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マサト

ドロシーが大きな洋風の館の扉を開けると─────その奥には、黒のタキシードの男が佇んでいた。

マサト

左手を腹部に当て、右手は後ろに回したまま、深々と、ゆっくりと三人へと御辞儀をする。

マサト

「お待ちしておりました、ドロシー様、トガ様、坂田様」

マサト

「恐縮でございます」
微笑みながら、静かに答える。

マサト

あ、あはは……と眉を八の字にして笑っている。

マサト

「ベロニカお嬢様の御客人は、本当に皆様個性的で……きっと、楽しい宴となること間違いなしでございましょう」

マサト

「かしこまりました、御髄意に」
そう言って、深々と頭を下げると。

マサト

こちらでございます、とカーペットの敷かれた廊下を先導し、案内する。

マサト

道中には、いかにもな骨董品が置かれていた。
壺に、絵画に、まるで異国に来たような、そう感じるかもしれない。

マサト

コンコンコン。と一層格式のある茶の扉へとノックする。
「失礼いたします、お嬢様。御客様がお見えになっております」

マサト

「かしこまりました」
静かにそう返答すると、三人が通りやすいように扉を開き、支える。

マサト

廊下の寒い風が入らないように、そして室内にいる方々を驚かせないように、ゆっくりと扉を閉める。

マサト

四人の座る革製のソファの前の、装飾の凝ったテーブルへと、ティーカップを人数分、音を立てないように置いていく。

マサト

紅茶の優雅な香りが、鼻腔を仄かに通り抜けていくことだろう。

マサト

「え」
想定外のオーダーに、一瞬目を丸くしてしまうものの。

マサト

「か、かしこまりました」
すぐに表情を微笑みへと変え、深々と御辞儀。

マサト

そして、暫くしない内に、好みの量で調整できるように、砂糖とガムシロップの入ったバスケットを持ってくる。
静かにテーブルへと置くと、ベロニカの言葉に、にこりと微笑む。

マサト

「恐縮でございます」
どこか、嬉しそうにも見えるかもしれないだろう。

マサト

←嬉しそう

マサト

ただ銀さんの作法を見て、ぎょっと、藤色の瞳がまた開くも。
さささっと、前髪を整え、フォーナルな直立姿勢へと戻る。

マサト

曖昧に微笑むまま。
に、にこにこ。

マサト

「！？」
え、ええ！？私め！？という、吃驚したような反応を見せる。

マサト

まばたきの回数が多くなる。狼狽えている。

マサト

しかし、ベロニカの言葉に、フフッ、と微笑む。

マサト

その視線に関しては─────にこりと、ただ微笑む。
何も口にせず、ゆっくりとした会釈。

マサト

男は扉の前で、にこやかに、ただそれを『受け入れている』ように、佇む。

マサト

意図を承り、胸に手を当て、御辞儀。

マサト

「─────では、皆様を会場へと御案内させていただきます」

マサト

承りました。と返事をし、扉を、ぎぃぃ、と開く。

マサト

「ドロシー様、トガ様、坂田様」
三人の方へと、藤色の片目を向けると、にこりと微笑み。

マサト

「本日は、どうぞ、ごゆるりと、パーティーを御楽しみくださいませ」

マサト

マサト

マサト

マサト

一方。

マサト

小雨の中、鬱蒼とした森の中。

マサト

洋館から少し離れた場所に─────濡れたスーツの男が。

マサト

整えた髪も、崩し、鼻先に水を伝らせ……背を、少し曲げながら。

マサト

ただ、佇んでいた。雨風が、男の毛先を揺らすだけ。

マサト

「………………」

マサト

表情は、無だった。

マサト

─────そして、その手には……銀に光る獲物と、塗られた真っ赤な色。

マサト

もう片方の手で、降りた前髪を横へ掻き分けると………。

マサト

「驚きましたよ」

マサト

「……ええ、実に……驚きました」

マサト

「私にも、まさか……このような『感情』があったことも」

マサト

「そして……」

マサト

倒れ伏す男を、虚無の瞳で見下ろしながら。

マサト

マサト

「─────憎悪を終わらせても、存外……何も、感じないことも……」

マサト

マサト

そこには、喜びは無い。
しかし、罪を犯した悔いも、悲しみも、存在しない。

マサト

ただ……『無』。

マサト

人の手足となるために生まれ、育ってきた男は、始めて……。

マサト

道を、踏み外すのだった。

マサト

『自分の意志』という、『バグ』によって─────。

マサト

マサト

マサト

マサト

「─────いかがなさいましたか！……　……！」

マサト

悲鳴に駆けつけ、扉を開ければ……そこには、死体があった。

マサト

黒スーツの男は、藤色の瞳を見開き、冷や汗を浮かべる。

マサト

……前髪を指で、少し整える。

……スーツの端からは、ぴちょり、と拭き残した水滴が、床へと落ちる。

マサト

「……ドロシー様、こちらは……一体……」

マサト

『探偵』というカヴァーを持つ方であることをは既に掌握済み、故に視線を向ける。

マサト

しかし、第一発見者が、『探偵』とは。

マサト

─────混沌に満ちた中、マサトの下へ、他の執事がやってくる。

マサト

そして、耳元へぼそぼそと、『何か』を伝えられる。

マサト

マサトの表情が、驚愕に満ちる。

マサト

「………！……い、いえ……それが……」
眉に力が込められた表情で、ドロシーの方を向く。

マサト

「どうやら……外の雨が強くなり……嵐のために、この洋館へと繋がる橋が……」

マサト

「─────『崩落』してしまったようでして……」

マサト

「え、ええ……其方の方は、問題ございません」

マサト

「─────！！」

マサト

藤色の瞳を見開き、そして……ドロシーの方を向く。

マサト

顎に指を添えて、眉を顰める。

マサト

「……ええ、崩落時刻を鑑みますに……」

マサト

「『犯人』は、逃げることは不可能でございましょう」

マサト

探偵の推理が始まり……神妙な面立ちで、視線を坂田の方へと向ける。

マサト

「……『アリバイ』は……大事で、ございますからね」

マサト

言い切るには、含みがあった。間があった。

マサト

「坂田様？」

マサト

「……ご体調が優れないご様子、でしょうか？」

マサト

こくり、こくりと、頷く。

マサト

「……そうですね……今は皆様、パニック状態におります……」

マサト

「……お嬢様、一度……この部屋を空にし、この館にいる方々を全員、会場へ集めるというのは……いかがでございましょう？」

マサト

『アリバイ』追求は、マサトにとっても……矛先を向けられるわけには、いかないものだった。

マサト

……『道』は、踏み外した。しかし、それでもまだ、『残れる』。
この『道』しか知らないのだから。
だからこそ、自分は、自分であろうとする。

マサト

『執事』としての自分のまま、そうでなくては……どう『生きれば』良いか、分からない。

マサト

「ええ、では早急に手配を整えてきて参ります」

マサト

そう伝え、ベロニカへ深々と御辞儀を行うと、部屋を去っていく。

マサト

─────そして一同は……パーティー会場へと戻されることとなった。
そこには、他の参加者達に、メイド、執事、料理人などなど、およそ20人近くが集められているのだが……。

マサト

……『人数』が、明らかに……各々の想定よりも、『少なかった』。

マサト

ご随意に、と返答し、名簿の調査を行うも……。

マサト

ベロニカの方を向き……眉を顰め、ゆっくりと首を、横に振るう。

マサト

「……『全員』では、ありませんね　……館内アナウンスは、いたしましたが……」

マサト

「プ、プライバシーですので……　……ですが、苗字だけなら……　……あ、いますね……」

マサト

ぺらぺらと、名簿を捲って確認している。

マサト

ヒミコの言葉に頷き、リアクションする。

マサト

あの場にいなかった者達にもきっと、現状の『事実』が伝わったことだろう。

マサト

他参加者達の目が、ドロシーへと向けられていく。

マサト

頷く動作。

マサト

その後、マサトは、図書室周りに、他に誰かいなかったかを、メイド、執事同士で情報交換し合っているようだ。

マサト

ドロシーの耳には、メイド、執事達による「あの辺りには誰もいなかったような」「他の御客様も足を運ばれることは、なかったような……」という、不穏な会話が、聞こえてくるだろう。

マサト

情報共有を終えると、ドロシーの方へと、藤色の瞳を向ける。

マサト

「……差し出がましいでしょうが、もう一度、『ご確認』をさせていただきます」

マサト

「ドロシー様は……『御探偵』で、相違ございませんか？」

マサト

逡巡するように、眉を顰めて、そして二人の反応に頷くと。

マサト

「……状況整理を可能とするのは……おそらくは、ドロシー様しか、ございません」

マサト

「探偵、警察と言ったような役職に就く方は、他にはおりません」

マサト

「で、あるからこそ……『再確認』でございます」

マサト

「─────『犯人』では、ないのですね？」

マサト

揺さぶりであった。そして……マサトにとっても、『不都合』な存在。

マサト

『真実』の『探求者』が、もしも……『殺人』に手を掛けていたのだとしたら。

マサト

自分の犯した罪も……『誤魔化し』は、いくらでも利きようがあるのでは？
という、意図であった。

マサト

そして、二人の反応を見て……目を細めるのだった。