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飴村 乱数

「たっだいま～～～～～！」
陽気な、あどけない声変わりしたての声を響かせるは、ピンク色の少年。
何やら紙の書類を片手に、ソファを飛び越え、そのまま座る。

飴村 乱数

「ちゃ～んと『ウチら』の『看板代』、回収してきたよ～っと♪」

飴村 乱数

そう言うと、お洒落な硝子造りのテーブルの上へとアタッシュケースを置く。

飴村 乱数

「へへへ！労わりの言葉、沁みるよ～～！でも、も～～っと褒めてもいいんだよ～？アドミニお姉さん♪」
棒付きの飴玉を硝子テーブルの上に置かれたバスケットより取り出すと、袋を開け、口に放り入れる。

飴村 乱数

カロカロと、音を鳴らし、美味しそうに味わっている。

飴村 乱数

そして透野の方へと、緑の瞳を向けると、ソファに寄り掛かるようにして、頭の後ろで腕を組む。

飴村 乱数

「ん～～～～～、街の様子ねぇ～～……も～ちょっと、の～んびりしてから話そうかな～？って思ってたことがいくつかあってね～」

飴村 乱数

「へへ♪じゃあもしかしたら、すぐにおっきい報酬が貰えちゃいそうかも～？」
なんて、楽しそうに笑いながら、鼻歌交じりにそう応える。

飴村 乱数

「って、ちょいちょい透野お姉さ～～～ん！まったくも～～」
起き上がり、ほっぺを軽く膨らませる。

飴村 乱数

「こーいう時は、アドミニお姉さんみたく、何かあったの？って聞くとこだよ！」

飴村 乱数

口の中に入れていた棒付きキャンディを取り出し、指すようにする。

飴村 乱数

「それでよ～し♪」
満足そうな顔をする。

飴村 乱数

「じゃあじゃあ、言いたかったセリフ、言っちゃうね！」

飴村 乱数

またソファへと寄り掛かり、軽く脚を組む。

飴村 乱数

「アドミニお姉さんと透野お姉さんは、良いニュースと悪いニュース、どっちを先に聞きたい？」

飴村 乱数

「あははは！ちゃ～んとノってくれてありがとう！こういうの、やりかったんだ！」
無邪気に、楽しそうに笑う顔をしながら。

飴村 乱数

「コホン、え～～っとね、悪いニュースだけども」

飴村 乱数

「ボクらは、『看板』売ってるビジネスに今、着手してるじゃん？」

飴村 乱数

「へへへへ～！透野お姉さんは『拾ったばかり』だから、多分この辺も、あ～んまり聞き馴染みないかも！ので～、改めてかる～く、ざっくり説明すると～」

飴村 乱数

「ボクらのいる場所ってね、思ってるより『窮屈』な場所でさ、ある程度『力』が無いと、何をしようにも舐められるし、事も上手く運ばないんだ」

飴村 乱数

「酷ければ、そこに根城構えてるセルやら反社会的組織やらから因縁吹っ掛けられて、おっ死んじゃうことだってあるしね～」
なんて言いながら、他人事のように続ける。

飴村 乱数

─────自分達が、その世界にいるというのに、緊張感の欠片も出さず。

飴村 乱数

「で、アドミニお姉さんが立ち上げたこの……『ヴィーナスネクター』は、アドミニお姉さんの謀略に、あとはボクの頑張りで～」
ニヤっとしながら、自分に親指を差し向けつつ。

飴村 乱数

「結構、名が通るようになってるんだ。で、その『名前』を利用しない手はないよね？ってことで」

飴村 乱数

「あとは～……ボクらの『目的』を果たす為にも、子分を増やしてるんだ♪」

飴村 乱数

「いざ戦争だ～！って時のマンパワーはいくらあったって構わないもんね～」
なんて物騒なことを言いながら、アドミニストレータの肩に頭を置き、鼻歌を歌う。

飴村 乱数

にや～りと笑って、透野にピースサイン。それで合ってるよん！の意だ。

飴村 乱数

「ボクもまぁ、『ダサい奴』を加わらせたくは無いからね、それに、透野お姉さんの言うように、個の強さだって大事、もう大事なものが多すぎて大変！頭がぐるぐるしちゃう～！」

飴村 乱数

「ええ～～～？う～ん、ファッションデザインとかの本なら喜んで読むけどさぁー」

飴村 乱数

「字だけの本とか、読んでて飽きない？ボクは飽きちゃう」

飴村 乱数

「詰め込める　……ボクにはわかんないや」
肩を竦めつつも。
「でも、透野お姉さんにとって『大切』なら、それでいいや」
『心の拠り所』は、人それぞれ。相互干渉し合う必要性は無い。ましては、『裏』ではなおさらのこと。

飴村 乱数

「おっとっと！お話これ、もしかしてズレちゃってるっけ？」

飴村 乱数

「悪いニュースの続きだね！」

飴村 乱数

すると、書類を開け始める。そこには地図と、あとは情報屋から入手した詳細な資料の数々。

飴村 乱数

日本列島の端に浮かぶ、人工島。
知る人ぞ知るスポットであり、反社会的勢力にとっての沼地。

飴村 乱数

─────ヨイウオ島。

飴村 乱数

「ここでさ、勝手にボクらの『名前』を使って好き放題してるのがいてさ」

飴村 乱数

「やってることは単純に、内臓売ってるだけ」

飴村 乱数

「まぁ～～～、なんていうか」

飴村 乱数

「『チンケ』な商売、『ダサい』ことだね」

飴村 乱数

かろかろと、口の中で飴玉を転がす。

飴村 乱数

「そういうこと」
先ずはアドミニストレータの言葉に頷く。

飴村 乱数

「あそこは難民も逃げてるからね、不法滞在者もいる。法の加護も無いような人間の首根っこを掴んで、はした金に変えてるっていうね」

飴村 乱数

「別に、『ヴィーナスネクター』の看板無しでやってるとかなら、好きにやっとけばって感じなんだけどさ」

飴村 乱数

「ボクら、一応は『美学』を重んじるっていうことにしておくことで、組織としての一貫性を保ってるわけだから」

飴村 乱数

「困るんだよね～～～～」

飴村 乱数

「そんなわけで、透野お姉さん♪」
ニヤっと笑う。

飴村 乱数

そして、親指と人差し指を立てて、鉄砲の様な形を作ると、コンテナハウス内に飾られているテディベア人形へ向けて、狙いを定める。

飴村 乱数

「今回はね、ボクは『好き』にやっちゃっていいと思ってるよ♪」
そう言って、ば～んと、わざとらしく口にする。

飴村 乱数

「アドミニお姉さんは、どうかな？」

飴村 乱数

緑の瞳をちらりと、寄り掛かっている主に上目で差し向ける。

飴村 乱数

ニヤリと笑う。

飴村 乱数

「アドミニお姉さん、普段は超優しいのに、こういう時は」

飴村 乱数

「『恐い』よねぇ」

飴村 乱数

乱数の顔に影が差す。

飴村 乱数

「あははは！そうだったね！これは『救済』の女神様だ♪」

飴村 乱数

乱数もアドミニストレータから離れ、飛び起きる。

飴村 乱数

そして、軽く伸びをする。ん～～～っ！と、まるでこれから体育でもやる学生のような、軽い雰囲気で、準備体操をする。

飴村 乱数

「OK！じゃあアドミニお姉さん、ボクらも行こうか！エスコートは必要かな？」
振り向き、ニヤリと笑う。

飴村 乱数

「何せこれからボクらが向かうところは……」

飴村 乱数

「きったな～い、くっさ～い、つま～んなさそ～な、アドミニお姉さんには似つかわしくもない場所だから、ね♪」

飴村 乱数

キザに、悪戯な少年っぽい言い回しで、ウインクを一つ。

飴村 乱数

「喜んで♪」
無邪気に笑い、手を差し伸べる。

飴村 乱数

「うっわすっご、見てよ二人とも」

飴村 乱数

ピンク色の髪の少年は空を見上げる。スモッグが発生していた。
今日の天気は、雲一つも無い快晴、という予報であった。

飴村 乱数

見渡せば、遠くで有害物質をいかにも含んでいそうな、灰色の煙を吐き出す工場が見えていた。明らかな環境汚染。それが罷り通っている、異常な世界。

飴村 乱数

「めっちゃお国に中指立てまくりじゃん、ウケる」
へらりと笑う。単なるいちセルが、ああいった施設を造り、稼働しているというのであれば、まぁ『よくある』ものではあるが。
この島は、何一つとして隠蔽していない。公な場所である。にも拘わらず、見て見ぬフリをされている。

飴村 乱数

「まぁ、それはボクらもなんだけどね」
また、小さく笑いながら、頭の後ろで腕を組む。

飴村 乱数

「ボクもやだね～、髪もこれ絶対ゴミついちゃうでしょ？は～あ」

飴村 乱数

自分の前髪を指でいじりながら、困り眉で溜息を一つ。

飴村 乱数

「まぁでも、透野お姉さんはもう既に」

飴村 乱数

緑の瞳をちらりと、向けて。

飴村 乱数

「『宝島』っぽく見えてるみたいだけどね」

飴村 乱数

くすりと笑って、肩を竦める。

飴村 乱数

「まぁね、ある意味都心よりはボクらは、ずーっと」

飴村 乱数

「『動きやすい』だろうねぇ」

飴村 乱数

ボクはそれでも都会の方が好きだけどね！なんて付け加えながら。

飴村 乱数

「お、噂を擦れば、今回の案内人かな？」
かろ、と咥えた棒付き飴を鳴らす。

飴村 乱数

アリスの方へと向き、やっほ～！☆と、にこやかに手を振り挨拶。

飴村 乱数

「協力要請に応えてくれてありがとうね～！なんかわっかんないけど、お姉さんしか今回の『条件』に合うマーセナリーがさ～、いなくてさ～！」

飴村 乱数

「まぁそれだけここ、『ヤバい』場所なんでしょ？だから助かっちゃうな～！餅は餅屋！」

飴村 乱数

にやりと笑いながら、緑色の目を上目で差し向ける。

飴村 乱数

MBオーヴァード。強大な力を持つ遺産によって突如発生した、新種とも呼べるオーヴァードの総称。
非オーヴァードからすれば、その見た目の変化は何一つとしていないのだが……。

飴村 乱数

MBオーヴァードは、『無限』の力を秘める。
子どものオーヴァードが、銃を手にしてしまっている状態と同じであるならば、子どものMBオーヴァードは原爆を手にしたと同義、それほどまでの膨大な力を手にすることとなる。
今最も、UGNが警戒している存在。人間との乖離をさらに引き起こす存在。

飴村 乱数

そして、MBオーヴァードには、『感染者のみ』分かる特徴がある。
それが、この姿だ。

飴村 乱数

道中、誰も彼らに気に掛けることはなかった。

この、異様なマイクロビキニ姿であっても。

それが、『無限』の力の代償。生まれたままの姿に近しい姿として生きることとなる。

飴村 乱数

「うっわ！！なにこれ！！！！」
アリスの提案をよそに、早速乱数は道沿いで出店を構えていた品揃えに目が行き、品々を見ていた。

飴村 乱数

「ねぇねぇねぇ！アリスお姉さん！ここってこんなものも売ってるの！？表で！」

飴村 乱数

乱数が手にしたのは、『香水』。

飴村 乱数

蓋を閉じた状態のまま、鼻に近づけ、目を閉じ、すんすんと、嗅ぐ。

飴村 乱数

「『ヤク』混ざってんじゃん！」

飴村 乱数

「やりすぎでしょ！」
語尾に（笑）が着いているような口ぶり。

飴村 乱数

「一応～、『掟』に従って、このおじさん達も頑張ってるわけだ」

飴村 乱数

へらへらと笑いながら、アリスに、は～～い♪と、無邪気に応える。

飴村 乱数

「くっさっ！」
鼻を摘まむ。

飴村 乱数

「うぇ～、蠅もたかってるし、絶対蛆も湧いてるでしょ……あ～気持ち悪い～」

飴村 乱数

「せっかくだし、香水買う～？もうこの島全体が、『臭い』んだけど～」
眉を顰め、不服そうな表情を浮かべる。

飴村 乱数

「おえ～」

飴村 乱数

げんなりとした表情を浮かべる。

飴村 乱数

「まぁそりゃ、いるだろうな～……屍を喰らう奴も……吸血の衝動があるくらいだし～……」

飴村 乱数

「あ、あはは、アリスお姉さん、まさかあの光景見せた後、昼食にしよっか～なんて、提案……しないよねー……？」

飴村 乱数

冷や汗を少し浮かべる。普通に気持ちの悪いもの、グロテスクなものは、キッショいと感じる感性くらいはある。

飴村 乱数

「あはははは……さっぱりしてるねぇ」
しょうがないなぁ、と言った表情で、肩を竦める。

飴村 乱数

「ま、でもそのくらいが、ビジネスパートナーとしてはやりやすいや、じゃ！オススメなところ案内してよ！食中毒にはならないとこね！」
にこっ！と、屈託の無い、無邪気な笑顔をアリスへと向ける。

飴村 乱数

「へへへ♪　既に色々仕事してくれたみたいだし、アリスお姉さんにはも～っと！ボクもサービスしないとね～！」

飴村 乱数

アリスの後に続いていく。相変わらずこの島への好感度はクソほど低いが、まぁだからといってずっと不満気に思ったままじゃ、楽しめるものも楽しめない。

飴村 乱数

もちろん、楽しめるものがあるのか？何か『美しい』と感じられる何かがあるのか？という、そういった期待があるかで言えば、とても低い。
いや、無いでしょ。こんな場所に、そんなの。宝石なんてあるわけないでしょっていうのが、ボクの見解。

飴村 乱数

それはそうと、こうして『出会い』はある。
これだけは、確かだ。
この社会で生きていくには、こういうちっちゃなことが、結構大事だったりする。

飴村 乱数

そしてボクはそこに、『楽しさ』を感じたい。

飴村 乱数

「へへへ～！もっちろん！」
にっこりと、純粋な少年の様な笑顔を透野へと向けながら、歩くこと数分。

飴村 乱数

人混みが多くなってくる。身なりは汚い。
風呂に入っていないのだろう。鼻が捻じ曲がるほどに臭い。

飴村 乱数

店構えはどれも昭和を彷彿とさせるものばかり、古臭く、とても今風な、惹かれる看板は無い。

飴村 乱数

良く言えば老舗、悪く言えば……☆1のお店。

飴村 乱数

「お肉の香りはしてきたね、安っぽそうなタレの匂いだけど」

飴村 乱数

「これアドミニお姉さんの口に合うのかなぁ……」

飴村 乱数

「ええ……カニバリズムは流石に嫌だよ～」
げんなりとする。

飴村 乱数

「てか銃声も聞こえるし、あれって一応、鶏とかを殺してる音だよね？そうだと言ってほしいなぁ～」

飴村 乱数

「……せっかくのアリスお姉さんとのデートなんだし、もうちょっと……良い場所、無いかなっ？」
チラッ！と、緑の瞳を向ける。あってほしい！もっと良い場所！

飴村 乱数

牛肉は当然無い。あるなら豚と、鶏。
……うわ、あそこでグルグル回って焼かれてるのって……。

飴村 乱数

か、蛙じゃん。

飴村 乱数

………おえ～～。

飴村 乱数

「うん～……お願いアリスお姉さん～～……」

飴村 乱数

げんなりとした表情で、だら～んと、アリスの背に凭れる。

飴村 乱数

ボクはね、見てるだけでウキウキしちゃうような、ポップで、キュートな、オシャンティなね、パフェがね、良いんだ。

……どーせ、無いんだろうけど。ぶーぶー。

飴村 乱数

「手汗が沁み込んでてしょっぱそう」
げんなりとした顔。

飴村 乱数

「おっ」
期待した声を上げる。

飴村 乱数

「へぇ～、まぁ思想はどのみち『喰えない』しね」
なんて、ジョークを一つ交えながら。

飴村 乱数

「それに、何やら特殊な仕掛けが施されてるみたいだねぇ」
目を細め、その店回りの様子に察知する。

飴村 乱数

「なるほど、言うなればここは、『会員制』のお店」

飴村 乱数

「─────と言ったところかな？」

飴村 乱数

食品サンプルを見やる。パフェがある。

嬉しい！

飴村 乱数

にっこり！大変満足そうなお顔。

飴村 乱数

「うんうん！さっきの場所に比べたら数億倍くらい素敵なお店！ありがとうねアリスお姉さん！グーだよ、グー！」

飴村 乱数

「アドミニお姉さんは何食べる～？」

飴村 乱数

「へぇ！どれどれ？ふんふん……イカの新鮮度を極限まで保った究極の一品です……だって」

飴村 乱数

「いやすごいね！正直かなり驚いた。『適当』じゃないんだね、ここ」

飴村 乱数

「なるほどね、『拘り』だ」
にやりと笑う。

飴村 乱数

「……アドミニお姉さん、ボクはなんやかんや、この島悪くないじゃんって思い始めてきたよ」
宝石。と呼ぶにはまぁ、まだ微妙なラインだとは思うが。
それはそうと、全てが全て、『ときめかない』なんてことはないことが分かった。

飴村 乱数

「我ながらチョロいね」
へらへら笑いながら、店へと入るのだった。

飴村 乱数

内装もこれまた凝っていた。そこかしこからレネゲイドの濃さを感じるが、まぁFHにとっては関係が無い。

飴村 乱数

食事のみならず、こういった内装にも力を入れているのは、『本物』だ。

飴村 乱数

『人間』のことを……いいや、違う。
『オーヴァード』のことを、よーく分かっている。

飴村 乱数

食事は何も、その味だけを楽しむものじゃない。
大事なのは、シチュエーションだ。不随する情報にもまた、『価値』がある。

飴村 乱数

例えば、アドミニお姉さんと夕日の見える港街で、黄昏ながら木製のテーブルに置かれたパフェを一緒に食べる、なんて状況があれば、そりゃボクは大喜びする。それと大体おんなじ。

飴村 乱数

「湿度もちゃんと適切に保たれてるねここ、いやぁ～なんかさ、なんでなのか分かんないけどさ」

飴村 乱数

「外……すっごい湿ってなかった……？気持ち悪いくらい」

飴村 乱数

「おっとっと！そうだねぇ、ボクもお腹ぺこぺこだ～」

飴村 乱数

「じゃあボクはこれ～♪」
肉料理でもなく、魚料理でもなく、ご飯もの、麺類でも、なんでもなく。
最初から、スイーツを選択する。

飴村 乱数

「《成長促進》産苺たっぷりドデカパフェ！」

飴村 乱数

この島に足を踏み入れた時とは違い、すっかり上機嫌な様子で鼻歌を唄っている。

飴村 乱数

「ん？アリスお姉さん？」
きょとん、とした顔を向ける。
ふと顔を見やれば、アリスお姉さんが透野お姉さんの方を見て、微妙そうな表情をしていたのが見えたからだ。

飴村 乱数

「あ～」
意図を察する、これか、と。
自分の黒ビキニを引っ張る。

飴村 乱数

「その感覚も、かーなり久々過ぎて、忘れちゃったなぁ」

飴村 乱数

頬杖を着いて、黄昏る。別に何か思いに耽るわけでもない。
ただ、なんとなしにそう思っただけ。

飴村 乱数

「『慣れ』って、『恐ろしい』ねってお話さ」

飴村 乱数

ボクもすっかり慣れちゃってはいるけど、今目の前で広がっているこの光景はきっと、全男性諸君にとっては夢のまた夢だろう。
露出度がこれでもかという程に高い姿。マイクロビキニの美女が三人もいるのだ。

飴村 乱数

『慣れ』もあって、当惑するようなことはもう無くなったけど。
しかしそうなると、何か自分の中の『大事なもの』が、一つ奪われていったような感覚でもあり、あんまり気持ちは良くない。

飴村 乱数

「ね～」
同意するような声。

飴村 乱数

「ボクも、自分のデザインした服をさ、みんなに着せることができないのがすっごく残念で仕方ないのが一点と、あとは……『羞恥』を置き去りにしちゃってるっていうのも、なんて言うか」

飴村 乱数

「『人生』の楽しみが一つ、無くなっちゃったっていう感じがして、物寂しいんだよね～」

飴村 乱数

「これはさ、あくまでボクの妄想に過ぎないんだけどさ」

飴村 乱数

「『仕事』前の余興だと思って、かる～く聞いてほしいな♪」
にこっ、と無邪気に笑う。

飴村 乱数

「呪詛を振り撒いた元凶たる遺産、『ミクロビキニ』のことさ」

飴村 乱数

「あれってさ、『可能性』を『無限』にしたっていう、よりオーヴァードを進化へと導いた存在っていう見解が、多いじゃん？」

飴村 乱数

「まぁ実際にボクら、『以前』よりも遥かに強大な力を使えるようになったし、その説が強く提唱されてるのも、当然っちゃ当然かなって思ってるんだけどね」

飴村 乱数

へらへらと笑いながらも、続ける。

飴村 乱数

「でも正直さ、あの遺産はボク」

飴村 乱数

「『進化』させようとしてるわけじゃないように、見えるんだ」

飴村 乱数

「その逆、『退化』だね」

飴村 乱数

「つまり、あれはさ」

飴村 乱数

「ボクらを滅ぼそうとしてるんじゃないかなー？って」

飴村 乱数

「そー思うんだ」

飴村 乱数

アリスにこくりと頷く。

飴村 乱数

「そう、統一性を齎すのって、それって生存戦略だとおかしいよね、より生き残る可能性を増やすなら、あらゆる形態を許すべきなのに」

飴村 乱数

「あとは～……これ言うと、すっごく失礼に当たっちゃうと思うけど」

飴村 乱数

緑の瞳が、アドミニストレータ、透野、アリスへと向けられる。

飴村 乱数

「ボク、みんなの今の姿を見ても、ムラっと来てないんだ」

飴村 乱数

「これってさ、結構、『恐ろしい』って思うんだ」

飴村 乱数

「あ～～～ごめんよ！ムラっと来てないだけで、みんなのことはちゃ～んと！可愛い！綺麗！とは、本当に思ってるから！」
慌ててフォローするように。

飴村 乱数

こくりと、頷く。

飴村 乱数

「『種の保存』を考えるなら……だよねぇ」

飴村 乱数

「孔雀は、自らの美しさを磨き上げることで、より優れた種を作ろうとする」

飴村 乱数

「でも、ボクらはそこに『制約』がかかってしまった」

飴村 乱数

「しかも、美しさだけじゃなく、能力だってそう、もうボクらは『やろうと思えばなんだってできる』。もう、磨けるものもそんなに無い」

飴村 乱数

そういうこと～、と間延びした、スケールの大きい話の割には緊張感のない、軽い返事。

飴村 乱数

「あははは！透野お姉さんらしいや！」
へにゃりと笑う。

飴村 乱数

「まぁ実際こんな話したところで、だから何？って感じでもあるよねぇ～」
頬杖を着きながら。

飴村 乱数

「ごめんね！退屈な話しちゃって！」

飴村 乱数

「あ、それとこういう話をしたからって、ビバ！繁殖！なんてスタンスに変えるつもりも無いから～」
ひらひらと手を振る。

飴村 乱数

「あくまで─────ボクらは、ボクら『らしく』あることが、大事～って思っただけ♪」

飴村 乱数

無邪気に、にこりと笑うのだった。

『羞恥』という、『らしさ』を一つ奪われたオーヴァードは、さりとて『らしさ』を望むのだった。

飴村 乱数

「ありがと、アドミニお姉さん！……おっと、もうそろそろ食事が来る頃合いだね！」

飴村 乱数

「やっほ～う！♪期待以上の甘く心掴む盛りパフェだ～！♪」

飴村 乱数

「いっただきま～す！」

飴村 乱数

「うんうん！食欲をそそられるビジュアルだし、味も創造を裏切らない！ん～～～！甘い！♪」
幸せそうな、蕩けた表情で、ホイップクリームの乗っかった苺を頬張る。
まるでハムスターのような顔になる。

飴村 乱数

すっかり気分もご機嫌。どこからともなくスマホを取り出して、全員が映り込むようにして、パシャ☆

飴村 乱数

いえーい！とカメラに向かってピースサインと、ウインク。

飴村 乱数

お食事楽しませてもらってま～す！という記念撮影だ。単なる、乱数の自己満。

飴村 乱数

「へぇ……アリスお姉さん、『仕事』が早いねぇ」

飴村 乱数

スマホをいじりながら─────顔に影が差す。にやりと笑うのだった。

飴村 乱数

電源を落とす。そして遊ぶように、スマホをくるりと指先の上で回す。

飴村 乱数

ぱしりと、掴む。

飴村 乱数

「こういう時は、ヤクザの映画だと、こう言うんだっけ？」

飴村 乱数

「─────『落とし前』、つけにいこうか……ってね♪」

あざとく、ウインクするのだった。

飴村 乱数

飴村 乱数

飴村 乱数

飴村 乱数

「いや～防音加工やっておいて良かった～」
壁に凭れ、頭の後ろで腕を組み、光景を平然と眺めているは、ピンク色の少年。
雨に打たれた際に、折り畳み傘持ってきて良かったーくらいの軽いノリ。

飴村 乱数

「透野お姉さん痛み与えすぎなんだよ～、絶対楽しんでるでしょ！」

飴村 乱数

へらへらと笑う。

飴村 乱数

ぴちょん、ぴちょん、と聞こえる、水滴が垂れるような音。

飴村 乱数

乱数の緑の瞳に映るは、腕。濡れた男の腕。

飴村 乱数

「てか透野お姉さんさ！この拷問、何の為にやってるか覚えてる～？」

飴村 乱数

あ～あ、やっぱり！と言わんばかりに肩をわざとらしく竦める。

飴村 乱数

「これでも一応は中華マフィアなだけあるんだね～」
映画を見る評論家気取りのように呟く。

飴村 乱数

「このおじさんにとっては、どっちに行っても地獄だろうねぇ～」

飴村 乱数

「吐けば組織から死ぬ方がマシな目に遭うだろうし、吐かなくても……」

飴村 乱数

まぁ、言わなくてもいっか、とまた肩を竦める。

飴村 乱数

「そろそろ五月蠅いなぁ……おじさんの叫び声も聞き飽きたよ」
うんざりした表情で、自分の耳を抑える。

飴村 乱数

「アミドニお姉さんもご立腹だよ～。ね～？」
賛同を要求するように、にっこり笑顔を向ける。

飴村 乱数

「それもあるだろうねぇ～、下っ端にはそーんな重要な情報、握らせないだろうしね」

飴村 乱数

「じゃ、とりあえず次～、よっろしく！♪　透野お姉さん！」
にっこりと笑う。無邪気に。

飴村 乱数

そんなことを言いながら、乱数は持参してきたラジカセを弄っている。
拷問には全く関係の無いものだ、通りがかりの闇市で入手したである。お手頃価格で。

飴村 乱数

乱数的にはもっと可愛くてポップなものの方がいいのだが、こんなゴミの吹き溜まりのような場所では、贅沢も言ってられないだろう。

飴村 乱数

ね～ね～アミドニお姉さん～！何聴きたい～？
なんて、日常的な会話のノリで、カセットを吟味しながら聞いている。

飴村 乱数

「おっ！いいねぇ～～～！！じゃあ～可愛いアリスお姉さんと出会えた記念にってことで！」

飴村 乱数

「リクエストに応えちゃおっかな～～♪」
ふんふん～♪と、鼻歌交じりに。

飴村 乱数

そして、カチッ、とボタンを押す。