても、ボクはあなた達のことが……
　とても、気になって気になって仕方ありません」

キノ

響との再会という形にもなり、にこりと小さく笑いつつも。

キノ

「これでもボク、結構自信あったんですけど
　こうも容易く突破されると、降参してしまいたくなってしまいますよ」

キノ

「─────では、ここまで強いのに
　一体、何をあなた達が……ゴールドマイクロビキニへと突き動かすのですか？」

キノ

旅とは……結局は、人との出会いだ。

キノ

一期一会。それをボクは、大切にしたい。

キノ

「"強さ"………という観点であれば
　あなた達は十分なものを手にしています」

キノ

「これはボクの、単なる好奇心の話です
　別に話術で、あなた達を困惑させようとしているわけではありません」

キノ

森の中、静かに立つ黒髪の少女。
その表情にもまた、静けさが漂い。

キノ

その言葉に、ふふ、と笑い。

キノ

「それは言えてますね」

キノ

「では、あなたは？」
千束を見て。

キノ

「………ふふ」

キノ

「そうですね、ボクは」

キノ

「─────"旅人"ですから」

キノ

静かな風が、キノの前髪を揺らす。

キノ

「この世界にある、色んなものを見て、そして知りたい……
　単純な理由ですよ」

キノ

「だって、ワクワクするじゃないですか？」

キノ

にこりと、静かに笑いながら。

キノ

そして─────今度は、響の方を見て。

キノ

「あなたも、そうでしたね」

キノ

「愛香さん、千束さん、そして響さん」

キノ

「皆さん、"人のため"に戦っている」

キノ

「でも、戦うのって、辛くないですか？
　痛いですし、疲れますし
　それに、こんな格好にもなっちゃってますし」
自分のマイクロビキニの、黒い紐を少し引っ張りながら。

キノ

「─────それでもあなた達は、戦うのですか？」

キノ

これはとてもシンプルだ。
人というのは、辛いと感じたらその機能を一旦止めるようにできている。

キノ

ボクだって、疲れたら宿屋で休憩する。
人として、当たり前のことだ。

キノ

人のために戦う。それは、とても美しいものだ。
でも、それが自分のためになるかどうかなんて、分からない。
だからこそ、知りたい。

キノ

「……ふふ、なるほど」

キノ

「皆さんのこと………とても、よく分かりました」

キノ

「愛おしさすらも覚えます、あなた達との出会いは……
　おそらく、今後も忘れることはないでしょう」

キノ

「少しお喋りが過ぎましたね」
そして─────銃口を再び向け。

キノ

「続けましょうか？」

キノ

「ボクはあなた達を尊敬しました
　だからこそ、敬意を持って戦いますよ
　─────ボクなりのやり方で」

キノ

ひょいっ。

キノ

視線が、その銃口に集まっていたであろうその時に─────。

キノ

もう片方の手で、水手榴弾を、4人がいる中央へと、山なりに投げる。

キノ

「─────！」

キノ

にやりと笑い。

キノ

「どうでしょうか？」

キノ

・・・
─────ピンは、抜かれてある。

キノ

「…………ボクの負けにはなりますが、それでも」

キノ

「とても、楽しかったですよ」

キノ

ボォォオオオオオオンッッッ！！！！

キノ

一気に、八方へと水が爆裂する。
─────キノという小さな少女の体もまた、ふわりと舞い……。

キノ

そしてまた、黒いマイクロビキニが
ひらり、ひらりと。

キノ

「─────……！」

キノ

一瞬、意識を失いかけた。いや、失っていた。

キノ

真剣勝負であれば、確実にボクは死んでいた。
また、ボクらしくないことをした。

キノ

…………きっと、この3人の在り方に……。

キノ

……ボクなりの、強がり。

キノ

「…………千束さん、あなた……」
困惑の表情。

キノ

「─────浮かない顔してるじゃないですか、チャンピオン」

キノ

にこりと笑う、包帯に巻かれた旅人の姿と……。

キノ

「………実はですね、ボク」

キノ

「次に向かう国、決めたんですよ」

キノ

静かな潮風が、旅人の前髪を軽く揺らし。

キノ

「─────鎮守府、でしたっけ？
　行先、分からないので、案内できますか？」
にこりと、笑う。

キノ

「旅人ですから」

キノ

優しく、頬を緩ませながら。

キノ

「……それに、日本に借りもできてしまいましたからね？」
包帯に手をやりながら。

キノ

千束に悪戯っぽく、ふふ、と笑い返す。

キノ

予想外なことが、たくさんありましたから。
それはボクにとっては……とても、嬉しいことでもある。

キノ

もっと、色んなことを知りたい。
………"あの人"がそうした理由を、知るためにも。

キノ

響の隣に立ち、地平線に沈む太陽を共に見つめる。

キノ

「いい景色ですね」

キノ

「ええ、そうですね、それにしても……」
千束の言葉に頷きつつ。

キノ

3人の横顔を見やりながら。

キノ

「動きやすかったですね、マイクロビキニ」

キノ

「他の国でも合法化しないのでしょうか？」
突然の天然発言をぶちかます。

キノ

そしてマイクロビキニ姿になる。

キノ

「うん、やっぱり動きやすいですよこれ」

キノ

「ほら」

キノ

肩を動かしたり、股関節を開いてみたり。

キノ

「？？？？」

キノ

「！」

キノ

「それは……到着が楽しみですね」
純真な笑顔。

キノ

マイクロビキニ、嫌いなのかな？と疑問に思うような目線を
千束と愛香へと向ける。黒紐を少し引っ張りながら。

キノ

「？」
小首を傾げつつも。

キノ

「では、響さん、行きましょうか」

キノ

マイクロビキニ姿のまま、すたすたと歩こうとする。