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西住 しほ

西住 しほ

─────ブロロロロロ……。
車のエンジンの音。
何の変哲も無いような街に、一台の車が走る光景。

西住 しほ

どこもおかしくないような、そんな風景だが─────。

西住 しほ

車内のルームミラーに、目尻の辺りに少し皺のある女性の顔が映り
その視線は、後部座席に座る、二人の少女へと向けられた。

西住 しほ

「─────お二人とも、調子はいかがでしょうか？
　……今回、キボーより連絡がありました内容はいささか……」

西住 しほ

「"普段"とは、異なるものですから」

西住 しほ

普通、マジカルガールが行う活動と言えば、ネガティ討伐である。
負の感情よりも生み出され、そして魔法の力によって、より多くの負の感情を
撒き散らし、自分達の生存圏を広めるべく、あるいは自身の感情に対し
優先的な行動、衝動的に暴れるといったような、そういった習性を持つ
─────人類とは、分かり合えない、そんな存在を討伐するのが主に対し。

西住 しほ

今回は、そんなネガティを倒す、唯一の武力行使可能な存在
"マジカルガール"が、消息不明となった、といったものであり。
状況としては、一刻を迫る事態であり、もちろん警察への通報を行った上で
自分達─────"マジカルガール"として、これから起こり得るかもしれない
現在の人類では対処不能な、魔法的災害を食い止めるべく
ここに、マジカルガール達を集め、その対処に向かっている最中なのだが

西住 しほ

言ってしまえば、少年少女には、荷が重い。
30代でありながら魔法少女（笑）をしているしほは、そう思わざるを得なかった。

西住 しほ

もちろん、大人だけで対処できれば、それに越したことはないのだが
発生の予測が可能とされる、魔法的災害は、幾つも存在し得る。
そのため、ここにいるしほ、たった一人ではその対処が困難であることが、知る人であれば、火を見るよりも明らかなものであり。

西住 しほ

「……………」
人を少し、威圧しかねないような、しほの生まれつきの鋭い目付きが
少女二人を捉えながら。

西住 しほ

「……ええ、その通りですね、あまり……明るい事件ではありませんから
　加えて……現場に向かうことができるのは、私達三人のみ、ということで
　その責任は、かなり大きいものとなっております」

西住 しほ

事実を淡々とした口調で述べる。
マジカルガール達へ、魔法関連の事件が起きた際に、キボーより端末から
知らされる、こういった招集は、その現場に向かえる者達のみに行われる。

西住 しほ

浜野 日和という少女が失踪した事件が、魔法に関係しないものであれば
それは、自分達の役目ではなく、警察が執り行うものであるため
ある程度、自分達の負担は軽減するものではあるが

西住 しほ

これが調査した結果─────ネガティ等といった、魔法由来によるものであった場合
それを解決できるのは、マジカルガールのみ、という事実が
どうにも、後部座席に座る二人の少女への重石にならないだろうか、としほは危惧していた。

西住 しほ

……ここで、空気が、どんよりと、重く、暗いものとなってしまう。

感情的に言葉を発しない自身の言葉が、二人の心境をより圧迫してしまったのではないか
そう思ってしまい、少し、やってしまった、というような顔をするしほ。

西住 しほ

「……このような言葉を、ご存知でしょうか？」
車のハンドルを握りながら、流れる景色に注意を払いつつ。

西住 しほ

「─────急いては事を仕損じる」

西住 しほ

「確かに、事態は急を要するものであることは否定できませんが
　それにより、肩に力が入り過ぎたり、視野が狭くなり過ぎたり……
　そういったことによって、本来見つけられるもの、行えるものを
　できなくなってしまう、ということが、こういった局面では、よくあることです」

西住 しほ

車内のバックミラーに、しほの目が因幡へと向けられ。

西住 しほ

「ええ、ですので、あくまで"静"であること
　動かざること山の如し、そういった意識が、私達の立つ地の固さが
　より強固になる、というものです」

西住 しほ

こくりと、ルシ子へも視線を動かし、頷きつつ。

西住 しほ

「…………」
……そう言った手前、どうすれば、若い子達の緊張を解すことができるか
娘が二人いる身でありながら、どうもそういった分野が苦手のようでらしく。

西住 しほ

しばらくまた、黙ってしまいながら。

西住 しほ

「………飴、いります？」
ようやく絞り出した言葉が、それであった。

西住 しほ

グッドコミュニケーション。

西住 しほ

多分。

西住 しほ

ここで二人に、優しくニコりと笑えばいいものを、それをできない
不愛想な表情のまま、赤信号で車を止め
二人に、ママの味で知られるミルキーを一粒ずつ、渡すのであった。

西住 しほ

「─────！」
ふしだらな母の鋭い瞳が、ルシ子の端末へと向けられる。

西住 しほ

……既に、キボーより少女失踪の連絡があった今
これより先は、よほどのことが無い限りは、こういった連絡を受けることはないはずなのだが

西住 しほ

流れる曲に反して、"緊急性"を匂わせるような、そんな空気感が漂る。

西住 しほ

「！　見つかった、というわけですか……
　……容態の方は、いかがでしょうか？」

西住 しほ

赤信号が変わるのを待つように、視線は前へと戻しながら。

西住 しほ

─────おそらくは、ネガティによる被害を受けた、というものではないことが伺え
不愛想な表情ながらも、まずは一つの安堵と
そしてもう一つ芽生えた、憂鬱な感情。

西住 しほ

「……ええ、その通りですね……その心身を癒すことができるのも
　私達だけ─────ですからね」

西住 しほ

マジカルガールは、その存在を秘匿されている
そのため、活動を続けていく中で、精神的ストレスを抱えた場合
それを打ち明けることができる相手が、中々見つからない、というのが
マジカルガールの弱点の一つとも言えるものであり。

西住 しほ

現に、この件に対処できるマジカルガールは3人のみ。
それくらいにまで、マジカルガールという共通認識を持った
交友関係を築くのは、厳しい。

西住 しほ

「加えて」

西住 しほ

「マジカルガールによる、"負の感情"の発生」

西住 しほ

「これは、"私達"にとっては見て見ぬふりができないものですからね」

西住 しほ

ネガティとは、人の負の感情によって生じる存在である。
無論、暗い感情になっただけでは、ネガティが生まれるといったことはないが
しかし、魔法という力を持ったマジカルガールの場合は、どうなるかが分からない。

西住 しほ

自分達にとっては、未知の領域であり
それを放っておけば、"日常"の危機が訪れることも、可能性としては存在する。

西住 しほ

信号は、青に変わる。

西住 しほ

因幡の言葉と、その顔に同情の念を抱きながら。

西住 しほ

「─────ええ」
アクセルを少し踏む。ぐわりと発進する。

西住 しほ

……とても良い子です、この子達は
人の不幸に対し、心配をすることができることができるのは
人として、素晴らしいことです。　……私の娘が、そうしたように。

西住 しほ

……浜野さんとの面会は、私のような、愛想笑いもできないような
年上の女よりも、同年代の二人の方がきっと、滞りなく進むでしょう。

西住 しほ

─────その間、私は……私の成すべきことを、成していきましょう。

西住 しほ

ブロロロ。車のエンジン音が響くのであった。

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

戦争魔法。
それは、戦争という行為における
ありとあらゆる武力装置を、何の代償も無しに召喚し、意のままに操ることができる魔法。

西住 しほ

「─────目を閉じてくださいッ！！」

西住 しほ

閃光弾が放たれる。

西住 しほ

それは、ルシ子とネガセラフの間に落ち
眩い光が、少女の家の中で濃縮するように、一気に拡散される。

西住 しほ

─────そこに現れた女性は、フリッフリの衣装を身に纏う、黒髪の女性であった。

西住 しほ

殺傷力こそ無いが、この冷水を掛けるには十分なものであっただろう。
ネガティとは、本来、現代兵器では傷一つ負わせることすら叶わない存在であるが
生命体ゆえに、それを逆手に取った緊急手段を取ることは可能。

西住 しほ

「……ネガティがこの周辺区域にいないかどうかを探しておりましたが……
　なるほど……灯台下暗しとは、まさしくこのことですね……
　まさか、浜野家のすぐ近くに潜伏していたとは……」

西住 しほ

馬鹿みたいな乙女衣装ながらも、冷や汗を垂らし
状況を瞬時に把握。

西住 しほ

「─────ここは、浜野さんの"日常"が紡がれる場所です！
　ここでの戦闘は、私達にとっても、あまり好ましくはありません！」

西住 しほ

「因幡さん！ルシ子さん！ここは"諦めて"……一時撤退です！」

西住 しほ

マジカルガールの戦闘規模は、人が想像するよりも遥かに大きい。
やろうと思えば、そこら中にクレーターを出現させてしまうくらいの火力の応酬が行われる。

西住 しほ

であれば、日和にとっての心の安らぎである、姉の存在。
その生命が危ぶまれることは、火を見るよりも明らかであり。

西住 しほ

「くっ……！回復が思ったよりも早いです……！」

西住 しほ

※フリッフリの衣装のババア

西住 しほ

「醜い……？」ﾊﾞｷﾊﾞｷ

西住 しほ

こんなおばさんであっても、心は女のつもりだったのだろう。
しほの逆鱗に触れるッッ！！！─────が、今は冷静にならねばならない時であった。

西住 しほ

「………ッ！？一体、何を………！？」

西住 しほ

くっ殺騎士のような目線をネガセラフへ向ける。

西住 しほ

「なッ─────！？」

西住 しほ

「─────ッッ！？！」
その言葉に、皺交じりの目が大きく開かれる。

西住 しほ

「ま、まさかッ……！？ここまで強力な力を持っていたのは……！？
　幹部、だったから、ですかッ………！？」

西住 しほ

「─────"天使"………！」
ぽつりと、そう呟かずにはいられなかった。
身構え、応戦の態勢を作りつつも、それを迎え入れる。

西住 しほ

眼前の巨大な、圧倒的な存在、そして無数の眼光。
それは、こちらを威圧させるには十分過ぎるほどであった。

西住 しほ

重々しい言葉が、まるで反響するように聞こえ
苦虫を嚙み潰したような顔になりながら、その存在を見上げる。

西住 しほ

そして、その主の言葉は真理とも言えるようなものであった。
人間は、諦めないからこそ、誰かと競うことを続ける。
やがてそれは、悪い方向に行くことだってあり得る。

西住 しほ

諦めきれないからこそ、何かしらの形で勝とうとする。
それが、ルール外の方法であっても、どんな手段を使ってでも
諦めないがために成され、そして人々が傷つき倒れる。

西住 しほ

─────戦争の縮図だ。

西住 しほ

「なッ……！？お、大きすぎるッ………！？」

西住 しほ

─────今にも押し潰されてしまいそうなエネルギー量であった。

西住 しほ

─────これは、一体……？

西住 しほ

私が、積み重ねてきたものが、無くなっている─────？

西住 しほ

……これは、私が、マジカルガールを、やらずに……。
そして、その責任を果たせずに……全てが、流れるがままに
自然のままに、世界が、構築されてしまった……もの。

西住 しほ

「─────！」

西住 しほ

しほの目に映るのは─────自分の家に、娘が二人
揃っていた光景であった。

西住 しほ

「……………………それ、は」

西住 しほ

─────私は、西住家を継ぐものとして……
たとえ、どんな苦難があったとしても、"諦めず"に
西住流の教えに従い、真っ直ぐと生きてきたわけで……

西住 しほ

このような、未来はッ─────！！

西住 しほ

「─────！」

西住 しほ

娘の、キラキラに輝いた笑顔。期待に満ち溢れた姿。

西住 しほ

そこには、母と娘に間にあった、隔意の感情など微塵も無かった。

西住 しほ

戦車道という、競い合うための趣味が消え去ったこの世界では
─────娘は、なんて健やかに過ごせて、なんて……生き生きとしているのだろう。

西住 しほ

しほの心が、蠢いた。

西住 しほ

そもそも、西住しほは─────今、"諦観"によって支配されてしまっている。

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

─────このままで、良いのではないか？

西住 しほ

そもそも、西住しほがマジカルガールをやっていた理由
それは、娘達の未来を守るためであった。
負の感情に支配され、その明るい未来が断たれないようにという
誰にも明かすことのできない、されど強い願いであった。

西住 しほ

しかし─────それは

西住 しほ

西住 しほ

果たされている。

西住 しほ

西住 しほ

「………………」

西住 しほ

これで……

西住 しほ

………いいのでは？

西住 しほ

「……今日は、ハンバーグ定食ですよ」

西住 しほ

ニコりと、微笑んだのであった。

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

西住しほは、醒めなかった。

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

西住 しほ

そこにいたのは………。

西住 しほ

目尻に皺のある、キツそうな雰囲気のあるおばば。
………だが、心なしか、穏やかそうな雰囲気を醸し出していた。

西住 しほ

しほという人間が、何故ここにいるのか？
そういった疑問は

西住 しほ

“諦められる”こととなる。

西住 しほ

「こんにちは、日和さん」
穏やかそうな表情のオババが、にこりと微笑みつつ、ルシ子の背後へと立つ。

西住 しほ

そしてルシ子の方へも視線を送り、先程まで見せていた、ガミガミおばば、といったような顔が一切見られないような
優しい顔で、にこりと笑う。

西住 しほ

「忘れたのですか？ルシ子さん、私達は───」

西住 しほ

「───全てを”諦めて”、そして遊ぶ為にここに来たのではないでしょうか？」

西住 しほ

そして、日和の方へと視線を戻し、微笑みの表情のまま。

西住 しほ

「そうですね……私は、このルシ子、という子の……先輩、のようなものです
　責任者……というと、少しばかり堅苦しいですね」

西住 しほ

「そもそも、”やらなければならない”だなんて
　そういったものがあるからこそ、人は苦しんでしまうものですから」
ニコニコと続ける。

西住 しほ

「───日和さんも、ルシ子さんも、そうは思いませんか？」

西住 しほ

「遊びませんか？」
その視線を遮るように。

西住 しほ

30代おばはんが、子どものようなセリフを。

西住 しほ

諦めることができる、それは大人になるための道とは、聞いたことがある言葉だろう。

西住 しほ

しかし、何でもかんでも諦めてしまうと、そこには信念が無くなる、つまり。

西住 しほ

───幼稚になる。

西住 しほ

「はい、私も遊びたいところでしたし
　それにルシ子さんも、遊びたがっておりますからね」
にこっ、と笑う。

西住 しほ

「一人ぼっちに耐えるなんて責任
　そんなのに耐える必要なんか、ありませんよ
　“諦めちゃいましょう”」

西住 しほ

西住 しほ

4D+8>=30　【知恵】判定<西住流戦車道>LV8 (4D6+8>=30) ＞ 14[1,5,5,3]+8 ＞ 22 ＞ 失敗

西住 しほ

魔力1点消費

西住 しほ

22+1D>=30 (22+1D6>=30) ＞ 22+4[4] ＞ 26 ＞ 失敗

西住 しほ

魔力1点消費

西住 しほ

26+1D>=30 (26+1D6>=30) ＞ 26+3[3] ＞ 29 ＞ 失敗

西住 しほ

魔力1点消費

西住 しほ

29+1D>=30 (29+1D6>=30) ＞ 29+3[3] ＞ 32 ＞ 成功

西住 しほ

西住 しほ

─────声が、聞こえた、それは、光へと手を伸ばそうとする者達の声。

西住 しほ

そして─────"真実"に苦しみ、迷える者達の声。
正の感情と、負の感情が入り乱れて、スクランブルのようになったその空間に
─────女は、意識を取り戻す。

西住 しほ

……とても、良い夢を見れた。
闘争を諦めることで、なんと幸せな人生を歩めるのだろうか。

西住 しほ

これを捨ててしまうのは、きっと後悔してしまうだろう。
……いや、今も後悔をしている。
敵を作らないこと、それは、皆が笑顔になれる世界なのだから。

西住 しほ

諦めること、妥協すること、それは─────決して、悪いことでは無い。

西住 しほ

そして、だからこそ、その形は……人それぞれ。

西住 しほ

─────変身。

西住 しほ

フリッフリの衣装の、30代のおばさんが、少女達とネガティの傍に顕現する。

西住 しほ

「─────"諦める"こと、ええ、それは……人として生きる上で
　ある意味、最も大切な感情でしょう」

西住 しほ

ネガセラフを、その鋭い瞳で見つめながら。
─────そして、同情の念を込めながら。

西住 しほ

「……因幡さん、ルシ子さん、失礼いたしました
　この西住 しほ……少々、長く夢を見過ぎてしまったようです」

西住 しほ

二人へ、目線で会釈をしつつ、途中で目が合った日和には
しほなりに頑張って、にこりと笑い（笑えてない）。

西住 しほ

再度、真っ直ぐとネガセラフへと見つめ。

西住 しほ

「それは失礼いたしました─────この西住しほ、少々……」

西住 しほ

・・・・・
「─────"夢"を見るのを、諦めましたもので」

西住 しほ

そして、ゆっくりと腕を上げ、指先をネガセラフへと向ける。

西住 しほ

「素晴らしい夢を見せていただき、ありがとうございます
　しかし─────ええ、あなたの言う通り
　私達と、そしてネガティは……決して相容れることのできない存在」
眉を顰めながら。

西住 しほ

「……ルシ子、負の感情と向き合うことは、正しいことです
　しかし、それと同時に─────"諦める"こともまた、大事です」

西住 しほ

何故、幸せな夢から覚めたか？
娘達と不和な関係であったという事実が無くなり
家族が皆、笑顔で暮らせたということの、一体何が悪いのか？

西住 しほ

─────悪くない。全くもって悪くない。
ネガセラフは、素敵なプレゼントをくれた。

しかし、それとこれとは、全く別の問題。

西住 しほ

厳しい中でこそ、心が育まれる、などといった説教臭い話などするつもりは無い。

西住 しほ

─────根本的に、相容れることが、できないからだ。
将来性という観点で言えば、ネガティの支配下にあることで
確かに人類は、長らく生きることはできるだろう。
しかし……それを納得しない者は、必ず現れ、そして血を見ることとなる。
西住しほという人間が妥協したところで、70億人いる人類が、全員諦めるなどということはない。

西住 しほ

とどのつまり─────"必要悪"。

西住 しほ

魅惑的な提案を、蹴らなければならない。
自分達の子ども達が、血を見ないように、大人達が汚れなければならない。

西住 しほ

─────ネガティという生き物の在り方には、哀れだという感情しか出てこない。
未来の己達のせいで、そうなってしまったのだから。
彼らが苦しんでいるのは、自分達のせいだ。

西住 しほ

だから。

西住 しほ

悪役は、彼らなどではない。

西住 しほ

「ええ─────"正義"のネガセラフ
　あなたは、"正義"のまま、ここで朽ちなさい」

西住 しほ

─────私達なのだから。

西住 しほ

西住 しほ

魔力を3点消費。

西住 しほ

西住 しほ

奇跡を起こす。
それは、途轍もない程の大きな奇跡。

西住 しほ

フィールドが変わる。

西住 しほ

そこは─────荒地。
幾重もの戦争が行われたであろう、瓦礫まみれの地。

西住 しほ

そして─────西住しほ達の背後に現れる、無数の兵器。
戦車、戦闘機、ミサイル、多くの武装集団。

西住 しほ

それらの敵意が一斉に─────一つへと、照準が向けられる。

西住 しほ

たった一匹の、勇敢な革命家を殺すために。

西住 しほ

「─────逝きなさい」

西住 しほ

─────そして、砲撃が始まる。

西住 しほ

西住 しほ

「─────！」

西住 しほ

「こ、これは─────！？」

西住 しほ

眉を大きく顰め、目尻に皺も寄り、訝しげに思う顔となる。

西住 しほ

「─────"諦め"が必要、私はそう伝えましたよ、ルシ子」

西住 しほ

「……楽しい……？」

西住 しほ

「その答えは─────ええ、楽しくありませんよ」
眉を顰めながら、心の底からそう思うように、そう返し。

西住 しほ

「ですが、私は……ルシ子、あなた方が"楽しい"と思えるような
　そんな世界になれば、それでいいと思っているのですよ
　そのためなら、私は"楽しい"と思う必要はありません
　辛酸を飲む、それが─────……母として生きる、私の役目です」

西住 しほ

─────魔法により、銃を形成する。
そしてその銃口は、ネガセラフへと向けられる。

西住 しほ

「………何、ですって……？」

西住 しほ

目を細めながら、ルシ子をじっと見て。

西住 しほ

「………………」

西住 しほ

「─────………」

西住 しほ

ゆっくりと、銃を下ろし。
目尻の辺りを、指でグイグイと押しながら。

西住 しほ

─────未来は、若い者達が作っていくもの。

西住 しほ

……このような、煌びやかに輝くものを、泥で汚してしまっては
それは……西住流の名が、廃るというものです。

西住 しほ

「………少々、頭が固かったかもしれませんね」

西住 しほ

因幡と、そしてルシ子へ。

西住 しほ

にこりと、微笑み。

西住 しほ

そして、踵を返す。

西住 しほ

─────何も、心配することなど、無かった。

西住 しほ

この二人は、強い。
それは、魔法のセンスや、戦闘技術、といったものを指しているのではない。
その心だ。精神性に、黄金のような輝きと、揺るがなさを、しほは感じ取った。

西住 しほ

西住流、それは。
撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し、鉄の掟、鋼の心。

西住 しほ

─────今の二人を体現しているものであった。
それを拒絶することは、己を拒絶することも同じ。