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高鴨穏乃

「ねぇねぇ！クジ引きだって！楽しそう！やってみようよ！！」
愛、オリハ、美月の先頭を走る、ひと際背の小さな少女。

高鴨穏乃

名前は高鴨穏乃。頭であれこれ考えるよりも、まずは体を動かす！
という考えがモットーの、体育会系の少女だ。

高鴨穏乃

ポニーテールがゆらゆらと動いており
まるで尻尾のように見え、上機嫌であることが察せることだろう。

高鴨穏乃

「ん～～～～……あ！見て見て！一等が当たったら豪華客船の旅だって！」
オリハにも見えるように、パンフレットを広げて見せる。

高鴨穏乃

ぐいっ、と距離を縮めながら。

高鴨穏乃

「券？　持ってない！」

高鴨穏乃

愛に、無邪気にニカッと笑う。

高鴨穏乃

「これどうやったらできるんだろうね！？やりたいやりたい！」

高鴨穏乃

テンション上々といった様子の穏乃。
体力が有り余っているようだ。

高鴨穏乃

「いいよね船旅！オリハさんもそう思いますよね！」

高鴨穏乃

「む……それは……」

高鴨穏乃

「……気合！ですよ！」
オリハに、ピースサイン。

高鴨穏乃

うんうんと頷きながら。

高鴨穏乃

「買い物かぁ～～～、せっかくですし……何か流行りの物とか！」

高鴨穏乃

「先輩方は何か知ってませんか！？そういうの！」

高鴨穏乃

愛と美月の方を、ふんすっ！と鼻息を出しながら。

高鴨穏乃

「へへへ！元気が私の取り柄ですから！」
美月に無邪気な笑顔を見せながら。

高鴨穏乃

「アレですとな！」

高鴨穏乃

「えーーーーー！！もっと美味しいのが食べたいーーー！？」

高鴨穏乃

「ほら！えっと……タピオカとか！そういうの昔、流行ってましたよね！」

高鴨穏乃

今も流行ってるんでしたっけ？
とオリハの方を向きながら。

高鴨穏乃

「え、タピオカ店が潰れて……漬物屋さんに……！？」
ガーン。とショック。

高鴨穏乃

「うぐっ……べ、別に～？好き嫌いとか、ないですし～？」

高鴨穏乃

愛から視線を逸らしながら。

高鴨穏乃

「そ、そんなことより！えっとじゃあ……！靴！動きやすい靴！探しましょうよ！」

高鴨穏乃

「あれじゃないですかね？昔ながらのチャルメラ……みたいな？」
美月の方を見ながら。

高鴨穏乃

「もん！！山登り大好き！！」
ニカッ、と愛へピースサイン。

高鴨穏乃

「だから最近……ほら！靴がすり減っちゃってまして……」
そう言い、足を上げ、靴の裏を見せる。

高鴨穏乃

シズの衣服の構造上……下半身が3人へ少しばかり見えて……。

高鴨穏乃

「おわぁ！？び、びっくりしたぁ！？」
美月の叫びに仰天し、そのまま尻餅をついてしまう。

高鴨穏乃

「あいたた……え、え～？ダメですか～……？」

高鴨穏乃

頭を少し掻きながらも、3人から責められているように感じ
申し訳なさそうな顔をしながら。

高鴨穏乃

「むぅ～……よく分かんないですけど、とりあえず気を付けます！」

高鴨穏乃

シュバッ、と敬礼。

高鴨穏乃

美月の手を取り、「ありがとうございます！」と笑い
元気よく立ち上がる。

高鴨穏乃

オリハに「もん！」と強く頷く、嬉しそうに。

高鴨穏乃

「か、可愛い……！？そ、そんなことないですよ～……！ていうか……その……」

高鴨穏乃

「愛さんとか、オリハさんとか、美月さんの方が、ずっと可愛いですし……」

高鴨穏乃

自分よりも女の子らしい、みたいな？

高鴨穏乃

「うぇっ……！！？」
ぼんっ、と顔が真っ赤になる。

高鴨穏乃

「う、うぅ、うぅぅぅ～～～～～……！！」
頭を抑えつけ。

高鴨穏乃

「と、とにかく！！靴！！買いに行きましょう～～～！！」

高鴨穏乃

恥ずかしそうに、とたとたと走っていく。

高鴨穏乃

そして今に至る！

高鴨穏乃

ぶお～～！っていう、おっきい船が駆動する音！！
そして、ざあ～～～！！っていう、波の音！！

高鴨穏乃

音だけじゃない！匂いも！！
潮風がほんのりと鼻腔を突っついて……
そして！

高鴨穏乃

『豪華客船』っぽい匂い！！
表現が分かんないけど！！っぽい匂い！！！

高鴨穏乃

「うおおおお～～～～～！！！海だ～～～～～～～～！！！」

高鴨穏乃

両手を広げながら、甲板で潮風に当たる穏乃。
ゆらゆらとポニーテールが揺れる。

高鴨穏乃

「本当にそうですよね！これってもしや……愛さんの運の良さが起因したり……！？」

高鴨穏乃

「む……？雲？　………む？うん？”うん”？？」

高鴨穏乃

←分かってない顔。

高鴨穏乃

「……？？？？？　えっと愛さん！私も分からないので！」

高鴨穏乃

「是非！ご教示を！！」
ずいっ、と愛へ接近。

高鴨穏乃

あれ……！？愛さん、顔が……！？

高鴨穏乃

「も、もしや……！？」

高鴨穏乃

「熱ですか！？大変だ！！オリハさん！！氷！氷を！！」

高鴨穏乃

「愛さん！風邪引いちゃってるか……も……？ほへ？」

高鴨穏乃

「ダジャレ、ダジャレ……」

高鴨穏乃

「雲……くも……雲は……くも……」

高鴨穏乃

「─────あ！！」

高鴨穏乃

「"うん"！！！そういうことなんですね！？！？わ、す、すごい！！！」

高鴨穏乃

「愛さん！！すごいです！！！！」

高鴨穏乃

ふんすっ！と鼻息を。

高鴨穏乃

「おお～～～～～～！！」
パチパチと拍手。

高鴨穏乃

「っぱ、愛さんってすごい……！！こんな面白いこと、考えることができるだなんて……！！」

高鴨穏乃

ガチの尊敬の眼差しを送る。
皮肉とかそういうものではなく、ガチの。

高鴨穏乃

「…………？」
すんすん、と何かを嗅ぐ。

高鴨穏乃

「この感じ………」

高鴨穏乃

野生児の、直感のようなもの、本能が働く。

高鴨穏乃

「─────"嵐"だ……！？」

高鴨穏乃

緊張感漂う表情へ一変。
嵐であれば……どこかへ避難すれば良いのだが……。

高鴨穏乃

キョロキョロと、思わず辺りを見渡してしまう。
そして目に映るのは─────どこかしこも、地平線まで続く、『海』。

高鴨穏乃

愛と美月に、こくりと頷き。

高鴨穏乃

「そうですね……オリハさんの言う通り……まずは中に入った方がいいかも、ですね……」

高鴨穏乃

「……見てください、波がちょっと……荒ぶり始めてます」
視線を、海の方へ。

高鴨穏乃

安全な場所へ逃げるのがいい、それが最善なのは分かっている。
でも─────。

高鴨穏乃

・・　　　　　・・
どこへ行けば、安全なんだろう？

高鴨穏乃

「……はい……船の上で……海の上でも、あります……」

高鴨穏乃

服に、肌に水が濡らされていき。

高鴨穏乃

そしてその勢いは─────たった数秒で、より激しく。

高鴨穏乃

空の色がどんよりとした、真っ黒な色に染まっていき─────。

高鴨穏乃

「っ……！？な、なんだ、これ……！？雨が、すっごい痛い……！？」

高鴨穏乃

咄嗟に、愛、オリハ、美月を抱き締める。
山登りを趣味にしていたこともあり、筋力、体力、共に平均よりも高く。

高鴨穏乃

次第に吹き荒れる雨風に、この場にいる全員が─────

高鴨穏乃

─────立てなくなるほど……。

高鴨穏乃

「っ……！？！？な、なんだ……！？今の……！？」

高鴨穏乃

やばい……！！マジで、視界が何も、視えない……！！

高鴨穏乃

う、うおぉぉおおお……！！！絶対に！！この手を！！
離すもんかぁあああっ………！！！！！

高鴨穏乃

「愛さん！！！オリハさん！！！美月さん！！！！」

高鴨穏乃

「しっかり！！！捕まってください！！！！」

高鴨穏乃

叩きつけられる雨の音に負けないくらい
パニックになる、他乗客員の悲鳴に負けないくらい
大声で。

高鴨穏乃

「─────うわぁああぁっ……！？！」

高鴨穏乃

全員、投げ出される。
そこにあったはずの床が大きく傾き……。

高鴨穏乃

船外へと─────。

高鴨穏乃

「なっ─────！？！」

高鴨穏乃

「うわあぁぁああぁぁああぁぁぁッッ……！！！？？！？」

高鴨穏乃

いくら筋力があったって、いくら体力があったって
穏乃は、女の子、小柄な女の子。
自然という大きな運命の前には、抗うことなどこれ一つもできず。

高鴨穏乃

ちく……しょう………！！

高鴨穏乃

無念を、心の中で吐き捨てる。
恐怖もある、でもそれ以上に、悔し涙を溢しながら。

高鴨穏乃

そして大きな海へと─────沈んでいく……。

高鴨穏乃

そして美月の視界には……砂浜に投げ出され、ぐったりとしていた
穏乃の姿が。

高鴨穏乃

「んっ………」

高鴨穏乃

ぴちゃ、という水音を立てながら、小柄な少女が、目を醒まし
ゆっくりとその体を持ち上げる。

高鴨穏乃

「……あ、れ……？……ここ、は……？」
辺りを見渡しながら。

高鴨穏乃

「うわぁあっ……！？」
思わずビックリしながらも。

高鴨穏乃

「み、美月さん！！……そ、それに……！」

高鴨穏乃

「愛さん！オリハさんも！！！」

高鴨穏乃

「……あれ？……ていうか、美月さん……？……あ、メガネ！！メガネが無い！！」

高鴨穏乃

「あ、えっと、えっと……　……あ！これ！」
偶然落ちていた、美月のものと思わしきメガネを拾い。

高鴨穏乃

「はい！これをどうぞ！……割れちゃってるかも、ですけど」
そのメガネを渡し。

高鴨穏乃

「……そう、みたい……ですかね……？」
オリハに頷き。

高鴨穏乃

「……助かったのは……私達だけ……なのでしょう、かね……？」
辺りを見渡しながら。

高鴨穏乃

「……あ！携帯！愛さん！携帯は！？」

高鴨穏乃

「むっ……！？……うぇっ……！？そ、そんな……！？故障、とかじゃなく……？」
愛の携帯を覗き込み。