Ccfolia Log

矢澤 にこ

ED『それでも戦いはある』　登場：任意
登場判定は、シナリオが終わったあとなのでやらない

矢澤 にこ

矢澤 にこ

矢澤 にこ

矢澤 にこ

年末間近となり、街は年越しに備え、どこか浮かれているような雰囲気で溢れていた。
無事に、今年を越すことができ、そして、新しく来る年に期待を込めながら、人々は、仕事も、学校も終え、羽根を休めていたのだが……。

矢澤 にこ

─────UGNだけは、違う。

矢澤 にこ

レネゲイドに、『休日』などは存在しない。

矢澤 にこ

今日も、『災害』が、そして『事件』が起きた。
オーヴァードという存在を巡った戦いは、たとえどんな時でもある。

矢澤 にこ

「はぁ……」

矢澤 にこ

白い吐息が、暗い空と、空から落ちる雪の結晶の中に、溶けていく。

矢澤 にこ

分厚いコートと、マフラーに身を包む少女は、気怠そうに、ベンチに座っていた。

矢澤 にこ

「全く……ほんと、元気ったらありゃしないわね」

矢澤 にこ

うんざりしたような表情で、眉を顰めながら、誰にぶつけるわけでもないが、八つ当たり気味に、空に向かって、そう呟く。

矢澤 にこ

むすっとした顔で向けるも、血が溢れている額を見て、ギョッとした顔をすると。

矢澤 にこ

「うるさいわね、ゆっくり過ごしたかったのに、ま～ったく可愛くもない戦いに駆り出されてたのよ？」

矢澤 にこ

そう言って、立ち上がると……薄くピンクのハンカチを取り出すと、矢神の前に出て。

矢澤 にこ

少し、背伸びをする。そして、額の血に、ハンカチをそっと当てる。

矢澤 にこ

「イケてる顔が台無しよ」

矢澤 にこ

「そうだけど、そういうのに『慣れた』ら……」

矢澤 にこ

「『人間』としての当たり前が、忘れちゃうじゃない」

矢澤 にこ

「そんなのは、私は嫌よ」

矢澤 にこ

吹き取って、ふんす、と息を漏らし、肩を竦める。

矢澤 にこ

ジトっとした目で、男を見やる。
先程、共に……この年末でも大暴れするテロリズム……つまり、FHを相手にしてきた、背を預け合った仲なのだが。

矢澤 にこ

「……ええ、知ってるわよ、プロフィールなら勝手に見させてもらったし」

矢澤 にこ

そう言うと、近くにあった、夜中でも目立つ光を放つ自販機へと歩いていき。

矢澤 にこ

「矢神、飲みたい物のリクエスト、あるかしら？」

矢澤 にこ

「ん」
短くそう応えると、自販機にコインを入れた後、背伸びをして、ピッ、とホットのミルクティーを押す。

矢澤 にこ

自分の分は、ホットココアにした。
ガタン、ガタン、と二つの音がした後、ペットボトルと缶を持ってきて。

矢澤 にこ

「お疲れ様」

矢澤 にこ

そう言って、ホットミルクティーの入ったペットボトルを差し出すのだった。

矢澤 にこ

「いくら不死身でも……寒いものは、寒いもの」

矢澤 にこ

……身だけじゃなく、心も。

矢澤 にこ

気分を良くしたのか、ふふん、とにやりと笑うと。

矢澤 にこ

「そうよ？だから誇りなさい、なんたって私は、トップアイドルになる女よ？」

矢澤 にこ

「その飲み物も、せいぜい宝物にしなさい」

矢澤 にこ

軽口を叩いた後、矢神がいる隣の木に少し凭れかかるようにして、ぷしゅ、と缶を開ける。

矢澤 にこ

「宝物にしなさいって言ってるでしょ！？」

矢澤 にこ

「売らないでよ！？」

矢澤 にこ

「私は転売とかそういうの、嫌いよ！反対～！性根がねじ曲がってるとしか思えないわ！」

矢澤 にこ

そう言いながら、缶の縁に口を当て、ちびちびと、ココアを飲んでいく。

矢澤 にこ

そして、ジロリと、矢神の方を見て。

矢澤 にこ

「……まさか、アンタはそういうこと、してないわよね」

矢澤 にこ

「何それ」
ぷっ、と小さく笑う。

矢澤 にこ

「……元々FHにいた奴は、UGNに下る際は、相応の『監視』に、『首輪』も付けられるって聞いてたし」

矢澤 にこ

「もしも私がその立場だったら、プライバシーも何も無くて、嫌になっちゃいそうだけど」

矢澤 にこ

「アンタの様子を見る限り、別に……って感じてそうね」

矢澤 にこ

ちびちびと、ココアを飲みながら。

矢澤 にこ

ああ、やっぱり……そうなのね。

矢澤 にこ

そう思いながら、赤い瞳を少しだけ矢神へと向けて。

矢澤 にこ

「……そういう意味だと、アンタだって相当の『変わり者』よ」

矢澤 にこ

「任務中は、任務があったわけだし、聞かなくてもいいって思ってたけど」

矢澤 にこ

「今気になったから聞くわ」

矢澤 にこ

「どういう心境の変化で、こっちに来たのかしら？」

矢澤 にこ

「………………」

矢澤 にこ

ココアを持っていない手を、コートのポケットに入れる。

矢澤 にこ

雪の結晶は、止む様子はない。空気の熱を奪うように、まだまだ降る。

矢澤 にこ

……静寂な時間と、少しの北風が吹かれる。

矢澤 にこ

「………案外、『理屈』じゃないのかもしれないわね」

矢澤 にこ

ふと、そんなことを口にしてみるにこだった。

矢澤 にこ

「その方が、きっとアンタにとっても、生きやすかったかもしれないでしょうしね」

矢澤 にこ

「何せ……私達は、一応これでも、『選ばれてる』存在」

矢澤 にこ

そう言って、己の手を、じぃと、見つめながら。

矢澤 にこ

「……理性を保てているのも、そして……強力な力を持てているのも、限られてる」

矢澤 にこ

そ。と軽く返事。

矢澤 にこ

「………へぇ……」

矢澤 にこ

ココアを口にしながら、横目で、赤色の瞳を向けつつ、素っ気なさそうな返事を、しかし、しっかりと傾聴する。

矢澤 にこ

「…………」

矢澤 にこ

肩を竦める。

矢澤 にこ

「……『まだ間に合う』。その言葉を言ってくれる人間なんて、そういないわよね」

矢澤 にこ

「アンタ、結構な『やらかし』してたみたいだし」

矢澤 にこ

「……………」
その言葉に、ぼーっと空を見上げつつも……頬が、緩んで。

矢澤 にこ

「……考えてみたら、そうよ、だって」

矢澤 にこ

「こんな、化け物みたいな体になった後、『戦ってくれ』だなんて言われて」

矢澤 にこ

「普通なら、拒絶もんよ、あり得ないわ」

矢澤 にこ

「命を失うことも、奪われることも……傷つくことも、傷けられることも、誰だって恐れるものだって、私は思うし」

矢澤 にこ

「それでも、その人は……その言葉を伝えるために、アンタを追ってきた」

矢澤 にこ

「そう考えたら　………よね」

矢澤 にこ

寒さに少し震えて、身を縮こませ、口元をマフラーに埋めさせる。

矢澤 にこ

「……そうね」

矢澤 にこ

ココアは飲み切った。自販機の隣にあるごみ箱の穴に投げると。

矢澤 にこ

「………支部、ね」
今も職員達が騒がしく働いている。年中無休。
年越しの雰囲気も、微塵も無い。

矢澤 にこ

ポケットに、手を入れながら。ザク、ザク。と雪道を歩いて。

矢澤 にこ

「私は、少ししばらく、この静かな場所にいたかったところはある、けど」

矢澤 にこ

「……寒さには、勝てないわね」

矢澤 にこ

「私のシンドロームも大体同じよ、意外とやれることの少ないこと」

矢澤 にこ

はあ。と白い吐息を、また一つ大気に逃しながら。

矢澤 にこ

「………戻ったら、任務の報告をして、解散　……といったところでしょうね」

矢澤 にこ

「『お疲れ様でした』って、労いの言葉も添えながら、ね」

矢澤 にこ

「……………」
眉間に皴を寄せながら、歩いて。

矢澤 にこ

「……昔なら、あったでしょうね。今は、『活動停止』中よ」

矢澤 にこ

目を細める。

矢澤 にこ

暗がりの中なため、人影の姿がイマイチ見えない。

矢澤 にこ

「何か用かしら？」

矢澤 にこ

手を温めるため、手をポケットへと入れたまま、現れた男を見上げる。

矢澤 にこ

そして、引っ張られている少女の方へも、目をやり、細める。

矢澤 にこ

「……なるほどね、私達のこと、一応知ってるのね」

矢澤 にこ

しかし、にこの記憶には、フジキドのプロファイルは無かった。
未登録のオーヴァード、なのだろうか。
そして、国際探偵という組織の名にも覚えはない……が。
まだこの世界には、自分の知る由の無い組織も、ごまんとあるのだろう、と納得した。

矢澤 にこ

嘘を吐き、騙そうとしている様子ではない、と。にこは察する。

矢澤 にこ

「……なるほどね」
キウィへと、目をやって。

矢澤 にこ

「お勤め、お疲れ様、フジキド、とか言ったかしら」

矢澤 にこ

「元気そうね、FH」
ジト目で、あかんべをするキウィを見ながら。

矢澤 にこ

首根っこを掴む。

矢澤 にこ

「地味～に嫌なやつ！」

矢澤 にこ

おばかっ、と、軽くキウィの頭を叩く。痛くしない程度に。

矢澤 にこ

レネゲイドの真実は、公表されてしまえば、人々の混乱を招きかねないため、UGNは組織として、その秘匿に努めている秘密結社だ。

矢澤 にこ

キウィのやっていること程度ならば……そこまで注目が浴びる、とも思えない。
記憶処理も、大それたことはせずに済む程度のものなため、人死も出ていない今、軽めには見られている。

矢澤 にこ

いつも本腰を締めてばかりでは、疲れる。力み続けられる人間など、いない。

矢澤 にこ

「こ～ら、フジキド、そういうの教えちゃだめよー」

矢澤 にこ

その意見には、同意するものがあった。こくりと、頷く。

矢澤 にこ

「ま、仕方ないじゃない」

矢澤 にこ

肩を竦めながら。

矢澤 にこ

「それが、一応私達の『選んだ』道だもの」

矢澤 にこ

「そうでしょ」
全員に向けた、言葉だった。

矢澤 にこ

前線で戦うこと、大人しく、慎ましく生きるのではなく、命を懸した現場へと、身を動かす。

矢澤 にこ

常人では、あり得ない。やらない。常識外の行為。
それでも、自分達はやる。

矢澤 にこ

「はいはいうるさわよ～」

矢澤 にこ

ズルズルと、キウィの首根っこを掴みながら、引きずって歩く。

矢澤 にこ

ちらりと、フジキドを、赤色の瞳で見やる。

矢澤 にこ

……変わった男。不思議な男、ね。

矢澤 にこ

はあ。と白い吐息を、空に投げ捨てるように吐くと。

矢澤 にこ

「確かに、私はイリーガルだし、エージェントほど、仕事真面目にする必要もないし」

矢澤 にこ

「もう今は、任務を終えた後。UGNとしてじゃなく、いち人間として過ごしていい時間帯にはいるけど」

矢澤 にこ

「曲がったことは、嫌いなのよ」
ただ、個人の感情に由来するもの。それだけだった。

矢澤 にこ

フジキドと、背を向け合うように、歩く背の小さな少女。
ピンク色のコートが、北風に少し揺られながら。

矢澤 にこ

……あの男とは、またどこかで会いそうね。

予感として、なんとなしに、直感的に、そう思うにこであった。

矢澤 にこ

その言葉を聞き、少し振り返ると。ん、と、小さく返事を返す。

矢澤 にこ

「……コードネーム：ラブリーサイレン」

矢澤 にこ

「矢澤にこよ」

矢澤 にこ

「……いいお年を」

矢澤 にこ

ひらりと、手を掲げる。

矢澤 にこ

向こうは名乗ったのだから、こちらも名乗るのが礼儀、というものでもあったから、そう思うから、そうしたにこだった。

矢澤 にこ

「そーそ、私も仕事大好き人間ってわけじゃないのよ、大人しくしててくれるかしら？」

矢澤 にこ

赤色の瞳を、キウィへと向ける。ジロリ、と。

矢澤 にこ

「なわけないでしょ」
はぁ。と溜息。

矢澤 にこ

矢神の言葉に、闇を感じつつも……　もう既に、私達がいるところも、そこに属するんだろうなぁ、と、当事者だというのに、他人事のようにそう思った。

矢澤 にこ

「……それに、アンタ達みたいなバカがいるから、年末だろうと、出動要請が入ってくんのよ」

矢澤 にこ

肩を竦めながら、眉を顰めて。

矢澤 にこ

「むしろ、年越し前後の方が仕事が多かったりするわ、同じこと考えている奴が多いんでしょうね」

矢澤 にこ

こくりと、矢神に頷く。同調するように、そして、若干の気分が悪そうに。

矢澤 にこ

でしょうね。と、そちら側にいた矢神へと、赤色の瞳を向けつつ。

矢澤 にこ

「………好きじゃないけど、でも」

矢澤 にこ

「好きじゃないから、何もしないのは、気持ちが悪い」

矢澤 にこ

「『せっかく力があるから』こそ……ね」

矢澤 にこ

「……二度と、経験したくないことの、一つや二つ、人にはあるってもんよ」

矢澤 にこ

含めるように、眉を顰めながら、そう低い声で呟く。

矢澤 にこ

「…………………」
頭を少し掻きながら、眉を歪めつつも……まぁ、理想論としては、別に、何か悪いところがある、というわけでもない。

矢澤 にこ

にこ自身も、レネゲイドの隠蔽に関しては……思うことはある。

矢澤 にこ

『隠し事』をしている、という事実が、引け目になっているのだから。
……少なくとも、誠実的な態度ではないのは、確かだろう。

矢澤 にこ

「……そういうこと、ね」

矢澤 にこ

同調するように、頷きながら。

矢澤 にこ

「人は、『変わること』に対し……とても、敏感なのよ」

矢澤 にこ

「変化を畏れる、よくも、悪くも……ね」

矢澤 にこ

「新しい環境に身を置く時、誰だってワクワクするわけじゃない、誰かは緊張で、心が震えることもある」

矢澤 にこ

「新しい常識、新しい法律、新しい制度」

矢澤 にこ

「全部全部、人がまず抱くのは……『不安』よ」

矢澤 にこ

「今までも、上手くやってるんだから、いいじゃないの　……ってね」

矢澤 にこ

白い吐息を、空気に溶かす。

矢澤 にこ

「………ん」

矢澤 にこ

声が聞こえた、そちらの方へと、赤色の瞳を向ける。
またしても、暗がりなため、よく見えず、目を細める。

矢澤 にこ

にこは、現れた男に─────ギョッとした。目を大きく、丸くした。

矢澤 にこ

「え？」

矢澤 にこ

ぽかん、と口を半開きにしたまま、固まる。

矢澤 にこ

「……あ……ぇ……えっ！？……あ、え、ええ……そ、そう、だけど……え゛っ！？」

矢澤 にこ

冷や汗がだらだらと流れていく、衝撃を受けたような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、現れたチャラ男を見上げている。

矢澤 にこ

にこは、知っていた─────男の『正体』を。
しかし、『エージェント』と名乗っているところを見て……『噂通り』であることを察して。

矢澤 にこ

「………お、お疲れ様……です　……『エージェント』、GO」

矢澤 にこ

「え゛っ！？？！あ、あああぁぁ……！！！そ、そうね……じゃない！そう……ですね！！」

矢澤 にこ

この場合、『エージェント』として接すればいいのか、それとも……『最高権力の持ち主』の一人として接すればいいのか分からず、ギクシャクしてしまうにこであった。

矢澤 にこ

……て、ていうか、楽しむ……？

矢澤 にこ

たらりと、冷や汗を浮かばせる。

矢澤 にこ

「え？……待って、じゃあ、このFHは……？」

矢澤 にこ

そう、でしょうね……情報が渡るのは早い、それがUGNでもあると思うし。
……それ以前に……この男を前にしたら、もう、隠し事が隠し事じゃなくなるくらいになる。
そのくらいの、『凄み』ってもんが、あるわ。

矢澤 にこ

しょうがないの……！？
……ふ、懐が広い、というべきなのか……『余裕』だとでも、言うべきなのか……。

矢澤 にこ

先程からずっと、狼狽しまくるにこだった。

矢澤 にこ

「え？」

矢澤 にこ

素直な疑問符が浮かぶ、言葉の意味が分からず、GOの方をきょとんとした顔で見る。

矢澤 にこ

「え゛えっ！？！？！そ、そんな協定が、いつの間に……！？！！？」

矢澤 にこ

「………も、もしかして、それって……　……アンタ、が？」

矢澤 にこ

おそるおそる……そう聞いてみる。ずっと冷汗が止まらない。

矢澤 にこ

「……あ、あははっ……はは、そう、よね……！まさか！そんなわけ、無いわよね」
苦笑しながら、乾いた笑いが漏れる。

矢澤 にこ

……なんていうか……矢神が言ってた言葉を、借りるなら。

矢澤 にこ

「……『気が抜けちゃった』わね」

矢澤 にこ

肩を竦めながら、矢神を見やりつつも、微笑を浮かべる。

矢澤 にこ

肩の重荷みたいなものとかも、どっか吹っ飛んだような気分になった。

矢澤 にこ

首根っこを掴んでいたキウィを見やって、はぁ、とまた一つ溜息をすると。

矢澤 にこ

パッ、と離す。

矢澤 にこ

「……ま……ジャームでもないっていうのなら……アンタは、見たところ別に……『衝動』のままに暴れていまくるってわけでも、無さそうだし」

矢澤 にこ

判断基準は正確ではないが、そんなものは、今に始まった話ではないので。

矢澤 にこ

「……それに、UGNの本分は……『共存』」

矢澤 にこ

「ジャームだろうと、FHだろうと……レネゲイドに感染しているなら、誰であっても、『治療対象』」

矢澤 にこ

「だから、わざわざ敵対意思をぶつけまくるっていうのも、おかしな話」

矢澤 にこ

「………そういうことよね、GO？」

矢澤 にこ

ちらりと、赤色の瞳を向ける。

矢澤 にこ

ふふ～ん、当然よっ！と、ちょっと嬉しそうな顔をする。

矢澤 にこ

「そんなわけだけど　……どうすんのよ、アンタは」

矢澤 にこ

キウィを見やって、目を細める。

矢澤 にこ

……案外、素直なのね、この子は。

矢澤 にこ

私も、ホッとしたわ。

矢澤 にこ

「そうね　……あまり無茶しすぎるのも、良くないところだし」

矢澤 にこ

「……それでGO、そう言うなら、どこかいい場所とか、知ってるんでしょうね？」

矢澤 にこ

にやりと、挑戦的な笑みを浮かべながら、軽口を叩いてみる。

矢澤 にこ

予約もしてあるのね……この状況を読んでいたのかしら、侮れないわね。

矢澤 にこ

そう思いながら、ポケットに手を突っ込んで。

矢澤 にこ

「ええ、分かったわ　……アンタ、そういえば、名前は？」
ちらりと、キウィを見て。

矢澤 にこ

「街中で、FHって呼ぶわけにもいかないじゃない？」

矢澤 にこ

「ふぅん、キウィね」
第一印象として、アイドルにいそうな、競合の雰囲気の名前。

矢澤 にこ

「可愛い名前じゃないの」

矢澤 にこ

「ま、私の方が可愛い名前だけどね」
自信を含ませた笑みを向けて、ドヤ顔をする。

矢澤 にこ

「は？私の方が上だけど～？」

矢澤 にこ

対抗して、若干ムキになるにこにー。

矢澤 にこ

「へぇ、上等じゃない………」ﾋﾟｷﾋﾟｷ。
青筋が顔に浮かんでいる。そして、目の奥が燃えている、炎のように。

矢澤 にこ

「矢神！GO！」
ビシッ！と指差す。

矢澤 にこ

「どっちの方が！可愛いかしら！」

矢澤 にこ

腰に手を当てて、胸を張る、仁王立ちになる。

矢澤 にこ

「んなっ！？」
ガーン。

矢澤 にこ

これでも一応アイドルとして、美容には命を懸けてきたにこにーだった。
きゅうりを輪切りにカットして、保湿を怠らないようにしたりと……。
にこにーなりに、アイドルの名を冠する者としてもプライドとして……。

矢澤 にこ

それが……ぴきりと、罅が入ったような瞬間だった。とても、ショックを受けた。

矢澤 にこ

「………無念……がふっ」

矢澤 にこ

orz

矢澤 にこ

ぴくりと、耳が動く。聞いている。

矢澤 にこ

「ぬわぁんでよぉおおおっ！？！？！？！」

矢澤 にこ

雪の降る夜空に、にこにーの悲劇の叫びが轟くのだった……。

矢澤 にこ

「や、やっぱりプロポーションなの……！？体だとでも言うの……！？！」
頭を抑えながら、首をブンブンと振っている。大ショックを受けて転がっている。

矢澤 にこ

「ぐっ………！！」
これが、『可愛さ』を極めんとする者の、覚悟だとでも言うの……！？

矢澤 にこ

眉間に皴を寄せて、とても悔しそうな顔をするのだった。

矢澤 にこ

「…………！！！！！！！！！！！」

矢澤 にこ

ぱああっ、と顔を明るくさせ、上げる。キラッキラな目になっていた。

矢澤 にこ

そして……むふーー！！と、満ちた表情にもなっていく。

矢澤 にこ

「……ふふふ……！！ふっふっふ！！その通り……！分かってるじゃないの！」

矢澤 にこ

「そうよ！やっぱり……私の方が！一番よ！！」

矢澤 にこ

ご機嫌になった。

矢澤 にこ

「ぬぁにを～～～～？」

矢澤 にこ

「……はあっ！？！？」
調子に乗っていたところに、お神輿に上げられていたところを、すとんと落とされたような感じだった。

矢澤 にこ

「それどういう意味よ！？ねぇ！？どういう意味！？！」

矢澤 にこ

むが～～～～！！話を逸らされたーーーー！！！
と、その場で地団太を踏んでいる。

矢澤 にこ

「ぅわかったわよ！！！今日はもう！！飲み明かすわよ！！！」

矢澤 にこ

「ぴっちぴちの高校3年生よ！！！」

矢澤 にこ

「ふんっ！わーってるわよ！！ていうか、言葉の綾よ！綾！！飲むのは烏龍茶とかに決まってるじゃない！！」

矢澤 にこ

「ほら！行くわよ！！あと、ちゃんと奢りなさいよ！！」

矢澤 にこ

そう言いながら、ぐいぐいと、矢神とGOの背を押すのだった。

矢澤 にこ

「？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？」
そもそも財産Pって何よ？？？ってなっていた。

矢澤 にこ

「……つまり、無茶苦茶太っ腹で、いいお店行っても問題無し、ってことね！」

矢澤 にこ

「ふふ～～ん！楽しみね！！」
るんるんと、気分が良くなっている。

矢澤 にこ

「えっ、わっ……！？」
急に現れた巨体の男に吃驚して、目を白黒とさせながら。

矢澤 にこ

「あ……　た、確か……アンタは、支部で見かけたことがある……」

矢澤 にこ

「エージェント・006……？」

矢澤 にこ

「ま、そんなところよ、一匹はFHだけどね……」

矢澤 にこ

ツインテの髪を指先で弄り回しながら。

矢澤 にこ

「アンタも年末仕事だったのね、とりあえずは、お疲れ様」
労いの一言も添える。

矢澤 にこ

「いやアンタに言われたくないでしょっ！その格好で！」
肘先で、キウィのお腹を突っつく。

矢澤 にこ

「ま、そうね」
肩を竦めながら、同調する。

矢澤 にこ

「……それと、アンタは……これ羽織っときなさい」
そう言って、キウィに、自分が着ていたピンクのコートを被せる。

矢澤 にこ

「見てて、こっちが寒くなるのよ、まったく」

矢澤 にこ

「………ん」
素直にお礼を言われるとは思ってなくて、ぶっきらぼうな返事になってしまう。
照れ隠しのような、そんな表情で、少しむすっとした。

矢澤 にこ

「……ふふ、そうね」

矢澤 にこ

「それに、今日は、UGNの対応で、た～くさん、体動かしたもの」

矢澤 にこ

「ちょっとくらい、多めに食べても……別に、いいわよね」

矢澤 にこ

「ええ」
そう返事をすると、ポケットに手を入れながら、くすりと、少しだけ微笑む。

矢澤 にこ

「………あれ？」
意表を突かれたような顔で、暖簾をくぐる。瞬きをして、辺りを見渡す。

矢澤 にこ

想像していたのは、もっと……高級そうな、壺とか、絵画とか、置かれていそうな、お洒落なレストラン……だったのに。

矢澤 にこ

「え゛」

矢澤 にこ

冷や汗が浮かぶ。

矢澤 にこ

「ちょ、GO！？な、なんでここ！？もっと……いいところとか、あるんじゃないのかしら！？」

矢澤 にこ

別に、高い所に行って奢ってもらおうだとか、そういう卑しい魂胆があったわけではない、のだが……。

矢澤 にこ

少し、想定とズレていたというか、やや困惑をしていた。

矢澤 にこ

「………あー……」

矢澤 にこ

納得したのだった。
冬だというのに、シャツ一枚でいるチャラ男の姿を、もう一度眺める。

矢澤 にこ

「…………ぷっ」
気が抜けて、笑いが噴き出る。

矢澤 にこ

「……ま、そうね、私も、こういう雰囲気の方が落ち着くってところは、あるし」

矢澤 にこ

そういうにこも、実家はそこまでお金持ちというわけでもなく、かなり庶民派。
兄弟も多く、にこのこういった仕事によって、生計が賄われているところもあった。

矢澤 にこ

「ん？凄いところ？」

矢澤 にこ

そう言って小首を傾げ、店内を見ると……。

矢澤 にこ

………あ。

矢澤 にこ

フジキドの姿が、目に映る。

矢澤 にこ

またどこかで会いそう、と思っていたが……。

矢澤 にこ

は、早くない！？

矢澤 にこ

「って、蟹！？え！？本当なの！？　……って、ええ！？ちょ、どこからどこまで驚いたらいいのよ！？」

矢澤 にこ

「知り合い！？！顔見知りだったの！？！？」

矢澤 にこ

GOとフジキドの顔を相互に見やる。

矢澤 にこ

「ちょっと待ってよ……お蕎麦に蟹そのものが乗っかっている光景見たことないんだけど……！？」

矢澤 にこ

「ええっ！？！？」

矢澤 にこ

なんていうか、高級料理を、庶民的な料理にぶちこむっていう……ある意味で、贅沢な使い道というか……ある意味で、なんとなく、男の子っぽい発想で……可笑しくて、笑みが零れるにこだった。

矢澤 にこ

「さっきぶりね、フジキド」

矢澤 にこ

ひらりと、微笑を浮かべながら、手を掲げる。

矢澤 にこ

「大勢でやるのが、忘年会の醍醐味ってところだものね」

矢澤 にこ

……へぇ。

矢澤 にこ

この男も、GOの『正体』を知っている、ということなのね……。

矢澤 にこ

……訳ありも、訳あり、ね。

矢澤 にこ

ほんの少し、好奇心、興味が湧き上がるにこであった。

矢澤 にこ

「ま、そうね、もう畏まるとか、そういうのは御免よ、私もの～んびり、だらだらやらせてもらうわ！」

矢澤 にこ

そう言って、にこも畳に上がると、キウィの羽織っていたコートを脱がせて、ハンガーに掛ける。
店内は、暖房が効いているため、とても温かかった。

矢澤 にこ

そして、にこにーも軽い服装になる。

矢澤 にこ

「ふぅ～～～～、やっぱ中はあったかいわねぇ～～～」

矢澤 にこ

そう言って、座布団の上にちょこんと、女の子座りで座する。

矢澤 にこ

「ほんとよ、全く、どこまで積もるのかしらねぇ」

矢澤 にこ

机に上に肘を突き、頬杖を着きながら、出入口から見える外の景色を見やる。

矢澤 にこ

今も雪が降り続けている。

矢澤 にこ

「私もできるなら、そうしてほしいくらいだけど………ま、自然が、自然のあるがままっていうのが、摂理ってもの、人間の手であーだこーだするのは、野暮ってものよ」

矢澤 にこ

そーそ、と006に頷く。

矢澤 にこ

「……ふぅん？」
興味深そうに、フジキドを観ながら。

矢澤 にこ

「あ、私は烏龍茶と……そうねぇ、お腹ぺこぺこよ！どれにしようかしら……」

矢澤 にこ

メニューを見ながら、ウキウキとしている。

矢澤 にこ

「ま、やっぱ蟹よね！蟹！」

矢澤 にこ

「そうね、じゃあ私も年越しそばと……って、特盛ぃ！？アンタそんなに食べられるの？」

矢澤 にこ

「……血糖値とか、気を付けなさいよー？」
ジト目で。

矢澤 にこ

「へぇ、詳しいわね矢神」
袋入りのお手拭きを店員から受け取ると、全員の手元に配っていく。

矢澤 にこ

あら、ありがと。とフジキドにお礼。

矢澤 にこ

矢神と006の方を向いて、肩を竦め、うんざりしたような顔をして。

矢澤 にこ

「でも、女は別よ、べーつ」

矢澤 にこ

「ちょっと甘いスイーツ食べたら、すぐに太っちゃうんだもの」

矢澤 にこ

「嫌になっちゃうわ、そういう意味だと、男が羨ましく感じる瞬間ね」

矢澤 にこ

「んなわけないじゃないの！！！」
ムキになる。

矢澤 にこ

「その数キロがねぇ！！アイドルにとっての、生命線になるのよ！！」

矢澤 にこ

超メラメラと、目の奥が炎で燃えていた。

矢澤 にこ

「まっ！そうね！だから今日は無礼講！」

矢澤 にこ

「反省しなさい矢神」

矢澤 にこ

そーだそーだー！と、悪ノリが少し入っている。

矢澤 にこ

むふー！と、ドヤ顔、したり顔、満足気、何故か。

矢澤 にこ

「それでいいのよ、それで！」
うんうんと、腕を組んで頷いている。

矢澤 にこ

「♪～」
鼻歌を歌いながら、フジキドに頷いて、手を拭き始める。

矢澤 にこ

「あーー……まぁ、こういう業界だと、ある意味で『あるある』よねぇ」

矢澤 にこ

「みんなもあるんじゃないかしら？こう……」

矢澤 にこ

「職業病……みたいな？」

矢澤 にこ

「色んな意味で『病人』ね」
頬杖を着いて、苦笑しながら、肩を竦ませる。

矢澤 にこ

「モルフェウスになると、それこそ……割と作れるものが多いから、一般的な感覚から、どうしてもズレちゃうところも、あるわよね」

矢澤 にこ

「やだ、すっごく便利」

矢澤 にこ

「え、違うの？」
きょとんとした、少し悪戯っぽい顔を向ける。

矢澤 にこ

「ふふ、意外と便利よね、そういうのも」

矢澤 にこ

「都会だと、光熱費が馬鹿にならないところもあるもの」

矢澤 にこ

「私も家計簿見て、いつもビックリよ！兄弟も多いから、どうしても使いまくっちゃうし」

矢澤 にこ

「？」
矢神の方を向く。

矢澤 にこ

「ん、お待ちかねね！」

矢澤 にこ

烏龍茶の入ったジョッキの持ち手を持つ。

矢澤 にこ

キウィの様子を見て、軽く肘で突っつく。
そして、『いいのよ』と言わんばかりの表情で、微笑を向けると、GOの話に傾聴する。

矢澤 にこ

「かんぱ～い！！」

矢澤 にこ

きん、と硝子同士が軽くぶつかる、軽やかな、響いた音。

矢澤 にこ

グビッ！

矢澤 にこ

ごくっ、ごくっ、ごくっ！と、喉を鳴らしながら、烏龍茶を垂らしこむと……。
ぷはぁ～～～！！と、気持ちのいい声を上げる。

矢澤 にこ

「ええ！いただきま～す！」

矢澤 にこ

どれからにしようかしら！迷っちゃうわ！なんて言いながら、運ばれてくる料理を見ている。

矢澤 にこ

じゃ、これをっと。と、適当に、海老天を共通で使う箸を使って、自分のお蕎麦の上に乗せつつ……。

矢澤 にこ

「私はフツーに食べさせてもらうわ、まずは素材の味ってやつよ～♪」
鼻歌を歌いながら、蟹の硬い殻を剝いている。

矢澤 にこ

パキッ、と割ると、中身が見え、それを口に入れると、脚の殻を引っ張って、剥き出しにする。

矢澤 にこ

「んんん～～～～！美味しい～～～！！」
ほっぺに手を添えながら、幸せそうに咀嚼する。

矢澤 にこ

「んふふ、贅沢に食べてるわねぇ」

矢澤 にこ

「うわっ……！？……そ、そういう割り方もあるのね……なんか、渋いわ」

矢澤 にこ

フジキドの、殻の割り方に吃驚して、冷や汗を浮かばせながらも、感心したような目で見ている。

矢澤 にこ

矢神の言葉に、レネゲイド反応に集中をするも……。

矢澤 にこ

首を振る。

矢澤 にこ

「……いいえ、そういう反応は一切、無いわね」

矢澤 にこ

「………」
ますます、不思議な男、ね……フジキド。

矢澤 にこ

そう思いながらも、ずるずるずるっ！と、蕎麦を啜るにこにーだった。

矢澤 にこ

「ん！……本当ね、かなり美味いわ……何割蕎麦なのかしら」

矢澤 にこ

「え゛っ！？」

矢澤 にこ

蕎麦を啜りながら、固まる。