シナリオ名「避難小屋」(洒落怖より) 1.A氏 2.ノート 3.クリスマス 4.おーい 5.林道 6.一睡 7.殺すぞ! 8.日が暮れだす 9.逃げ出した 10.猟師風のいでたちの男 ◇1 信州のそれほど高くない山、A氏は一人で登山中崖から落ちて脚を骨折してしまった 脚を引きずりながら山道を進む。そのうち、だんだん日が傾き夜を迎えた。 暗いなかをこれ以上歩くのはかえって迷うおそれがあり危険だ。 するとすぐ先に避難小屋がみえた。まだ携帯電話もない時代である。後から来る 通行人を待つしかない。とりあえずA氏はそこで一晩過ごすことにした。 日帰りのつもりで来ていたのでろくな装備はない。避難小屋にも備蓄がない。 ◇2 とりあえず用意してきた非常食をほおばり、新聞を床に敷き、防寒着を布団 がわりに肘枕で寝ることにした。 ・・・ふと枕元に目を落とすと汚い大学ノートがある。 よく避難小屋においてある非常時の連絡用ノートだった。 どうせやることもない山小屋の夜である。A氏はパラパラとノートをめくり読み始めた。 ◇3 「12月23日 クリスマスを自宅で迎えるはずが、途中の山道で迷ってしまい下山出来なくなった。         レトルトカレーで夕食をすませると寝ることにした」 「12月24日 ホワイトクリスマスになってしまった。雪が激しくて結局戻ってきた。         それにしても昨日の声は何だったのだろう?遠くの向こうの尾根のほうで         5~6人が叫ぶような声が聞こえた。時計をみたら深夜2時半だった。」 ◇4 「12月25日 今日も雪が激しい。それにしてもあの声は何なのだろう?『おーい、おーい』という声         が小屋から300mほどの山頂から聞こえてくる。それも朝まで叫んでいる。かなり         大きい声だ。おそらく外を見ればその正体を確認できるかもしれない。しかし、         この世のものでないだろう。昨日も眠れなかった」 「12月26日 ついに声が小屋のすぐ外で聞こえ始めた。ドンドンドン!と一晩中叩いている。         『おーい!聞こえてるんだろ!!』5~6人で順番に叫んでいる。時折視線を感じるが         怖くて見られない。逃げたい・・・逃げたい・・・・逃げたい・・・・・」 ◇5 「12月27日 やっとここを抜け出す方法をみつけた。峠を右に折れたところに林道があった。         道沿いに行けば営林所の監視小屋がある。そこまで行けば電話がある。」 ここで日記は終わっている。その後この人物がどうなったかわからない A氏は思った「どうせ大学生が驚かそうと思って書いているだけだろ」A氏は気にもとめず寝た ・・・・・夜もくれたころ、A氏は目を覚ました。遠くで声が聞こえる。 ◇6 『おーいおーい』どうやら日記にあった尾根道のほうだ。うなるような低い大人の声、 そう何人かで交互に叫んでいるように聞こえる。ふと時計をみると2時半、 A氏は日記のことを思い出した。結局彼は一睡も出来ず朝まで起きてしまった。 翌日A氏は骨折の脚が膿んでしまい、一歩も歩けなかった。 通りがかりの助けを待ったが来る気配はない。もともと山道から離れた山小屋だったらしく、 朝みるとかなり荒れている。新聞が風に舞い、床が抜けて全体が傾いている。 ◇7 ・・・いよいよ2日目の夜を迎えた。日記のとおり山小屋にずっと近づいた山頂付近から 『おーい!おーい!』と大声が聞こえる。目を閉じるのが怖くて寝られない。 ・・・そして3日目、日記のとおりドアをドンドン叩く音。そして『おい!聞こえてるんだろ!!』 『返事をしないと殺すぞ!』『なんで答えないんだ!』と順番にドアをたたきつける音。 A氏は息を殺してじっとするのが精一杯で全く寝られない。 ・・・・4日目、A氏はこの日こそこの小屋をでなければいけないと思った。さもなくば殺されるだろう。 ◇8 膿んでいる脚を縛って、どうにか杖を作り、日記に書かれた監視小屋を目指して歩いた。 脚は骨が飛び出ているほどひどく、時折激痛におそわれ休み休み進むことになった。 尾根道にそって目指す峠が恐ろしく遠く感じられた。 そうこうしているうち、日が暮れ出す。峠についたころには暗がりの中かろうじて歩ける状態に なった。はたして峠には林道がつながっていた。尾根の反対側であったため見えなかったのだ。 その林道沿いに「監視小屋」を目指す。すると小屋のほうから例の大声が聞こえ始めた。 『おーい!おーい!』『いないのか!おーい!』『ちくしょー!逃げやがった!』 ◇9 その声はもの凄い怒鳴り声で夜の山に響き渡った。 たちまち声の主はA氏を追ってきた、A氏が朝までいた小屋といまいる林道の間には 深い断崖絶壁がある。しかしこの世のものとは思えない早さで谷を降り、また谷を駆け上がってきたのが 分かる。『待て!そこを動くなぁ!!』徐々に声が近づいてくる『殺してやる!』 A氏はもう無我夢中で逃げ出した。骨折の脚も気にせず林道を走るように駆け下りる。 遠くに明かりが見えた「監視小屋だ!」もう脚の痛みなど気にせず一気に小屋に駆け込んだ。 ◇10 小屋に入るとパタリといままで追ってきた雄叫びは消えた。 A氏は小屋に入るといままでの脚の激痛がぶりかえしたのか、その場でうずくまった。 痛みにこらえながら再び顔を上げると、目の前に小がらな昔の猟師風のいでたちの男がいた。 「よく逃げてこられたな」「・・あなたは誰なんだ?」 「おまえ、前の小屋で日記見たろ?」「ああ」 「おれはその日記を書いたものだ。ここで逃げてくるヤツを食うためにな!」