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環うい

「わぁああ……こんな高い所、見るの初めて……！」

環うい

きょろきょろと辺りを見回しながら、はたと見つけた少女と男性。

環うい

「あ、二人とも…こんにちはっ…！へえ～……おっこちても大丈夫なんだ？」

環うい

みんな、すっごい風格がある……
やっぱり、試験をここまで潜り抜けた人たちは違うなぁ…

環うい

「わ、わたし！？何も出来ないよう！」
手をぶんぶんと振って、違う違うと。

環うい

「だから…落っこちても大丈夫そうな白虎さんが凄いなぁって…」

環うい

「……ほへ？」

環うい

その言葉を聞いて、困り顔で。

環うい

「ううん……”それ”はしてもいい、って聞いたけど……」

環うい

「試験の内容は…ちゃんと、プレートを集める事…じゃないかな？」

環うい

「あ、初めまして……ええーっとえっと、”ホンフー”さん！」
ぺこり、とお辞儀。

環うい

名前…配られたリストの中にあったよね…！
多分大丈夫、間違ってないはず…だよ！

環うい

「”ホンフー”さん…なんだか、落ち着いてるような気がしますね…？」

環うい

どこか緊張してしまって、胸に手を当てている自分とは対照に。

環うい

「ライセンス……ほへ……そんなに、大切なものなんですか…？」
”プロハンター”になるという事は自分こそ目指していたが、ライセンスそのものには目を向けたことはなかった。

環うい

目線を向けられたことに、ぴしりと背を立ってしまう。

環うい

「ほええ…じゃあ、ホンフーさんは…出来ないことをしてみたい、のかな…？」

環うい

ライセンスの特権は、今の今まで知らなかった。
なにせ、ハンターになる事だけ夢中にかけていた。

環うい

「合格しても、そこで終わりじゃない……」
ごくり、唾を飲み。

環うい

この人はハンターになっただけじゃなくて、この先まで考えてる……すっごいなぁ…！
私もそういう所は、ちゃんと見習わないと…！

環うい

「むむ……”白虎”ちゃん、だっけ…すっごく自信満々なんだね…！」

環うい

胡坐をかいた彼女に、思わず声をかける。

環うい

…すっごく明るくて、皆ともお話しできてる……
そういうところ、私にはできなくって…カッコいい…！

環うい

「ハンターライセンス……みんなやっぱり、ライセンス目当てなんだね…」
そういうもなんだ、と思いつつ。

環うい

「あっ、そうかなぁ…？これでも、お喋りしてるつもりなんだけどなぁ…」
むにむにと、ほっぺを触りつつ。

環うい

「ライセンスって言うより…ハンターになってみたいの！」

環うい

「ううん！私のお姉ちゃんが、ハンターになってて…それに憧れたんだ～！」
ヘクトールに、にこりと笑顔でそう返す。

環うい

そう、お姉ちゃんの”代わり”にハンターになる。
これは私がやらないといけないこと。

環うい

「あ、そっか…！みんなとお話ししてたら、あっという間だったね～！」

環うい

にこりと笑いつつ、ヘクトールの言葉に強く頷く。

環うい

「……？え、本当…！？ありが…んぐっ！」

環うい

その言葉に思わず元気よく返して─────
舌を噛んだ。

環うい

ざくざく、土を踏みながらどこに向かうでもなく。

環うい

ただ、散策する。
たまにきょろきょろと見回し、”何か”いないか憶病になりながらも。

環うい

少女、環ういは思考にふけっていた。

環うい

『奪い合い』、ハンターになるためのこの最終試験……

環うい

今まで料理であったり、材料を集めるだけ…
いわば、『協力』するだけの試験しかこなしてこなかったうい。

環うい

だからこそ、最後もそうできると思ってた…けど。

環うい

『奪い合わなくちゃダメ』
そう考えるのは、ちょっと…難しい。

環うい

でも、これを乗り越えなきゃ……私は、お姉ちゃんの”代わり”を果たせない。

環うい

そんな事を考えていた、からこそだったのか。

環うい

────ある”気配”が、近くまであることに、気づくことが出来ていなかった。

環うい

「……ふわ…？」

環うい

「────えっ！？」

環うい

この笑い声……空の時に聞いた…まさか。

環うい

「……”ホンフー”、さん？」

環うい

ゆっくりと後ろを向いて。

環うい

「…え、あっ……私が悩んでいたの、わかっちゃったんですか…！？」

環うい

船の時でも、落ち着いて…なんていうか、風格がある。
他の誰とも違う、その余裕の表れの笑いに、思わず。

環うい

「す、すっごい……その通り、です…」
手を合わせて、その言葉に感服する。

環うい

「今まで、助け合って乗り越えてきたのに……なんで、最後だけ違うものになっちゃったんでしょうか……」

環うい

お姉ちゃんも『協力』することで人と人は成り立つって言ってたし……
私”なんか”は、一人じゃなにも出来ないから……こういう試験は…苦手。

環うい

「う、ぅう……今のこの試験が……その、”一人でやりきる”という……不測の事態……って事ですか……」
その人差し指を見て、ごくりと生唾を飲み。

環うい

「────ッ！？」

環うい

風を切るその感覚に、思わず一歩引く。

環うい

そしてその拳を────

環うい

────一枚の凧が防ぐ。

環うい

一歩引き、慌てて体勢を整えようと立ち直す。

環うい

「な、なにを……するんですか……？」

環うい

冷や汗が、どっと流れ出る。
なぜならば。

環うい

自らが”発”によって生み出したその凧。

環うい

───それが、拳によって貫かれていたからだ。

環うい

「……っ…！そんな、じゃあ……ホンフーさんは、”殺し合う”ことも、いとわないの…！？」

環うい

…！あのオーラ……もしかして、私と同じ…”念能力者”…！
しかも、すっごい強烈なモノ……！！私と、比べ物にならない…！

環うい

「プロの……殺し屋……」

環うい

ぞわり。背筋が書き立てられるような。
物語でしか聞いたことのないような、その単語に身振るを覚えて。

環うい

そんなもの…存在するの……！？ううん、そうじゃなくて…

環うい

「────く、ぅう…！」

環うい

「凧さん、出てきてぇ…！！」

環うい

ふわり、翼のようなオーラが生えたかと思うと。

環うい

そこから生み出されていく、凧のようなモノ。
それらが主を守る様に、盾へとなっていくが────

環うい

────さくッ

環うい

生み出した凧は、貫かれ────否。

環うい

威力こそ先ほどよりないものの。
ういの腕、体を……掠り。

環うい

その白い肌に付着する、赤。

環うい

「ッ、ぅああああ……ぁッ…！！！！」

環うい

「番号…が…同じ……じゃあ、私のを奪えば……ホンフーさんは試験に合格することが出来る……」

環うい

その指先……擦れたその手に残る跡を見て。
……私の”力”は……この人にも使えるみたい…！

環うい

指先から流れ出るそのオーラは、盾となり穴が開いたはずの凧へと流れていき。

環うい

修復。

環うい

「うん、多分……”私が死なない”ようにするには、プレートも捨てて逃げちゃった方がいいんだと思う…」

環うい

ピンクの、輝く瞳が黒いその瞳と重なる。

環うい

「……私は、ハンターになる、だから……それは譲れないの…！！」

環うい

「一人前になって、”巣立ち”してみせるんだから…」

環うい

「っ………」

環うい

事実、ホンフーさんの言葉は……重たくのしかかる。
『誰かを押しのけて上に』『一人でやらなくてはならない』
それは、今の戦いで重々わかっていることだ。

環うい

その言葉をいとも簡単に生み出すホンフーの刃。
それに簡単にも、動揺してしまい。

環うい

「────えっ」

環うい

その一瞬の隙を突かれ。
防御も攻撃もすることが出来ず、ただ目を瞑るしかなかった。

環うい

が、そこに在ったのは……痛みでもなく、一人立つ男性……

環うい

「────ヘクトールさん…！？」

環うい

「もしかして…守ってくれたの…！？」

環うい

震える手、足……
どこを取っても『戦場』に似合わない、『人形』のごとき少女。

環うい

『死んでた』……その言葉は、嘘じゃないんだと思う…
今、ヘクトールさんは『殺す気』で槍を投げた……

環うい

ちゃんと、その奥に『戦う意志』がある…

環うい

「……『約束通り』…？あっ……ありがとう、ございますっ…！」

環うい

それに…『約束』を守ってくれるなんて…いい人……

環うい

……これで立場は、逆転した…けど。

環うい

「……ヘクトールさん、あのね……？」

環うい

「……『私を逃がして』欲しいの…」

環うい

そう、”戦わない”。
彼らのようにまだ『戦う意志』を持ち合わせていないから、私は…。

環うい

「……うん、まだ戦うことは…”できない”」

環うい

「だから……逃がしてくれないかな、ホンフーさん……？」

環うい

震える体、けれど眼だけはしっかりと見据えて。

環うい

「確かに、薄っぺらで……どこかに飛んで行ってしまいそうな気持ちかもしれません、けど…」

環うい

「……本物にしてみせます、『乗り越えて』みせますっ…！！」

環うい

ぐっと、片足を踏み込んで。

環うい

うん……その通りだ、私は…強くもない、へたっぴな信念しかない”ひよっこ”
……。
だからこそ、私は……っ！

環うい

「……」

環うい

「ふ、わぁ……」

環うい

そのまま、とすんと腰が落ちる。

環うい

「えへへ……ヘクトールさん……ありがとうございます……」

環うい

今まで会った事のない、ホンフーさんとの『体験』。
それを味わったことで、一気に腰の力が抜けてしまって。

環うい

「ううん、こんな私との約束を守ってくれるだけで……私はすっごく、すっごく嬉しいから…」
にこ、と笑みを見せながら。

環うい

「……それと…その……」

環うい

「……立ち上がらせてもらっても、いいかなぁ…？」

環うい

恥ずかしげに、えへへと笑いながら。

環うい

こくり、その腕を掴み。

環うい

────”ひょっこ”の巣立ち、その一歩が刻まれた。

環うい

「……？なにそれ…？」
ちらり、背伸びして覗き込む

環うい

「おお〜…そんな物まで作れちゃうんだ…すっごい…！」

環うい

興味津々に、目を輝かせながらその様子を覗きつつ。

環うい

みんな…私にない物を持ってる……
すごいや……私も、”お姉ちゃん”の代わりになるために…もっと頑張らないと、だもんね…！

環うい

ホンフーさんに、そう言い切ってみせたんだから────

環うい

環うい

環うい

環うい

─────日はさんさんと照らし続けて、まだ『戦い』は終わらないことを示すかのように。

環うい

そんな中、ういは塗り薬を塗り終えて…ヘクトールと共にひと段落。

環うい

「ふぅー……うん、痛みも引いてきた…
ヘクトールさん特性のお薬、すっごく効くね！」

環うい

「ハンター心得…みたいなのかなぁ…？
ふむふむ…！戦いに詳しいんだね…」

環うい

その注意を、頭の中にインプットするように。
何度も何度も頷きながら。

環うい

「……本？これがヘクトールさんの心得…
うん、わかった！」
ふむん、と取りだしたその本を見つめつつ。

環うい

「ふんふ〜ん♪」
人から貰う、ということが嬉しいのか鼻歌を歌いつつ。