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プライスレス

教える

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出航だァ〜〜〜！！！！

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「うーん…俺は……アリアハンの勇者…？」

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反転して沈んでいた意識は、女性の声によって水面に引き上げられる。

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いや、と言うか何だ勇者って…

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数年来、人に起こされるという経験をしていなかったものだから不意に妙な言葉が口から──────

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「って、は？」

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夢in夢？

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なんだこれ？

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困惑して地べたに転がったまま怪訝な顔を浮かべる。

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「え…いや、それはホラ…起きなさいって言いながら起こされるのって大体旅立ち前の…」

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「…じゃなくて！」

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クソッ！どうかしていた！

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ガバッ！！と勢いよく身体を起こして女から距離を取って身構える。

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「ここが交差点じゃなくて、おたくが知り合いならもう少しマトモに起きられたんだがな」

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「……誰だアンタ。なんで俺の名前を…しかも本名の方を知ってるんだ？」

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表情をますます強ばらせる…というよりも、どういう表情を置けば良いか分からない。

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「……」

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いや、そうだ。

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目の前の、女…は。

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知り合い……なんて言葉で表現するのは不適格なくらいには関わりが深い…そういう相手だった、はず。

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俺は何故そんなことも忘れていた…？

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「あ、あー…えーと…」

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「あー、すまん。まだ寝ぼけてたみたいだ」

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「それは…」

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一旦、記憶の不自然な欠落については、愛想笑いで誤魔化したが。

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それにしても誤魔化しきれないのは今の状況だ。

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「正直なこと言うと…俺にも分からない。気付いたらここにいてって感じだ」

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「…そもそも、ここはどこなんだ？昼間だってのに、こんなに人通りもないってことあるものか？」

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「……マジで？」

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「…いや、でもそれっておかしいだろ。やっぱり」

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「お前が…一度本部に行ってから、今どこに配属されてるかは知らないが」
「少なくとも俺はもうここの人間じゃない」

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首を捻る。

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おかしいことが起きているのは…まあもう説明するまでもなく事実なのだが。それにしても分からない。
何故今さらになって俺と…星山がこんな所に呼び出されたのか。

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「はあ…俺はそういうの考えるのは別に得意じゃないってのに」

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「俺としちゃ、今後どうするかも含めて"実力者"様の意見も聞きたい所だな」

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「反対する理由もなし。早いとこ、解決しちまおうぜ」

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「はあ…」

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「えーと、つまり？」

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「場を保たせる！？」

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面白いことやってと同レベルの無茶だろ。

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「まあ善処はしてみますが…あんまり期待しないでくださいよ？」

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「はあ…歓迎の挨拶ったって…何言えば良いんだ？」

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首を捻りながら、まだ若かった頃の錦戸は玄関に向かった。

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「…マジかよ」

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新人って…女かよ！

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こういうのって相手が女の時は特に同性に相手させるもんじゃねえのか！？

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頭をガシガシと掻きながら
「あー、君が支部長の言ってた新人？」

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「支部って外からだと分かりずらいよな。そりゃまあ堂々と看板引っ提げるって訳にもいかねえから当たり前なんだけど」

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うわっ、やべえ。絶対コイツ、そこそこ品があって気位の高い女だ

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「あー、おう、よろしくな」

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仲良く出来る自信は別になかったが、しかし相手に合わせて返礼する。

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「俺は錦戸。錦戸御幸…でコードネームは時々変わるが基本はプライスレスってので通してる」

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「で、君のは？」
コードネームを尋ねる。他に話題の種が思いつかなかったからだ。

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「め、メリ…メリクリ？」
聞いたことねえ〜単語。
あと、実力者って。すごいな。俺絶対重圧で名乗れねえわ。

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「ああ、そう？それなら助かったよ。悪いけど横文字あんまり得意じゃなくてさあ…」

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「って、立ち話もなんだ。支部長は今ちょっくら外してるんだが…帰ってくるまで、接待室ででもゆっくりしようか」

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ニヤ、と笑って。
「あそこの菓子、支部長の私費で買ってるからこういう時でも無いと食うと怒られるんだ」

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…ああ、やっぱり意外と面白い奴なのかもな。

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思っていたよりも会話がスムーズに弾んで、簡単に相手のことを気に入った。

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だからまあ、後から思うと上手くやれなさそうとかってのは…俺の杞憂だったんだ。

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パクパク遠慮なく食べていた形跡を心なしか隠しながら
「そちらもつつがなく作業が終わったようで何よりです」

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「……マジかよ」

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「ったく、相変わらずどこも人使いの荒さは変わらねえな」

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ガシガシと頭を掻いて

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「そりゃあ…まあ…」

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どうったって…

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何も聞いてないのにそんなこと言われても俺も困るんだけど
でも星山の方が多分より一層困ってるから…

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「俺の背中に着いて来い…的な？」

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あ、頼りになりそうなこと言おうとしたんだけど多分滑った。

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「や、やっぱ今の無し…とか！使えない？…無理か。まあ、無理か？」

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………ああ、なんとなくだけど。

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多分、コイツの方が先に出世するんだろうな。

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首を振ってから支部長を追いかけた。

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「…ああ」

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改めて、首を振って自分と相手とを見比べて。

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「俺の予感は半分当たって半分外れたな…ってことを思い出してたんだ」
上手くやってけないと言うのは外れて、先に出世されると言うのは当たった。
自分はしがないエージェントで、星山は遺産と関わるような本部様のエージェント。キャリアとしては雲泥の差だ。

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「……流石に妙だな。適当に考えれば、レネゲイドで作られた空間ってとこか」

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「まあ…それこそ、俺なんて呑気に地面に寝転んでた訳だし襲おうと思えばいつでも襲えた訳だから…誰かの攻撃って感じは確かにしないな？」

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しかしだとすると理由がますます分からない。

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「あ、これが俺の夢の中って説はどうだ？」

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「ちょっとつねってみてくれ」

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痛い？

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「………」

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「ひょっとしてなんだけど、俺ってバカなことやってるか？」

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「ぐ……シンプルにバカにされた方がまだマシだった」

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「うん？支部に？」

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「まあ、アテなんて俺には無いしそうするか」

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ちょうど先ほどまで…頭の中に思い浮かんでいた過去の情景はそこを写していた。

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今どうなっているかは知らないが…自分にとっては懐かしい場所だ。

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了解の意味で肩をすくめて…星山の後を追いていった。

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じゃあ上調べてみるか

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2DX+2 情報UGN (2DX10+2) ＞ 7[3,7]+2 ＞ 9

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外部との連絡も続けて調べておくか

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2DX+2 UGN (2DX10+2) ＞ 2[1,2]+2 ＞ 4

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「ダメだなこりゃ。何かしらの妨害があるみたいだ」

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「でもそれも変だよな。孤立させたいなら受信も断てば良いのに…なんでわざわざ送信だけ出来ないように…」

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「い、いて欲しい…？俺たちに…？」

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まあそう考えれば辻褄は合うが…にしたって、別にそんなことを願うような相手に心当たりもない。

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「はあ…しかしそうなると…逆に、俺たちがここから出ていこうとしたらどうなるんだろうな？」

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「えっ？マジかよ？」

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「じゃあ行ってみないか？人がいるかもしれないし」

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「…う、うーん？」

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例えば、この現象の…仮に発生源を人間だと仮定して
何か強い思い入れやゆかりのある地域をレネゲイドで再現していると言ったような事件には巻き込まれたことがある。

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それに則れば今回の犯人は少なくともS市に留まらない広さを再現していると言うことになるが…しかしそこまでの規模を個人で用意するとなると少し非現実的だ。

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「全く分からねえ……それこそ、アメリカにでも行ってみるか？」

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「…流石に俺たちのいる日常と同じ世界のどこかって考えるのは無理がありそうだな？」

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2DX+2 UGN (2DX10+2) ＞ 6[1,6]+2 ＞ 8

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「…ぞ」

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「ぞっとしねえ…」

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起きている現象については…理由はともかく理解は出来た。

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しかしそうなると…やはり、謎は深まる。

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何故？何故俺とお前なんだ？

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「……クソッ！手掛かりも何も思いつかねえ」

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少し苛立たしげにコンクリートの壁をコツンと蹴りつける。

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「お前も心当たり……とか、無いよなあ」

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「……そりゃ焦ったって仕方ねえのは分かるけど」

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「でも、お前だってこんな訳も分かんないようなとこで死を待つだけ…なんて、嫌じゃないのか？」

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「…まあ、もう半日以上歩きっ放しだったもんな」

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軽く首を振って。
「確かに俺もちょっとナイーブになってたみたいだ。悪かったよ」
「お前の言う通り寝て休むのが良さそうだなこりゃ」

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「え」

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「マジかよ…」

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「…マジかよ！？」

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「そ…そんなレベルでか…」

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しかしそうなってくると…

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「…実は俺たちに残されたタイムリミットってそれほど無いみたいだな？」
生物は無補給では生きられない。それはオーヴァードとなっても同じこと。

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「現代社会で餓死とか…わ、笑えないな？」

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「……」

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今日の活動内容

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星山夕子のディメンジョンゲートで飛び回る。

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星山夕子が無上厨師で食事を作る。

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俺、は…？

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「…明日から頑張るぞ〜」

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「そうだな…じゃあ」

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「飯はなんでも良いから、コーヒー豆でも出してくれ」

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「…お前、すごいな」

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「言ったらバカに思われそうだから言わなかったけど本当はカレー食いたかったんだよ」

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「エスパー…か？」

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「そりゃ、良かった」

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「前にカレーが1番好きって言ったらS市の支部長にはガキみてーって言われたことがあったんだよ」

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「ハハ、懐かしいな」

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「あの人…今何やってんだろうなあ」

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コーヒー豆を支部に置いていた機材を使って淹れながら頷いて。

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「そっか、もう何年も前なんだな」

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「ああ。ま、久々に仕事のこと考えずに寝れるってのも悪くねえな」

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「ハハ、つってもお互い様だろそりゃあ」

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「ああ、おやすみ」

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手を振って見送る。

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スッ…スッ…スャッ…！

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ギン・ワカッタ

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「はあ…何たって今日に限って…いや、いつものことではありますがね」

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別れの涙とか、そういうタイプじゃないにしても、流石に前日のギリギリまで働き詰めになる必要はないだろうに。

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頭をガシガシと掻いて
「まあ、とっとと終わらせようか」

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「様子見…をしてる暇はなさそうだしな。了解だ」

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「……おいおい、モンハンじゃねえんだぞ…」

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「な、なんでそんなプレッシャーかかるようなこと言うんだよ…！」

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愛用の剣の仕掛けを起動させながら、彼我の距離を目測で採る。

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白兵振るぞぉ〜！

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電光石火+コンセントレイト：ハヌマーン

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8DX7+5 (8DX7+5) ＞ 10[2,2,3,4,6,7,8,9]+10[5,8,8]+5[5,5]+5 ＞ 30

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人の命がかかってるなんて、いつものことながらいつだって嫌だ。

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自分が死ぬのも勿論怖いし嫌だが、自分のせいで誰か死ぬなんてのは同じくらいごめんだ。

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でもいつだって、結局のところ自分がやるしかないことは自分がやるしかないんだ。

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「悪いが…加減してやれるほど俺は強くないんでな！」

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息を吐き出しながら

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鞭のようにしなる刃を、目に映らないほどの高速でジャームの首元へと振り切る。

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「ハァ…ハァ…あ？ああ、そうだな…」

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気疲れした様子で「その辺は任せる」と暗に伝えていたのが功を奏した。

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正直、戦いのたびにげっそりするような気分になる自分は…エージェントに向いてないのだろうと思うこともある。

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「ああ、ソイツは良かったな。色々準備もあるだろうに、ギリギリまで忙しくなくせずに済むだろ？」

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「そ、そうなのか…いや俺は大体やらなきゃならないことは期限のギリギリ一杯まで引き延ばすから、異動のたびにドタバタしてるもんでな」

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「マジかよ…やっぱ良いよなモルフェウス」

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「色々便利なのは多いと聞くけど、やっぱり何もないところから飯を出せるってのが1番羨ましいね」
「もし何かあっても食料の確保がままならなくて困る…なんてことにならずに済みそうだ」

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「………」

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多分無自覚に、そういう部分については触れないようにしていた。

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あまり具体的に先のことを話すと人との別れを具体的に想像してしまう。

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「しかし、すごい栄転じゃないか」

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「本部ってことはアメリカか？そんな所からわざわざ呼ばれるなんて普通ないことだぜ」

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「なんだよ、変に謙遜するなって」
からかい半分で相手をしきりに褒めて。

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「というか、世界中を移動…って、それまた規模がデカいな」

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「ふぅん…遺産かあ…」

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色々と、思いを巡らせるけど。

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「代償とか何とか、そういうのは面倒臭そうだなあ」

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「中には人が変わっちまったようになる奴もいるって聞くし…」

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そこまで口にして…一つの可能性に思い至る。

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「…お前も……」

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「数年ぶりにあったら別人にみたいになってる、なんてことにならないように気を付けろよ？」

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しかし、思いつく1番の最悪な未来からは目を背けてそんな心配事をしてみせる。

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「変な遺産に取り憑かれて『盗みが趣味で〜す！』なんてことにならないよう気を付けろって言ってんだよ」
「……変わっちまうのも、まあ常識の範疇でなら受け入れるさ」

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「えっ俺ぇ？」

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「俺は…大丈夫だろ。これからも今まで通りの人生を続けるだけさ」

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「うん？」

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「ああ…なんだ、そんなことか」

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拍子抜けした。

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それは別にいつでも聞けるような質問だったから、改まってこんな時に聞くものだとは思ってなかったから。

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だけど、これが最後でもう当分次の機会なんて無いから、今こんなことを聞いているんだな…と却って強く感じさせられて。

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「…このコードネームは、昔世話になった時の支部長に付けられたもんでな」

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「なんでも、俺はまだ未熟で値打ちなんて付けられ無いから…っていう、皮肉だよ」

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「当然そんなの嫌だったから、抗議にも行ったんだけど…」
「『俺が認められる相手になったら新しく付けてやる』つって相手されなくてな」

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「……それからすぐその人が死んじまってそれっきりってワケだ」

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「そうでもないさ。もし俺が死んじまっても、あの世で改めて聞き直す楽しみが出来たんだから」

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「…そう思わなきゃやってられない」

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「悲しいってのとは違う。俺は怒ってるんだ」
「人にあちこちで小っ恥ずかしい名前を名乗らせておいて自分はとっとと死ぬなんて…無責任だろ？」

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「ああ…本当、死ぬぐらいなら全部ほっぽり出して逃げ出しゃ良かったのにな」

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あるいはそれに星山への言葉としての意味も込めたのかもしれない。

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「…っと、まあ、俺のコードネームの話はそんなとこだ」

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「次はお前の話が聞きたいな…今まで身の上話なんてロクにしたことなかったし」

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「…それは、お前にとっては悲しい話なのか？」

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「そうか……まあ、そうだよな…」

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チルドレンもエージェントも、ロクでもない目に遭ってる奴の方が多い。

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一般家庭出身で今でも家族が健在な自分にその感覚は…きっと、一生分からないだろう。

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しかし…それでも

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誰にでも自分にしか分からない苦しみというものがあることは分かっていた。

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「……お前が」

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「いや、そうだな…」

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「みんなが、世界を嫌いにならなくて済むなんてのは無理だとしても」

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「それでもお前や俺の努力はきっと、世界をほんの少しだけでも良くしてるはずだ」

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「…だから、夢みたいな話かも知れないが…いつか自分は可哀想じゃないって」

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「お前がそう思えると良いな」

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頭をガシガシと掻いて。

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「…最後だからって、変に気取っちまった」
「向いてねえ〜〜」

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「…ああ」

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「俺は大丈夫さ、きっとずっとな」

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「ああ…お陰様でなんとか？」

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「そっちは…あんまり寝れなかったみたいだな…」

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「そうか…ま、倒れちゃ元も子もねえし何かあったら言ってくれ」

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「…つっても、今日何からするかも決まってないんだが…」

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上から調べるぞぉ〜！

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2DX+2 情報UGN (2DX10+2) ＞ 2[1,2]+2 ＞ 4

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もう一つも…調べとくか

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2DX+2 (2DX10+2) ＞ 8[6,8]+2 ＞ 10

プライスレス

ではそれも調べる

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2DX+2 (2DX10+2) ＞ 6[4,6]+2 ＞ 8

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「冗談抜きであっちこっち歩き回ってんのに…奴さん、一体どこに隠れてやがるんだ？」

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目標あるいは犯人には…まるで見当はついていないし、聞きたいことも山のように増えていく。（実際に見つけたらのんびり話す暇もなく戦いが始まるかも知らないが）

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「それに…早く出ないと外で勝手に葬儀だの行方不明届けだのの話が進んじまう」

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「………」

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首を軽く捻って。

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「そこの所は…俺も自信を持って言えないんだが」

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「多分、どっちを選んでも後悔すると思うんだよな」

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「少なくとも俺とお前しかいないこの世界にいれば…突然銃で撃ち抜かれて死ぬことはないだろうしさ」

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「…でも、向こうに帰れば」

プライスレス

「お前にも、お前以外の奴にも会えるだろ？」

プライスレス

「だから…まあ、そこそこ帰りたいってとこかな」

プライスレス

「……まあ、そうするしかないか」

プライスレス

言って、休む用意を始めた。

プライスレス

そういえばこの間、コーヒーを入れたカップを落として割ってしまって怪我をしたんだった。

プライスレス

まあ、そのぐらいはオーヴァードなんだし、すぐ治ったさ。

プライスレス

えーと…それで、なんで落としたかって言うと…

プライスレス

いや、絶対今考えることじゃないよな。

プライスレス

でも、じゃあ

プライスレス

何を考えろって…？

プライスレス

「………むしろ、本部に行った奴と半年かそこらでまた会うことになるなんて思ってなかったよ」

プライスレス

「………一応、聞いておいてやる」

プライスレス

混乱する頭とは裏腹に、ポケットの中のウェポンケースに伸びる手は早かった。

プライスレス

「お前が…ジャームになったとか、なんとか」

プライスレス

「…何かの間違い、だったりしないのか？」

プライスレス

「どっちだよ、俺は今あんまり気は長くないぞ」

プライスレス

「……」

プライスレス

間違いなく、本人だ。

プライスレス

こんな何でもないような会話をこんなタイミングに限ってするんだ。

プライスレス

「………なんで、ここにいる？」

プライスレス

「………」

プライスレス

分からない。何も。

プライスレス

何が正しい？

プライスレス

エージェントとして目の前の知り合いを殺すとか

プライスレス

目の前のただの知り合いを見逃すだとか

プライスレス

いろんなものが混ざって不均等に頭の中を踊る。

プライスレス

「お前…」

プライスレス

「俺に切られるかもとは思わないのか…？」

プライスレス

「は、はは、は」

プライスレス

「確かにそうかもな…？」

プライスレス

混乱した頭はその言葉を無批判に受け入れた。
きっと結論を先延ばしにできることが嬉しかったんだろう。

プライスレス

「……適合した遺産ってのは、なんなんだよ」

プライスレス

「…FHに入ったとかってのは？」

プライスレス

「なるほど、確かに考えられてるな」

プライスレス

うんうんと頷いて…

プライスレス

「……じゃあ。最後に聞くけど」

プライスレス

「お前……世界のこと嫌いになったか？」

プライスレス

「……」

プライスレス

「俺、は」

プライスレス

「アレから、少し嫌になったよ…」

プライスレス

「俺の知り合いの未来を奪う世界のことが」

プライスレス

「………ああ」

プライスレス

「最悪だ」

プライスレス

ウェポンケースから、己の剣を引き抜く。

プライスレス

「俺はお前に…逃げて欲しかった」

プライスレス

「死にかけなきゃならないような任務からも…」

プライスレス

「ジャーム相手に呑気にお喋りしてるUGNエージェントからも」

プライスレス

「こんなことばかり繰り返されてる世界からも」

プライスレス

「…なんで、逃げなかったんだよ……」

プライスレス

「……もう遅いんだよ…全部、何もかも、もう遅いんだよ！」

プライスレス

最後の質問と、言ったのだから。

プライスレス

しなる刃が、ブレのない速度で星山へと向かう。

プライスレス

「………チッ！」

プライスレス

舌打ち。

プライスレス

「………クソ！！！」

プライスレス

悪態。

プライスレス

「おい待───、」

プライスレス

逃げろと言ったその口で

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待て、だなんて言いかけて

プライスレス

結局殺せもせず傷つけるだけで終わった剣を手に

プライスレス

錦戸は弾き出された。

プライスレス

しばらく、砂の上に寝転んでいた。

プライスレス

もう起きたくなかったし、しばらく何も考えていたくなかった。

プライスレス

ただ、耳に入る波の音だけが…心地よかった。

プライスレス

「………お前だったのか」

プライスレス

あちらの問いかけに応えることはなく

プライスレス

「お前が…俺を閉じ込めた張本人だったのか？」

プライスレス

「…？忘れてた…？」

プライスレス

「は…？お前、何言って…」

プライスレス

「…俺がそんな話聞いて大人しく閉じ込められてると思うのか？」

プライスレス

「ジャームを探す手間ってのも…省けたしな？」

プライスレス

「………」
無言でただモニターを睨み付ける。

プライスレス

「…でも」

プライスレス

「それだと家族を生き返らせるって話は、どこに行ったんだよ」

プライスレス

「……そんなの、受け入れられるワケ…ないだろ」

プライスレス

ギリギリと歯噛みする。

プライスレス

「変わっちまったな…すっかり」

プライスレス

閉じ込められたことよりも、何よりも

プライスレス

星山夕子という人格に裏切られたことが…何よりも。

プライスレス

「この…」

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「ダブルクロスが」

プライスレス

床に、倒れ込んだまま。

プライスレス

起き上がる気も何かを考えるつもりにもなれず

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……波の音も聞こえなかった。

プライスレス

「……ああ。したよ。したした」

プライスレス

「もう一生ここで暮らしますとも」
「だからせめてこの狭くて気が滅入る部屋からぐらいは出してくれないか？」

プライスレス

「なんて答えても出してくれないんじゃん…」

プライスレス

「……なんだそりゃ」

プライスレス

「こんな仕打ちしておいて、嘘をつかれると思ってないとか……」

プライスレス

「………マジかよ」

プライスレス

「！？」

プライスレス

咄嗟に身を翻して構えを取る。

プライスレス

「は！？誰！？」

プライスレス

「用心するなってのは無茶というものじゃないか…？」

プライスレス

俺が知らないだけでこういう会話のテンポが流行ってるのか？

プライスレス

ジイ…とトキと名乗る女神？に疑念の目を向ける。
「……助けるってのはどういう意味で？」

プライスレス

（あ、あやしすぎる…）

プライスレス

（いやでも…確かに今はこれに乗るしか手はないのも本当だ…）

プライスレス

「…分かったよ。わざわざありがとうな」

プライスレス

「マジかよ……、というか、ここどこだよ…」

プライスレス

「そ…れはありがたいが…」

プライスレス

いくらなんでも話が上手すぎる。

プライスレス

突然俺の欲しかったものが全て降って沸いた。

プライスレス

「…その前に、なんで俺のことを助けようとしてるのかだけでも教えてくれないか？」

プライスレス

「は、はあ…」

プライスレス

そりゃまあ俺が出ていくとなるとそうするしかないという話なんだしそこ自体は不思議ではないが。

プライスレス

「え、ここ俺の精神世界なの？」

プライスレス

「え…」

プライスレス

「そっ…かあ…」

プライスレス

「…」

プライスレス

「じゃあアンタなおさら誰だよ！？」

プライスレス

「なんで俺の精神世界に知らない奴がいるんだよ！？」

プライスレス

「え…？遺産に？」

プライスレス

「あー、確かになんか死にかけてる体を治すためになんとかとか…」

プライスレス

「…でもなんでそれが解約って話になってんだ？」

プライスレス

「倦怠期のカップルかよ…」

プライスレス

「なるほどな……」

プライスレス

なるほどなとしか言えなかった。

プライスレス

「まあ…経緯や何やらはともかく俺を助けに来てくれたってのは…素直に感謝すべきだな。ありがとよ」

プライスレス

「ただ…それでも分からないところがあるな」

プライスレス

「結局なんでアイツは俺の時間を止めたりしたんだ…？」

プライスレス

「その説明なら別に、対抗できる可能性のあるオーヴァードの俺じゃなくてその辺の民間人でも良さそうなもんだけどな」

プライスレス

「…？」

プライスレス

「だとしたら人選間違ってるだろ…」
「もうちょっと歳の近い女とか、いただろうにな」

プライスレス

首を傾げる。

プライスレス

「まあ、結局は知りたいなら本人に聞くしかないってところか」

プライスレス

「ハナから期待なんてしてねえから良いさ」

プライスレス

そもそも、相手がジャームじゃなくたって人の気持ちなんて正確に測れたりはしない。

プライスレス

「…………そうと決まれば」

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首をゴキゴキと鳴らして。

プライスレス

「他に何か、特別に気をつける事が無いなら」

プライスレス

「…俺は、行こうと思う」

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目的地は言わずもがな。

プライスレス

「へえ…」

プライスレス

「遺産ってのも大変だな」

プライスレス

「………自分で動けないのに意思があるなんてことになったら、何かしたいってなった時にはそれこそ人を操らなきゃいけないんだもんな」

プライスレス

そこにどういう意味がこもっているかは…敢えて語るまい。

プライスレス

「それじゃあな、アンタも期待しないで待っててくれよ」

プライスレス

ゲートを潜りながらそんな軽口が宙に漂った。

プライスレス

「…女神様が助けてくれたって言ったら信じるか？」

プライスレス

「……なあ、星山」

プライスレス

「もうこんな事はやめにしないか？」

プライスレス

「ここが俺の精神世界だって言うのは聞いたよ」

プライスレス

「…そんな所になぜお前が来たがったのかは分からないけど」

プライスレス

「お前は俺を殺さないんじゃなくて、殺せないんじゃないか？」

プライスレス

「でも俺はお前を……」

プライスレス

「……ああ、殺せる。殺せちまうんだ」

プライスレス

「だから…コレはハナから対等じゃない」

プライスレス

「そんな風な状況でお前と戦うなんて…俺の気分が乗らないんだよ」

プライスレス

「だから、もうやめてくれないか」

プライスレス

「え、出来ないの？」

プライスレス

「…………マジかよ」

プライスレス

「そ、それぐらいの責任は持っておいてくれるもんじゃないのか…！？」

プライスレス

「無責任だぞ！無責任！」

プライスレス

「………」

プライスレス

頭をガシガシと掻きむしる。

プライスレス

「まあ、でも…」

プライスレス

「そう…なるよなあ」

プライスレス

剣を…鞘から引き抜く。

プライスレス

「…今まで、俺は何人も何十人も…殺してきたんだ」

プライスレス

「相手の事情なんて鑑みることもなくそうして来た」

プライスレス

「だから……お前だけ特別になんてのは、やっぱり許しちゃくれないよな」

プライスレス

剣を持つ手がわずかに震えているのは自覚している。

プライスレス

しかしそれでも

プライスレス

「俺は……UGNエージェントの"プライスレス"だから…」

プライスレス

「それにホラ」

プライスレス

「…お前を殺して悲しむのは今となっちゃ俺ぐらいだろ？」

プライスレス

フルパワーアタック

プライスレス

ラウンド中攻撃力がLV×5上昇するOCL