Ccfolia Log

ハッカドール3号

「おー？映ってるかなー？」

ハッカドール3号

スマホの画面にアップで映る、とろんとした紫色の瞳。

ハッカドール3号

ぷにっとしたほっぺと、そしてもさもさとしたスカイブルーの髪の
まるで小学生くらいの少女と見間違えてしまう容姿の……少年。

ハッカドール3号

「あーあー、マイクテストマイクテスト、どーかな？モモー」

ハッカドール3号

場所は、とある学園前。
時刻はというと、校舎内で部活動等に勤しみ
生徒達の明るい声が外まで聞こえてくる、放課後の刻。

ハッカドール3号

ここまでは、普通の光景かもしれない。

ハッカドール3号

「お～～～、それなら良かった良かったー
　今日は1号も2号もいないから、ヘルプに来てくれて
　助かっちゃったよモモ、ありがとねー」

ハッカドール3号

低い、ゆっくりとした声のトーンで、のんびりとそう言いながら。

ハッカドール3号

「んー？そーだねー、モモが嫌がるなら映さない予定というかー
　このまま、カメラマンをやってもらおっかなー？って思ってたけどー」

ハッカドール3号

3号と呼ばれた少年はというと、特に今自分達が着用している
あまりにも愚かしい、痴女痴女しい格好に対し、特に疑念を感じておらず
純粋なのか、マイペースの度が過ぎているのか、はたまた考えていることを放棄しているのか……。

ハッカドール3号

「でも、モモが映ってくれたら、再生回数上がりそーかも？
　モモって、すっごく可愛いしねー」

ハッカドール3号

彼らは一体何をしているかというと、動画配信準備だ。
スマホでこうして撮影することにより、某動画サイトへアップロードし
そして、広告収入を得るという、典型的な動画配信業を行なっている。

ハッカドール3号

ちなみに、このマイクロビキニはというと。
世の流行りというものでもあった、一部の若者に受けているだとか。
そして、3号と呼ばれた少年が所属するチャンネル「ハッカドールチャンネル」は
これまでは露出度の控えめな、近未来的な衣装で配信を行なっていたのだが……。

ハッカドール3号

どうも最近、再生回数が伸び悩んでいた。
ハッカドールチャンネルは、この動画配信サービスを行うことで
どうにか生計を立てていたため、苦肉の策としてマイクロビキニに手を出したというわけだ。

ハッカドール3号

実際、再生回数はそれなりに回復し始めた。

ハッカドール3号

「んーー、確かにねー……ボク、男なのに
　女の子が着るような水着を着るのはちょっと、抵抗はあるけどねー…」
自分の白いマイクロビキニの紐を少し引っ張りながら。

ハッカドール3号

「でも、生活のためだから、しょーがなしだねー
　ボクも好きなゲームとか、漫画とか買いたいしー」

ハッカドール3号

「それにさ、悪い方向ばっかし考えてても、楽しくないしね？」

ハッカドール3号

「だったらボクは、面白おかしく、楽しくやっていこーかなー？って
　その方が、みーーーんな笑顔になる、でしょ？」

ハッカドール3号

とろんとした目で、モモをじっと見つめながら、きょとんと小首を傾げ。

ハッカドール3号

「でもさ、これはあくまでボク達の問題だとして
　ちょっと疑問に思ったけど、どーしてモモは手伝ってくれたの？」

ハッカドール3号

モモに言われ、はーい、と素直に返事をし、紐から指を離しつつ。

ハッカドール3号

眠たそうだというのに、熱が籠っているのか
興味津々な瞳で、じーーーっと見ながら。

ハッカドール3号

「…………………」

ハッカドール3号

静かな顔で、ぱちぱちと瞬きをすると。
徐々にほっぺが緩み、口角が少しだけ上がり。

ハッカドール3号

「………ありがとう、そんな風に思ってくれて」
無表情と、微笑の境目で。

ハッカドール3号

「キミとはいいパートナーになれそうだよー、よろしくねー」
モモに手を伸ばし。

ハッカドール3号

にっ、と笑いながら。

ハッカドール3号

「ふっふっふー、それじゃ～」

ハッカドール3号

「困っている人に寄り添う、パーソナル……パーソナル？
　えーと……パーソナルなんちゃら、ハッカドールチャンネルー！」

ハッカドール3号

「出発進行だ～！」
片方の手で拳を掲げながら。

ハッカドール3号

ハッカドール3号

ハッカドール3号

そして、部室前にて。

ハッカドール3号

コンコン。と小さな手でノック。

ハッカドール3号

「失礼しまーす、パーソナルなんちゃらハッカドールチャンネルの
　3号が来たよー、えーーと……お名前は……忘れちゃった……」

ハッカドール3号

「あ、そっか、八雲部長さんか」
ポン、と手のひらに拳を乗っけながら。

ハッカドール3号

やほやほー、と八雲に手を振ってる。

ハッカドール3号

「ほへー、じゃあ八雲部長さん一人でやってるんだ？すっごく大変そーだぁ」
なんて言いながらも、八雲の言葉にきょとんとした顔をして。

ハッカドール3号

「大丈夫大丈夫ー、そこらへんはなんとかなるよきっとー、メイビー」
と言いながら、モモの言葉に、こくこくと頷きながら。

ハッカドール3号

「ほーほー！ミス研の事件解決！」
興味を惹かれたのか、眠たそうな目をキラキラとさせながら。

ハッカドール3号

いいねー、楽しそうだー！と、少年らしく少しはしゃいでいる様子。

ハッカドール3号

「ほほー！どんな依頼かなー？ワクワク」
目を少し大きくしながら。

ハッカドール3号

「わっ……それは園芸部員さん達にとって、きっと嫌な事件だねー……ん？」

ハッカドール3号

同情したのか、困ったような顔をしていると
横に立つモモが大きな反応を示したことに少し驚き。

ハッカドール3号

「モモ、ちょっぴし声大きくなったけど、どーしたの？」
小首を傾げながら。

ハッカドール3号

ほへーー、そーなんだ？と、興味深そうにモモの方を見て話を聞き。

ハッカドール3号

同じく3号も、八雲の方を向いて頷き。

ハッカドール3号

「ボクも、困っている人がいるなら見過ごせないし
　でも八雲部長さんがこの事件を解決してこそ……このミス研の
　活性化に繋がるもんねー？」

ハッカドール3号

横から感じるモモの熱意に、なんだか3号は共感を覚えながら。
心の中で、やっぱりモモっていう女の子は、優しい子だなー。と感心しながらも。

ハッカドール3号

「……でも、あんまりミステリー関係無さそうだよねー」

ハッカドール3号

うーん、とミス研にこの依頼が出された理由を少し考え始めるも。
情報があまりにも無さすぎるために、答えは出ず。

ハッカドール3号

そして、八雲の言葉に完全同意したように頷き。

ハッカドール3号

「……だねー！八雲部長さん、カッコイイじゃん」
グッ！とグッジョブサインを出し。

ハッカドール3号

部長は偉大なのだ。

ハッカドール3号

ちらりと、モモの方を見ながらも、八雲の方へ戻し。

ハッカドール3号

「じゃあ、そっちの事件も何か進展とかあったら
　是非ともボク達にも教えてくれると、嬉しいかも？」

ハッカドール3号

分からないけど、でもモモは園芸部の事件のことを気にしてるみたいだし。
ボクも、気になっちゃうことには気になっちゃうしねー。

ハッカドール3号

「ありがとー、じゃあこの部室はボク達で責任持って守るぞー」

ハッカドール3号

そう言い、近くにあった椅子に飛び座り、だらだらスイッチがオンになる。
ぐでーっと、まるで溶けたスライムのようにリラックスする。

ハッカドール3号

いってらー、と八雲の背が完全に見えなくなるまで
だらだらーっと手を大きく振る。

ハッカドール3号

そして、ちらりとモモの方を向いて。

ハッカドール3号

「……ねぇ、モモ─────」
さっきのことが気になる、ちょっと聞いてみようかなと思った矢先であった。

ハッカドール3号

「おわ～～～～～～～～」

ハッカドール3号

不意を突かれたのか、椅子に凭れながら座っていた3号は、倒れてしまう。

ハッカドール3号

「あいたた……ん？ああ、うんうん、大丈夫だよー
　ほーら、へっちゃらへっちゃらー」
頭を少し摩りながら立ち上がる。淡々とした喋り口調で、現れた竹取をじーっと見て。

ハッカドール3号

「えーーと、確かキミは、えーっと……」

ハッカドール3号

「新顔…………　……うん、そうだよー」
色々説明するのが面倒になったのか、こくりと頷き。

ハッカドール3号

「竹取って言うんだね、ボクは3号、よろしくねー
　それにしても元気だねー？八雲部長さんに用事があって来てくれたのかなー？」

ハッカドール3号

やほやほー、と竹取にフレンドリーな様子で、ゆらゆらと手を振り。

ハッカドール3号

あと体を支えてくれたモモにも、ありがとー、とのんびしとした口調でお礼を言いつつ。

ハッカドール3号

「えー？そーなの？どうしてだろー？」
きょとんとしながらも。

ハッカドール3号

「ねぇモモ、八雲部長さんと竹取の関係って、どーゆー感じなの？」
小首を傾げながら。

ハッカドール3号

「んーーーーー……わかんないねー……」
再び、椅子にだらーっとしながらも。

ハッカドール3号

「まーでもいいやー、竹取もどーぞどーぞ
　ゆっくりしていけばいいよー」
手をひらひらとさせながら。

ハッカドール3号

「……あ、そうだ、ちなみになんだけどー
　八雲部長さんから、ここで新しい依頼が来ないか
　待っているようにって言われててねー」

ハッカドール3号

椅子の上で、地に着かない足をぷらぷらとさせながら。

ハッカドール3号

「ボク達も、ここに来たのも
　困った人を助けるためっていうのが理由なんだー」

ハッカドール3号

へへへー、と普通に嬉しそうな顔をする。

ハッカドール3号

あ、それグッドアイデアだよー！とモモに、グッジョブサインを出す。

ハッカドール3号

「アプリ？」
小首を傾げながら、ひょこっと立ち上がり
竹取の後ろへと回り、頑張って背伸びしてスマホの方を見て。

ハッカドール3号

「ほほー？CS？それって─────」

ハッカドール3号

「確か、交換日記のアプリ、だよね？」

ハッカドール3号

3号は、人助け専用パーソナルAIを名乗っている、ということもあり
そういったアプリの情報については、それなりに熟知しており。

ハッカドール3号

また、本人もゲーム好きということもあり。

ハッカドール3号

「まぁねー、ボクゲームとか好きだしー
　……でも、やったことはないんだよねー」

ハッカドール3号

ちょっと気になるかもなー？と思いながら。

ハッカドール3号

「いいねー、やろうよ、CSー！」

ハッカドール3号

「いいねー、交換日記自体、色々やり取りするのが楽しいものなのに
　加えて育成要素もあるってなったら、ハマる人も続出するわけだー」

ハッカドール3号

眠たそうな目をしていながらも、興奮スイッチがオンとなったのか
すっかりノリノリになっており。

ハッカドール3号

「は～い、よいしょ、これでどーかな？」

ハッカドール3号

ぽちぽちと、言われた通りのコードを入力する。

ハッカドール3号

「ほほーー、色んな項目があるねー？それにUIもオシャレだし
　男女関係なく遊べるようなデザイン性だ、すごいなぁー」

ハッカドール3号

うんうんー！と頷きながら、モモにもアプリを催促するように。

ハッカドール3号

「ふっふーん、ボクはゲーム慣れてるからね
　言われる前に……ほら！」
どやっ！とした顔を竹取に見せつつ。

ハッカドール3号

書庫ボタンを既に押しており、そこから招待コード発行を、ぽちっと押していた。

ハッカドール3号

ちょっと何故か誇らしげな顔で、胸を張りながら。

ハッカドール3号

にやりっ！と笑う3号。

ハッカドール3号

「ふっふっふ……いずれわかーる」

ハッカドール3号

悪ノリで、どこか楽しそうに。

ハッカドール3号

「おー！」

ハッカドール3号

モモの画面を背伸びしながら確認した後、自分のスマホの画面を
竹取に見えるように、掲げながら。

ハッカドール3号

「ほほー、ここらへんは何となくた〇ごっちと似てるねー」

ハッカドール3号

「いっぱい、ああああああって書くぞー！」

ハッカドール3号

「あはは、冗談だよ冗談ー」
モモの反応を楽しむように、小さく笑いながら。

ハッカドール3号

「へ～、どんな魔女が出てくるのかなー？それも楽しみだねー」

ハッカドール3号

「ボクも聞きたい聞きたいー！」
ぴょんぴょん跳ねながら。

ハッカドール3号

「これはじゃあ………」

ハッカドール3号

「要は………ガチャ！」
ごくりっ！と冷や汗を浮かべながら。

ハッカドール3号

「あははー！……ん？そーなんだ？課金要素、このアプリ無いんだ？」

ハッカドール3号

じろじろと画面を見ながら、そういえば広告とかも、特に出ていない。

ハッカドール3号

「ははー、なるほどなぁー……」
ふむふむと頷きつつ。

ハッカドール3号

─────それにしても、収益を作るポイントとか
あとベータ版にしても、ちょっと色々……"ボク"としては
なんだか、引っかかるよーなところはあるけど……。
……多分、気のせいだねー！

ハッカドール3号

モモの言葉に、確かにと頷く。
─────3号は、このアプリのディベロッパーに、興味が芽生えてきた。

ハッカドール3号

「……まぁいいやー！それでこの歴史っていうのは、"ログ"かな？」

ハッカドール3号

「なるほどねー、表記方法が古風で、若干今の流行りとは
　ちょっと違うような気はするけど、でもこれが独自性にも
　繋がってるかもだし？それに分かりやすいし、いいねー」

ハッカドール3号

「機能としては、そのくらいなのかな？」
小首を傾げながら、竹取を見て。

ハッカドール3号

「おっけー！」
指で丸マークを作り。そしてぽちぽちとスマホの画面を弄り。

ハッカドール3号

「『〇月△日、ハッカドールチャンネルの動画撮影のために
　◇◇◇学園に到着！モモという優しい女の子に撮影協力を貰ったー
　ちょーありがたいよねー、そんなこんなでミス研に来たわけだけどー
　八雲部長は、中々のナイスガイ！そして竹取もノリノリな子で
　それに、このアプリを教えてくれたし、超いい子ー！
　生活のためにも、そして困っている人のためにも！
　日々邁進するぞー！えいえいおー！　P.S.新作のゲーム欲しい』
　……っと！」

ハッカドール3号

手でぽちぽち打つのは面倒だったらしく、ボイス機能を使って打ち込んだ。

ハッカドール3号

「あ、バレちゃった、でもそゆことー」

ハッカドール3号

「この格好だと再生回数が伸びるんだよねー、どーよ」
竹取にポーズをちょっと決めてみる。

ハッカドール3号

「いえーい、分かってくれてありがとー」
のんびりとした口調で、楽しそうに手を掲げ、ハイタッチをせがむ。

ハッカドール3号

撮る撮るー！と、軽快にタッチを決める。

ハッカドール3号

「おわ～～～～～～～」
すっ飛ぶ。

ハッカドール3号

「あいたた～……くない！柔らかい……！
　……むむむ？君は？」
モモの胸に受け止められつつも、少女の方を見て。

ハッカドール3号

「ほほー、織畑っていうだね、けっこーカッコイイ名前だねー」

ハッカドール3号

「ボクは3号だよー、なんとかなんとかチャンネルやってるんだー
　わけあって、ここのお手伝いしてるから、お悩み相談は
　な～～んでもばっち来～いだよ～」

ハッカドール3号

織畑にひらひらと手を動かしながら。

ハッカドール3号

ほほー？と、織畑のスマホ画面を見ると。

ハッカドール3号

「あ、CSだね？織畑もやってるんだー？
　それで、CSがどうしたのかなー？」

ハッカドール3号

「…………………え？」

ハッカドール3号

きょとんとした顔をして。

ハッカドール3号

記憶が、無くなる？アプリのせいで？
……？？？？？？？
ソフトウェアが、ハードに直接影響を及ぼすだなんて、聞いたことが……。

ハッカドール3号

いつもの眠たそうな顔ではなく、真剣な顔になりながら。

ハッカドール3号

「………もーちょっと詳しく聞かせてもらってもいいかなー？
　あ、中に入って座っていいよー」

ハッカドール3号

3号は自分の座っていた椅子を織畑に座らせようとする。
自分はというと、とりあえずすっ飛ばされて、モモに受け止められたままなので
そのままモモの膝の上に乗っかりながら、相談を聞くことに。

ハッカドール3号

「…………………ふむふむ」

ハッカドール3号

顎に指を置きながら、頷きつつ。

ハッカドール3号

「このアプリを始めたのは、いつから……かな？」

ハッカドール3号

若年性認知症の可能性……が一応、ボクが演算した候補としては
挙げられるけど……でも、この子がミス研に相談したってことは
………多分、違う、のかな……？

ハッカドール3号

「………お医者さんには？」

ハッカドール3号

「……」
まだ3号は、この案件の"バグ箇所"が特定し切れないままでいた……。
普通であれば、それでも医者に相談するといいよ、と言えばいいのだろう。

ハッカドール3号

しかし─────。

ハッカドール3号

彼女が、真剣な顔で、そして……。

ハッカドール3号

切実に、藁にも縋る思いでここに来たということが
痛いほどに伝わってきた。

ハッカドール3号

「よーし」

ハッカドール3号

「じゃあ、織畑、安心するといいよー」

ハッカドール3号

「ボク達でそれ、なんとかしてみせるよー」

ハッカドール3号

ね？と真上を見上げ、モモに賛同を求める。

ハッカドール3号

─────そもそもだ。
3号は、このCSというアプリに、何か違和感のようなものを抱いていた。

ハッカドール3号

可能性としては低いかもしれないが。
このアプリについて、深く調べるいい機会なのかもしれない。

ハッカドール3号

まぁそれは、あくまでボクの興味として。

ハッカドール3号

やっぱり、今にも泣きそうな子を放っておくなんてボクは、無理かな。

ハッカドール3号

モモに言葉に、にやりと笑う。

ハッカドール3号

「ありがとー、モモとはなんだか気が合うね」

ハッカドール3号

織畑に、グッジョブサインを向ける。

ハッカドール3号

「じゃ、まずは─────統計データを取らないとだね」

ハッカドール3号

「織畑以外にも、この件で困っている子がいるかもだし
　というわけで─────」

ハッカドール3号

「学校で色々アンケートを取ってー、あとは」

ハッカドール3号

ちらりと、自分のスマホを見て。

ハッカドール3号

「─────ボク自身も、被検体だね」

ハッカドール3号

「んー……」
モモに問われ、暫しの沈黙の後。

ハッカドール3号

「まぁ、ボクは大丈夫だよ」

ハッカドール3号

「そういう"使命"だし」

ハッカドール3号

さらっと、そう言った後、すぐに話題を変えるように。

ハッカドール3号

「─────というわけで、モモは一旦日記をすとーっぷ」

ハッカドール3号

「竹取も、まだ書いてないよねー？」

ハッカドール3号

ちらりと、竹取の方を向いて。

ハッカドール3号

とろんとした目で、あちゃー、としながら。

ハッカドール3号

「……でも、竹取も一旦ここでストップってことで、いいかな？
　ちょっと強引だけどねー、竹取にとっても、あんまり
　面白くない提案かもしれないけど……」

ハッカドール3号

そしてモモの方を向いて。

ハッカドール3号

「うん、"対照実験"」

ハッカドール3号

へへー、提案飲んでくれてありがとうねー、と竹取にへにゃりと笑う。

ハッカドール3号

モモの言葉に、こくりと頷き。

ハッカドール3号

「現時点では、"証明不可"だもんねー」
困ったような顔をしながら。

ハッカドール3号

織畑に、にこりと微笑みながら。

ハッカドール3号

「大丈夫大丈夫～、だって織畑はさ……なんとかしたくて
　ここに来たんだもんね？だからもう、安心するといいよー」

ハッカドール3号

「もちろん、織畑もここで日記は一旦ストップ……ってことで、いいかな？」

ハッカドール3号

じぃっと、眠たそうな、それでいて熱の籠った紫色の瞳を向け。

ハッカドール3号

それならよーし！とグッジョブサインを出す。

ハッカドール3号

そして、真上を向いて。

ハッカドール3号

「─────モモも、それでいいよね？」

ハッカドール3号

じーー。と見つめた。

ハッカドール3号

「………え？」

ハッカドール3号

目を少し丸くしながら。

ハッカドール3号

「─────！！」

ハッカドール3号

正しい。たった1個のデータだけじゃ、それがそうあると証明するには
根拠が乏しすぎる。何も言い返すことができなかった。

ハッカドール3号

「あ……」
モモに頭を撫でられ、少し心地よさそうな顔をしながら。

ハッカドール3号

「………モモ………」

ハッカドール3号

少し俯きながら、考え。

ハッカドール3号

「……………何も言い返せないや」

ハッカドール3号

そして、見上げながら、にこりと微笑み。

ハッカドール3号

「………ありがとうモモ、すっごく助かるよ
　─────やっぱりキミは、心優しい女の子だね」

ハッカドール3号

ボクは、モモの手を振り払うという選択肢ができなかった。
それがたとえ、最善手だとしても。
─────小悪魔の情熱に、魅入られたのだ。

ハッカドール3号

そして、ぴょいんと、モモの膝から降り。

ハッカドール3号

「じゃあ早速、学校でCSを使っている人にアンケートでも
　取ってくるよー、それと、もしも他に何かあったら
　いつでもこのミス研に来てねー」

ハッカドール3号

織畑に、にこりと微笑みながら、てくてくと部室を出ようとする。

ハッカドール3号

ハッカドール3号

ハッカドール3号

そして結果はというと。
─────織畑のように、違和感を抱く者は、誰一人としていなかった。

ハッカドール3号

考えてみればそうだ、もしも織畑のような事例があれば
とっくにミス研に大勢が駆けこんで来たっておかしくない

ハッカドール3号

そもそも、このCSというアプリが大流行しているというのに
歯止めがかかっているだろう。記憶が失われるという現象が
普遍的に起きている、のだとしたら……。

ハッカドール3号

「─────というわけみたいだね、モモ」

ハッカドール3号

茜色の光が差し込む教室内で、机の上に座る
マイクロビキニを着用する少女のような見た目の少年。

ハッカドール3号

スカイブルーにも、茜色が溶け込むように。

ハッカドール3号

「収穫としては、残念な感じだー……
　………これだと、織畑だけにしかこの現象が
　起きていないってことになっちゃって、信頼性も……」

ハッカドール3号

織畑を疑っているわけではないという言葉に、強く頷く。

ハッカドール3号

あの瞳が嘘だなんて……そんなデータは、ボクが否定する。

ハッカドール3号

「………織畑に、何があった……？……ハッ！」

ハッカドール3号

何が気が付いたかのように。

ハッカドール3号

「そ、そうか……！さすがモモだよ！」

ハッカドール3号

「実証実験するなら、そうだよ！」

ハッカドール3号

少し興奮気味に、モモの両手を握り締めながら。

ハッカドール3号

こくりと、頷く。

ハッカドール3号

「─────織畑が書いた日記と、全く同じやり方、内容で！
　ボク達も……"伝誦"する！」

ハッカドール3号

「再現性だよ、モモ！」

ハッカドール3号

頷く。

ハッカドール3号

少し、冷や汗を浮かべながら。

ハッカドール3号

「………そうやって、可能性を一つ一つ確かめていくのが、いいだろうねー」

ハッカドール3号

「じゃあ、モモ！もう1回織畑のところに行こっかー！」

ハッカドール3号

モモに微笑み返しながら。

ハッカドール3号

「……あ、そうだ、そういえば……"伝誦"すると、どうなるんだろうね？
　ボクもモモも、日記を書いちゃったわけだけど……」

ハッカドール3号

スマホの画面を、じっと見ながら。

ハッカドール3号

「えい」

ハッカドール3号

伝誦のボタンを押してみる。

ハッカドール3号

「ん？どれどれー」
スマホの画面を見てみると……。

ハッカドール3号

「……………」
じーーーー。と読んで。

ハッカドール3号

そして、モモの方を向いて。にやりと。

ハッカドール3号

「いいね」

ハッカドール3号

あはははーと笑いながら。

ハッカドール3号

「まぁまぁ、モモらしい内容だしねー」

ハッカドール3号

そう言いながら、モモの手を引っ張りつつ。
スマホの画面をちらりと見てみる。
変化は、訪れているのだろうか？

ハッカドール3号

「………ふむふむー」

ハッカドール3号

声を漏らしながら、足を進めていると……。

ハッカドール3号

どんっ、と誰かとぶつかってしまう。

ハッカドール3号

【広告】
※ストップ！歩きスマホ
【広告】

ハッカドール3号

「ぐえー」

ハッカドール3号

誰かとモモの間に挟まれる。

ハッカドール3号

もぞもぞ！と胸の中で頭をなんとか出しながら見上げると
そこには、織畑の姿があった。

ハッカドール3号

「あっ、織畑！ごめんねー……ボクがよそ見してたから……
　ううん、ボクは大丈夫だよ、織畑とモモは大丈夫ー？」

ハッカドール3号

「確かに！ちょうど織畑を探していたところなんだよー」

ハッカドール3号

3号も眉をハの字にし、渋そうな顔をしながら。

ハッカドール3号

そして、無言のまま首を横にゆっくりと振る。

ハッカドール3号

「……どうやら、織畑の現象は、織畑だけが観測してるみたいだねー」

ハッカドール3号

「─────！！」

ハッカドール3号

織畑の言葉に、びっくりしたように3号は目を丸くする。

ハッカドール3号

「………織畑は、怖く……ないの？」

ハッカドール3号

じっと、織畑を見つめながら。

ハッカドール3号

「誰も……誰にも、自分の立場を、分かってくれないんだよ……？」

ハッカドール3号

─────3号は、胸が締め付けられるような思いになる。
心配そうな目で、笑顔の織畑を見つめ。

ハッカドール3号

「………………！！……織畑……」

ハッカドール3号

「─────うん、そうだね」
モモと目を合わせながら、頷き。

ハッカドール3号

そして、織畑をじっと見て。

ハッカドール3号

「ボク達は、キミの味方だよ」

ハッカドール3号

「なんせボクは、パーソナルAI・ハッカドールだし、それに～？」

ハッカドール3号

ちらりと、モモの方を向いて、顔を少しにやけさせながら。

ハッカドール3号

「え？そうなの？」
ビックリしたように。

ハッカドール3号

「織畑、こんなにも優しい子なのに……」

ハッカドール3号

「……じゃあ、今からボク達は、織畑の友達！」

ハッカドール3号

「あ、それで……このCSっていうアプリについて
　話を戻さなくちゃだねー」

ハッカドール3号

「まだこの学園の誰も違和感を感じていないってことは
　もしかしたらなんだけど……織畑が何か、織畑しか
　やっていないことをしたのが原因なのかも……？って」

ハッカドール3号

「と、いうわけで！」

ハッカドール3号

「織畑のログ、見せてー」

ハッカドール3号

両手を差し出し、織畑のスマホをせがむ。

ハッカドール3号

「協力ありがとー！」

ハッカドール3号

織畑の歴史を、ぽちっとな！

ハッカドール3号

「雁鳥……咲？」

ハッカドール3号

「織畑の持ってる本は、多分ボク達と一緒だけど……
　この、雁鳥って子は……魔女だね」

ハッカドール3号

「ふむふむ……？その子は、どういう子なのかな？
　今から会えたり……は、難しいのかなー」
窓から差す夕焼けを見る、もう生徒はほとんど帰ってしまっているかもしれない。

ハッカドール3号

「………！……ふむふむ」
何か、重要な手掛かりなような気がするねー。

ハッカドール3号

「…………」

ハッカドール3号

織畑の片手を、握る。

ハッカドール3号

「大丈夫、ボク達が着いてるから」

ハッカドール3号

「でも織畑は、その子と……お友達になってみたいんだよね？」

ハッカドール3号

いま何か、ネットの一部界隈で流行っているミームが聞こえたよーな？
多分気のせいだねー。

ハッカドール3号

「え！？」

ハッカドール3号

さすがにビックリした顔になり。

ハッカドール3号

「そ、それは……かなりまずいねー……」
冷や汗を浮かべながら。

ハッカドール3号

「……じゃあ、わかったよ、その子には
　ボク達から接触を試みてみるね」

ハッカドール3号

織畑は……傍にいてあげた方が、きっと彼女にとっても
安心感に伝わるのかもしれないって、そう思ったけど。
でも、今もこうして蝕む記憶が、どんどん彼女を苦しめているのなら。

ハッカドール3号

……動けるボク達が迅速に対処を行なった方が、いい。

ハッカドール3号

あ、またネットミームみたいな言葉が聞こえたような。
でも、多分これも気のせいだ。
記憶喪失に打ち勝つミームだなんて、そんなのあったらこわいし。

ハッカドール3号

あ、それグッドアイデアだよー！と、モモにグッジョブサインを向ける。

ハッカドール3号

「そーしよーそーしよー！」

ハッカドール3号

「いいね～」

ハッカドール3号

そうして3人で歩き、下校の準備をしていると……。

ハッカドール3号

「あ、ギャルの竹取！やほやほー」
のんびりとした口調で、手を振りながら。

ハッカドール3号

「今から織畑と一緒に帰るとこだよー
　あ、そうだ、竹取もどーよー」

ハッカドール3号

えー！いいじゃーん！とほっぺを膨らませている。

ハッカドール3号

「そーなんだ、残念」
しょんぼりとしながらも。

ハッカドール3号

「もしかして、オカ研の用事とか？」

ハッカドール3号

んー？と、竹取のスマホをじっと見ていると。

ハッカドール3号

「！！？！？」

ハッカドール3号

目を真ん丸にしながら。

ハッカドール3号

「ちょ、ちょっとー！……むぅぅ、フリーダムな人だなー」

ハッカドール3号

ほっぺを膨らましながらも、笑みが零れ。

ハッカドール3号

「だね、この学園は楽しい人でいっぱいみたいだ」

ハッカドール3号

そして、どれどれ？とスマホを確認してみると。

ハッカドール3号

あ、魔女だ、それも黄色……！

ハッカドール3号

……結構長いこと、このアプリをやってるみたい、だね？

ハッカドール3号

「─────っ……！？」

ハッカドール3号

ぞわりと、背筋が凍った。冷や汗が、頬を伝っていきながら。

ハッカドール3号

「………今の、見た？」

ハッカドール3号

モモの方を、ちらりと見て。

ハッカドール3号

「………………………！」

ハッカドール3号

届くはずの伝誦が……来ていない─────？
一体これは、どういうことなんだ……？

ハッカドール3号

「ボクも、わからない……！このアプリは、どうなってるんだ……？」

ハッカドール3号

「………………むぅ……」

ハッカドール3号

そんな機能説明は、無かったはず。

ハッカドール3号

「……ともかく今日は、帰ろう、調査をするにも
　日が暮れちゃったらだし……ね」

ハッカドール3号

こくりと頷き、そして織畑の方を見上げ、にこりと微笑む。

ハッカドール3号

─────そして3人は、一緒に下校することとなった。

ハッカドール3号

ハッカドール3号

ハッカドール3号

ハッカドール3号

1DM<=5 〈∞共鳴〉 (1DM<=5) ＞ [6] ＞ 0 ＞ 成功数0 失敗

ハッカドール3号

一方その頃─────。

ハッカドール3号

ぼんやりとした……何か、哀しみの色を感じながらも。
その正体が、分析し切れずに……。

ハッカドール3号

「……………？」
気が付けば、自室に。
記憶倉庫のログを整理するも、演算して得られた結果は。

ハッカドール3号

無。

ハッカドール3号

「…………なるほど、ね」
冷や汗を浮かべながら。

ハッカドール3号

ボクも、これでようやく織畑と同じ土俵に立てたってわけだ。

ハッカドール3号

「不完全性はたった今、立証された、あとは─────」

ハッカドール3号

ちらりと、手に持つスマホへ視線を落とすと。

ハッカドール3号

「………このアプリから始まった現象なんだ
　今この場でやることといったらもう、一つしかないでしょー」

ハッカドール3号

そして3号もまた奇しくも、モモと全く同じ行動へ移った。

ハッカドール3号

─────！

ハッカドール3号

冷や汗を浮かべながら、スマホをじっと見て。

ハッカドール3号

「……どーもお姉さん、こんばんはー」
のんびりとした口調で返す。

ハッカドール3号

「もしかしてお姉さんが……魔女？」

ハッカドール3号

"似ている"。そんな気がした、3号であった。

ハッカドール3号