Ccfolia Log

園田美月

「…………」
携帯に目を落とし、おそるおそるスリープを解除すると

園田美月

すぐに俯いたまま、首を横に振る。

園田美月

……生存者は、本当に私たちだけのようね。
さーっ、と顔が青ざめていきそうになるが
携帯をしまい込んで、深呼吸。

園田美月

「そ、そうね、もしかすると
　人がいるかも………………と思ったけど」
オリハと、穏乃の勘は正しい。先ほどの嵐だってそうだったのだから。

園田美月

「み　宮下さん……」
パァ、っと自身を鼓舞するように振りまけるぐらいの笑顔を見せて。

園田美月

「そうね……！ 高鴨さんがいたから
　私たちは助かったのだから！ …………あ」
撫でられ、犬のように喜ぶ穏乃を見て、少しだけ動揺しつつ。

園田美月

「た、探検…………探検ね……」
その探検という言葉を聞いた途端に少々目を逸らす。

園田美月

オリハにあまり重荷にならないよう
自分はむしろ視線を向けている二人の方へと目をやって。

園田美月

「…………そうね
　けれど、ここがどこの、どういう島か……心当たりは誰かあるかしら……」

園田美月

「ええ……何日待てばいいかも
　本当に私たちを救助する船が来るかどうかも不明瞭な以上
　せめて最低限の道具や、水の確保は必要よね」

園田美月

「となると、やっぱり……
　深く入り込まない方にするのが賢明だけれども」

園田美月

「あさーく……探検する程度にはいいんじゃないかしら……ね？」

園田美月

オリハの方に目をやって
今度は指示を仰ぐように。

園田美月

「火があれば、島の中にせよ外にせよ
　誰かが気づいてくれるかもしれないものね
　それにきっと……夜は冷えるもの」

園田美月

手を上げようとするが、探検の過酷さが脳裏を過ぎり
少し躊躇していると

園田美月

宮下さんが手を挙げていた。

園田美月

「宮下さん！ そうね、さっき高鴨さんについていこうとしていたものね」
乱雑に放り出されたスーツケースの方に目をやり。

園田美月

「しっかり密閉していれば
　浅瀬に放り出されたスーツケースでもきっと中身は大丈夫だと思うわ
　あまり気は進まなかったけれど……命がかかってるものね」

園田美月

オリハの、主への信仰は
この時、とても心の頼りになるものだと実感する。

園田美月

「けれど豪華客船の船旅を満喫している最中に
　サバイバル生活突入と考えていた人たちなんてきっといないでしょうから
　船の残骸から縄を探すのがいいかもしれないわね」

園田美月

「先……っちょ？」

園田美月

「そうね、こうやって生きていられるのは神様の───…………
　それに、高鴨さんのおかげだから！」
きっと、あの時
オリハさんが祈ってくれた。その祈りが通じたのだろう。

園田美月

勝手に、私がそう思っているだけだけど
オリハさんを一瞥すると、少しだけ笑みを浮かべて。
再び乱雑に放り出された乗客の……今は遺品と考えたくない、荷物の方へと目をやった。

園田美月

「ええ、助けはきっとくると思うわ
　それに私の方こそお礼を───！ 何かあったのかしら！？」

園田美月

「そうね……！ 洞窟なら飲める水もあるかもしれないわ！
　海水を濾過なんて頭では覚えていても、何もない状態で
　作れるわけもないから……」

園田美月

「それに最終手段だけれども
　ガムがあれば、電池で火起こしもできるわね…………ライターの方が
　断然お得だけれども」

園田美月

「えっ、お肉……お肉って」

園田美月

「つまり獣に立ち向かおうとかそういうのじゃないわよね……？」

園田美月

少しおろおろして。

園田美月

「そ、そうよね───」
って、狩りたくても狩れません？

園田美月

まぁいいわ……と少し抑えて
宮下さんの方に目をやると。

園田美月

「!!!　それって……」

園田美月

「懐中電灯もそうだけれどもロープもあるなんて……
　残してくれた人にはとても勝手だけれど……ありがとうと言いたいわね」

園田美月

「ええ！ 宮下さんってばくじ引きの運が本当に良いわね！」

園田美月

あっ！ 抱き着かれて、それにまた撫でて……
高鴨さんがまた犬みたいな反応をして……

園田美月

ちょっとだけ、ムッとしつつ
ケースの方に手をやろうとすると、衝撃の一言が聞こえる。

園田美月

「え"！？」

園田美月

「な　なななな……」
"ただの水着"でも下着でもない虎柄（？）の……

園田美月

「何よそれ～～～！！！」
ドキドキと、自分の中で何かが上昇するのを感じて。

園田美月

「プレゼント…………
　あっ　ああっ！　宮下さんはスクールアイドルですものね！」
どう考えても繋がりが見当たらないが、変に納得する美月会長

園田美月

「え、ええっと！？　えっ　えー……
　い、いえ、すっごく素敵よ？ 宮下さん……」

園田美月

「おじさ…………
　…………」
そういうものなのかしら、と、余計に納得してしまう美月会長。

園田美月

「！！！」

園田美月

「待った～～～～～！！！！！」

園田美月

「そ　その　いくら私たち　仲が良いからといっても
　その！ 軽率すぎるというか何というか　え　えーっと
　あ！ 水着を着るなら……」

園田美月

近くの岩陰を見る。

園田美月

「あ　あそこで！
　大丈夫よ！ 覗かないから！」

園田美月

「ええ！？」

園田美月

「お　女の子同士でも
　…………」
更衣室だと確かにそうかもしれないけどぉ……！ 宮下さんの水着姿を視界の端にちらりちらりと見えて、爆発しそうな美月会長。

園田美月

「きゃぁああ～～～！」
と悲鳴をあげる割に、両手で顔を覆いはしない。

園田美月

「…………」
着替える瞬間だけは目を思いっきり瞑っていたが
おそるおそる目を開くと。

園田美月

「あ、あら……って……！」
背中を見せつけられた瞬間。

園田美月

きょ、競泳水着なのよね！？
なのになぜかしら、何か……その、宮下さんに負けないぐらいの
何か、何かを感じてしまうわ……！？

園田美月

「え　ええええ！　ええ！　ええ！　そう！
　ぴったり合っててよかったわ！」
オリハに続くように。

園田美月

「え　ええ？　そ　そうかしら？
　ぴったりだと───って　きゃっ……！」
また悲鳴を上げようとするが、その仕草ぐらいなら本来許容範囲だと思って
ぐっと、こらえる。

園田美月

「た、高鴨さん、その、もしも……いえ
　必ず帰れたら約束してほしい事が、あるわ！
　み、宮下さんもよ！？」

園田美月

「人を惑わすのは……ダメ！」

園田美月

「え　ええ！　そうよ！
　それに仕草にも気をつけて……！ 私たちだから
　大丈夫なだけ　なのよ！」

園田美月

「だ！？」

園田美月

「だいす」

園田美月

大好き……！？

園田美月

あっいやいやいや！　大好きって違う意味よね？

園田美月

「……ええ　私もその　そう思ってくれて
　すっごく嬉しいわ　だから私たちも何かあれば
　守るからね！」

園田美月

「な　治らないわよ～！
　高鴨さんはいつもその肌を出しがちだから慣れてるかもしれないけれどぉ……
　でも」
とあせあせと反応を取っていると、二人が歩を運び始め。

園田美月

園田美月

園田美月

二人を見送った後
海岸沿いの砂浜にぽつりと残ったのは年長組の私たち

園田美月

出来る事と言えば
しけっていない木の枝をなるたけ集めながら
まだ開かれていないケースを開いて……

園田美月

時折、海の方を見る。

園田美月

「…………」
あれほど賑やかだったけれど
二人がいなくなった途端、数分も経っていないのにとても不安になる。

園田美月

「───心配だわ…………」

園田美月

と、早々に口にする。

園田美月

「そ　そうね……」
私より一つ年上で、この状況に陥ってなお
祈り続ける彼女に勇気をもらいながら、私はケースを開く。

園田美月

choice　ロープ　ナイフ　懐中電灯　えっちな本 (choice ロープ ナイフ 懐中電灯 えっちな本) ＞ ロープ

園田美月

「あら……ロープがもう一本見つかったわよ」

園田美月

「いくらあっても足りないぐらいよ
　嬉しいわね……けれど飲料水も、何か食料になりそうな物もないわね」

園田美月

「オリハさんの方はどうかしら？」

園田美月

「えっ」
ロープの方に目をやっており、その声が聞こえた途端に
振り返る最中、ドサッと音がして。

園田美月

「オリハさん！？」

園田美月

「だ、大丈夫！？ オリハさん…………
　怪我はないかしら？」
顔を覗き込む

園田美月

「……！」

園田美月

高鴨さんも　宮下さんも　靴は履いていたけれど
オリハさんの履いている靴は片方無くなっていて

園田美月

「……オリハさん、その……」
一旦、手を差し伸べる。

園田美月

運動神経は抜群ではないどころか、致命的に無いに等しい美月だが
何とかオリハが起き上がるようにすると

園田美月

「えっと……」

園田美月

「あの時の 雰囲気は あの時だけの物かもしれないけれど」

園田美月

「また 私が選んであげるわよ
　帰れたら ね」

園田美月

「ちなみに くじ引きとは一切関係ないわよ」

園田美月

「…………待って
　ちょっと含みがあったわね」

園田美月

「絶対に帰りましょう」

園田美月

「そうね……ビーチサンダルとかがあればいいけれど……
　やっぱりこの時期だと厳しい かしら……？」

園田美月

ふと近くのケースを開こうとするが、ロックがかかっており。

園田美月

「…………お手上げね」

園田美月

「ええ……開かないわ」

園田美月

「何かで壊そうにも　その……私はちょっと自信が無いわね」

園田美月

「あら……？ きゃっ」
すると、そこには日差しに当てられ
銀閃というべきだろうか、それほどの輝きを放つナイフが取り出された。

園田美月

「…………ナイフ？ ナイフね！
　それにしっかりしてるわね……サバイバルナイフ？」

園田美月

「ちょっと無茶しても欠けたりはしないなら……
　これで片っ端からロックを壊せそうな物は壊していこうかしら？」

園田美月

豪華客船の乗客の残した物だけあり
ロックがかかっている物はそれほど厳重かもしれないけれど。

園田美月

「え？ えっと…………」
想像力を働かせてみる。

園田美月

『えいっ！』
狂う手元
そしてその刃の先には───ケースを抑える自分の

園田美月

「っ…………できないわ……」

園田美月

「わかったわ！ それに……ちょっと望み薄だけれど
　もしオリハさん達の荷物も見つかったら持ってくるわ」

園田美月

美月がオリハから離れていき
木の枝を拾いつつ、遠方にあるケースを確認する様子が伺えた。

園田美月

（ライターとか……もっとこうありますように……！）

園田美月

choice　ライター　食料（菓子類）　飲料（缶）　えっちな本 (choice ライター 食料(菓子類) 飲料(缶) えっちな本) ＞ 食料(菓子類)

園田美月

ふと、枝を拾いがてら
ケースを開いてみると、そこには野田さんのお家にお邪魔した時にしか
見たことのないようなお菓子が出てきた。

園田美月

「！ 食料───…………栄養は心もとないけれど
　皆喜ぶかしら……？」

園田美月

「ええ！ 食料……というには心許ないけれど……！」
少し遠くから掲げて見せたのは、見たこともない袋菓子。

園田美月

「えーっと……？
　中身がわからないわね……原材料……成分……うん、チョコレート
　なのかしら？」

園田美月

暖かい今だとすぐ溶けてしまいそうと思ったが
袋越しに触ると、意外にそうでもない。

園田美月

「…………？」

園田美月

「オリハさん もしかしてチョコレートって初めて、なのかしら？」

園田美月

「そうだったの！ オリハさんの故郷……ね」
友達だけれど、オリハさんの事は実は何もわからない

この機会に

こんな状況だけれど、ふとそんな事を思いつつ。

園田美月

「そうね、オリハさん……
　あなたは私たちの為にずっと祈り続けて、心配してくれて
　それにこうやって頑張ってくれてるんだから……私や二人より先に」

園田美月

すると一つだけ取り出して、ピリッと開くと。
そこにはやはりチョコレートがあった。少々形は独特だが。
甘ったるい匂いがする。

園田美月

「アレルギーとかは無いかしら？」

園田美月

「！」
そのオリハの言動にちょっとだけ、ぴくりと反応しつつ

園田美月

「そ、そう？ じゃあ……その、えーっと」

園田美月

「あ」

園田美月

「あーん」

園田美月

チョコレートをつまんで、オリハの口に運ぶ。

園田美月

開かれた口にチョコレートを───
入れ込むと、ちょうどオリハの唇に指が当たって。

園田美月

「！」
チョコレートを口に入れたのを確認すると
さっと指を戻した。

園田美月

「……!!!」
そのほころんだ顔を見た途端に、背筋が熱くなる。

園田美月

何、この感覚。

園田美月

高鴨さんが撫でられて、犬みたいになってた時も
こんな……いえ、もっと……何かが上ってくるような感じに……。

園田美月

「あっ え！ わ、私はその……
　オリハさんや二人みたいにまだ頑張り切れてないから……ね？」
ちょっと遠慮しようとする

園田美月

「あっ……ん！」
唇に触れたチョコレート
その甘い匂いは何故かもっと違うところから発せられてるように錯覚する。

園田美月

「…………」

園田美月

ゆっくりと口を開いて。

園田美月

「はむっ……」

園田美月

「…………！」
甘い、甘いチョコが口の中で広がる。
けれど、その甘さよりも甘い物が唇を撫でて。

園田美月

もはやチョコレートの味すら忘れていく。

園田美月

だというのに

園田美月

顔は、きっと

園田美月

オリハさんのようにほころんでいって。

園田美月

「───ありがとう」
笑みを浮かべる。

園田美月

「……うふふ、何だか元気が出て来ちゃったわね」
いえ、出てきたというより
もらった、のだけれどもね？

園田美月

「あっ！ ひ、開いたわね！」

園田美月

ロックが無理やり壊されたのを見て、喜ぶと

園田美月

オリハが開く瞬間を見届けるように
まじまじとケースの方を見る。

園田美月

「…………」
硬直。声をかけられるまで。

園田美月

「え、えっ、えっえっえっ」

園田美月

「な、何かしら、これは？」
ふと信じがたい現実に二度目の直撃をしたかのような反応をして。

園田美月

美月はオリハがそれを手に取るより先に手に取ると

園田美月

ゆっくりと、目を細めながら開く。
もしかすると違うかもしれない、と思いながら。

園田美月

すると、そこには
異性が、同性が、その何というか

園田美月

「なっ、なっ、ななななななっ……!!!!」

園田美月

「なぁ～～～～～～！！！！」
するとそのまま本を遠くの方へと放り投げる。

園田美月

その速度は時速150㎞を越えたッ！

園田美月

「はぁ……はぁ───……
　だ　大丈夫よ　オリハさん
　あなたはあなたのままでいいのよ！」

園田美月

「えっ！」

園田美月

「お　オリハさん　拾いに行かなくていいわよ！」

園田美月

「触ってみた感じ　しけってた気がするわ！」

園田美月

「…………」

園田美月

「そ、そう！
　それに天日干しすれば　ね！」

園田美月

誤魔化す事が苦手な美月は
オリハの方からそう誤魔化す理由を図らずとも作ってもらった事で
そう誤魔化した

園田美月

ちょうど本も開かれた状態で遠くの方に落ちている
そのまま波にさらわれれば、無問題

園田美月

「ええ……ふうっ　ふっ　ふぅうう……」
ある意味、危機が去った
状況は変わらないが、オリハさんが変わらないようにはできた。

園田美月

だからか、その場で尻もちをついて
力が抜ける。先ほどの馬鹿力もどこへやら。

園田美月

「！ ええ、そうしましょ……
　ちょうど色々と良い事が重なったから、ね」

園田美月

ナイフを、ロープを、心もとないが食料を
そして───今きっと、育まれたものもあるのだから。