Ccfolia Log

ラ・ピュセル

少し沈んだ表情を浮かべる少年─────岸辺 颯太。
オーヴァードになり立てであり、先の事件の当事者の一人であり。

ラ・ピュセル

ルコアの声に反応し、そちらの方を向く。

ラ・ピュセル

「……あっ、えっと、ど、どうしたのでしょうか……？」

ラ・ピュセル

その声に、"魔法騎士"としての張りは無く。
今ここにいるのは、どこにでもいるような、ただの男子中学生。

ラ・ピュセル

「……な、なる、ほど……」

ラ・ピュセル

……そう、今日は、色々と、あった。
通学途中のバスが爆破するという事件に巻き込まれ、オーヴァードになり。
そうして、矢神というクラスメイトもオーヴァードであることを知って。
……小雪が攫われてしまい……。人ならざる者の世界にしようと企む矢神を、止めようとして、僕は……。

ラ・ピュセル

頭に血が登っていたこともあって、彼を……拒絶してしまった。

ラ・ピュセル

……小雪を救えたし、それに……温かな皆さんとも、出会たし。
悪いことばかりじゃなかったはず、なのに……。

ラ・ピュセル

「わっ……！？は、はい！？なんでしょうか……！？」

ラ・ピュセル

ビクリと体が跳ね、ニコラの方へ見て。

ラ・ピュセル

「……………」

ラ・ピュセル

「…………は、い……」

ラ・ピュセル

……やっぱり、皆さんは……優しい……。

ラ・ピュセル

そうだ……僕がこうして生きているのだって、皆さんのおかげなんだ。
だから、こんな暗い表情ばっかり見せたら……失礼、だよ、ね。

ラ・ピュセル

「……外……そう、ですね」

ラ・ピュセル

「……ルコアさん……サスケさん……バーヴァンさん……　……ありがとうございます……」

ラ・ピュセル

「た、退屈……！？えっと、それは、ごめんなさい……なの、でしょうか……？」

ラ・ピュセル

「おつまみ……わ、わかりました」

ラ・ピュセル

「……あの、でも……」

ラ・ピュセル

そう言い、時計を見る。

ラ・ピュセル

その針は、てっぺんをとっくのとうに過ぎており。

ラ・ピュセル

未成年である彼が外出して良い時刻ではない。

ラ・ピュセル

本事件は、それはそれは長いものだった。

ラ・ピュセル

「ここで、ですか……でも、大丈夫なのでしょうか……？」

ラ・ピュセル

「…………！　い、いえ！ご心配には、及びません……！！その、僕は、大丈夫……！！ですから……」
サスケを見て。

ラ・ピュセル

「…………」

ラ・ピュセル

……実際、そうだ。サスケさんに、ニコラさん、ルコアさんに、バーヴァンさんは、すごく頼れる大人だった。
オーヴァードになって、戸惑いばかりだった僕に、UGNのことや、エフェクトの使い方とか……色々なことを、親切に教えてくれて……。

ラ・ピュセル

「ちょ、ちょっとバーヴァンさん……！」

ラ・ピュセル

「えっと、そうですね……　……え？アルミ、ですか……？」

ラ・ピュセル

「とりあえず、分かりました……？……サスケさんは、どうしますか……？」

ラ・ピュセル

僕は、書類仕事なんて、できない。
サスケさんに頭を冷やすように言われたのもあって……ルコアさん、バーヴァンさんと一緒に、買い物に出かけて、少しでも皆さんの役に立てれば、と思い。

ラ・ピュセル

「あ、はい……！……あの、ルコアさん……？お酒の飲み歩きは良くないのでは……？」

ラ・ピュセル

「むっ」
子ども……実際、僕は子ども、だけど……。
……面倒見てもらってばかりは、それはそれで、嫌だ。

ラ・ピュセル

僕だって、男なんだ。
僕だって……UGNの、一員になったんだ。

ラ・ピュセル

「……そうですね、"子ども"が深夜に出歩くのは、悪いこと、なので……」

ラ・ピュセル

そうしてラ・ピュセルは

ラ・ピュセル

《完全獣化》《至上の毛並み》《ウォーキングクローゼット》

ラ・ピュセル

─────「魔法少女」の姿となる。

ラ・ピュセル

颯太は、男である。しかし、レネゲイドの影響により、こうして戦闘態勢の姿では─────少女の姿となる。

ラ・ピュセル

魔法少女物の作品を密かに嗜んでいたこともあるのか、胸の中に密かに抱くその想いから具現化した姿なのか、今は定かではない、が。

ラ・ピュセル

・・・・
─────この世界では、よくあることだ。

ラ・ピュセル

ルコアにニヤりと笑い。

ラ・ピュセル

「そうだ、この姿なら、何も"問題"はないだろう？」

ラ・ピュセル

そう言い、コートを羽織り。

ラ・ピュセル

身長も、中学2年生の少年から、"大人"の女性程度の高さとなり。
ルコアとも視線が合う。

ラ・ピュセル

「……へへ」
少し照れながら笑い。

ラ・ピュセル

「あはは、バーヴァンも大人扱いが良かったかな？」
先程までの暗い気分も、みんなとの会話で少し晴れて
表情も柔らかくなり。

ラ・ピュセル

ルコアの後に続いていく。
置いていかれた財布に気がつかないまま─────。

ラ・ピュセル

「そう、だね……ちょっと、新鮮かも」

ラ・ピュセル

辺りを見渡しながら。

ラ・ピュセル

ひと気の少ない道を歩く。街灯が目立ち、家の明かりはどこもかしこも消えている。

ラ・ピュセル

真っ暗な、夜道。

ラ・ピュセル

「……ルコアさんは、慣れてそうだね……？」

ラ・ピュセル

バーヴァンも慣れてるんだ……と意外そうな表情を見せながら。

ラ・ピュセル

冷たい風が頬を過行くのを感じ、黒一色に染まる空を見上げ、心にまた若干の不安を募らせていきながら。

ラ・ピュセル

「あ、あはは……泣かないよ、ボクはもう……UGNの、一員、なんだから」

ラ・ピュセル

「……気分転換、かぁ……」

ラ・ピュセル

ルコアさんは、気分転換の一環として、こうして散歩してる。
でもボクは……。

ラ・ピュセル

「……な、馴染めるように、努力はしてるさ」

ラ・ピュセル

……やっぱり、気分は、中々晴れない。

ラ・ピュセル

もう、『二度』と会うことができないであろう、友人であった矢神の顔が、脳裏に浮かび上がる。

ラ・ピュセル

時は進んでしまった。もう過去には戻れない。

ラ・ピュセル

「あ……い、いや……これは……」

ラ・ピュセル

「………仕方なく、だから！」

ラ・ピュセル

日常の中でエフェクトを行使することの是非は、UGN内でも議論が続いている。

ラ・ピュセル

こうしてラ・ピュセルが、深夜に外出しても構わないように、大人の姿になることの是非。
周囲へのレゲネイドの影響は、分からない。

ラ・ピュセル

「………っ……！」

ラ・ピュセル

「………あ、ああ……」

ラ・ピュセル

視線を、二人から逸らす。

ラ・ピュセル

「………」

ラ・ピュセル

「……だって、ジャームの治療法は……見つかって、いないんだろう……？」

ラ・ピュセル

「それなら……アイツを、凍結施設に入れるのは、もう……それこそ……」

ラ・ピュセル

「……棺桶に入れるような、ものじゃないかって……」

ラ・ピュセル

「……あはは、ボクも………"無責任なヒーロー"には、なりたくないから」

ラ・ピュセル

そもそも、この行いが正義なのか、悪なのか。

ラ・ピュセル

「…………」

ラ・ピュセル

気になって。

ラ・ピュセル

「……あの」

ラ・ピュセル

「二人は………矢神の件……どう、なんすか……？」

ラ・ピュセル

「……凍結処理は……UGNだと、当たり前、なの……？」

ラ・ピュセル

「ルコアとバーヴァンも、凍結には……賛成、なのかな……？……って」

ラ・ピュセル

「…………」
その言葉に、頷く。

ラ・ピュセル

「………ボクは……曖昧なまま生きるのは……なんだか、嫌なんだ」

ラ・ピュセル

「人の命の所在って、そう簡単に、人が決めていいものじゃないって、ボクは……思うから」

ラ・ピュセル

「だって………そうでしょ？傲慢じゃないか、現場判断とは言え……矢神だって」

ラ・ピュセル

「もしかしたら……救える方法が、あったかもしれないのに」

ラ・ピュセル

ラ・ピュセルを悩ませていたのは、まさしくそれであった。

ラ・ピュセル

"本当にこの結果で良かったのか"？

ラ・ピュセル

「………そう、なの、か……？」

ラ・ピュセル

不安げに、バーヴァンを見て。

ラ・ピュセル

「……ああ、そうだ、その通りだ、多くの命を救えた、それは間違いない」

ラ・ピュセル

「─────たった一人の命を除いて、だけど」

ラ・ピュセル

ぽつりと、そう呟く。

ラ・ピュセル

そうしてまた、寂しそうに夜空を眺める。

ラ・ピュセル

ボクは、矢神がテロリストに身を落としてでも、あの子のことを欲しかったという想いを……意固地になって、否定した。

ラ・ピュセル

だって、ボクだって………あの子を、渡したくなかったから。

ラ・ピュセル

でも、でも、それは……理解を、拒んでいた。
矢神の想いを、全く見ようともしなかった。

ラ・ピュセル

だからこそ……本当は、分かり合うことも、できたはずなんじゃないかって。

ラ・ピュセル

ん。とルコアの方を見て。

ラ・ピュセル

その言葉に、ルコアの目をじっと見返し。

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

「─────誰も彼も救いたかった」

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

そう、言い切る。

ラ・ピュセル

「……まぁ、ね」

ラ・ピュセル

「ちょっと、昔話をしても、いいかな……？」

ラ・ピュセル

「……恥ずかしいから、誰にも言わないでほしいもの、だけど……」

ラ・ピュセル

「……二人にだから、話したいなって、改めて」

ラ・ピュセル

「か、考えておくって、意地悪だなぁ……！……コ、コッホン」

ラ・ピュセル

ｵｰｳﾞｧｰﾄﾞ
「─────ボクは、こうして"魔法少女"になる前は……」

ラ・ピュセル

「一人の、本当にただの中学生の男だったんだ」

ラ・ピュセル

「みんなとサッカーとかしたり……うん、特筆とかするものでもない、普通の毎日」

ラ・ピュセル

「でも……小雪とね、一緒にアニメを見たんだ」
小雪、それは、本任務で矢神に攫われた少女であり
現在、UGNの病院で治療が行われている少女。

ラ・ピュセル

「─────魔法少女物を……ね」

ラ・ピュセル

「あはは……小雪が魔法少女物好きでさ、だから僕も、仕方なく、一緒に観てたんだ」

ラ・ピュセル

「男が魔法少女物のアニメを見るっていうのも……ちょっと、恥ずかしいものだったりはするけどね……」

ラ・ピュセル

「……でね……一緒にアニメを見ていく内に……その世界で生きる「魔法少女」達の姿に、ボクは……段々、感銘を受けちゃったんだ」

ラ・ピュセル

ルコアの方を見て。

ラ・ピュセル

「い、いやいや、女装癖とかは、無いよっ！？」

ラ・ピュセル

「単純に……「カッコイイ」って、思ったからなんだ」

ラ・ピュセル

「普段は、力とかも無い、普通の女の子達が」

ラ・ピュセル

「降りかかる絶望、最悪に対して……立ち向かう。守りたい物を守るために、どんなに傷ついても、それでも前を向く。」

ラ・ピュセル

「そんな姿に、ボクは……憧れを、覚えちゃって、いいなぁ、って思ったんだ」

ラ・ピュセル

「……あ、もちろんその時は！ボク自身が魔法少女になりたいだとか、そうは思ってないからね……！？」

ラ・ピュセル

「ひどい……！？」

ラ・ピュセル

ルコアの言葉に、頷く。

ラ・ピュセル

「─────"誇り"は、そこにある。それで、十分。」

ラ・ピュセル

「そう……「魔法少女」は、気高いんだ。曲がらないんだ、何があっても。悲しいことがあっても、それでも前を向き続けるんだ。」

ラ・ピュセル

「そうして─────絶対、必ず、"幸せ"を掴み取るんだ」

ラ・ピュセル

同じように、ラ・ピュセルも拳を握り締める。

ラ・ピュセル

「………でも、ボクは、それが……叶わなかったような気がしてならない」

ラ・ピュセル

改めて、ルコア、バーヴァンの方を見て。

ラ・ピュセル

「─────ねぇ、二人とも」

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

「ボクって、"魔法少女"に、なれてるかな……？」

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

ラ・ピュセル

少し、か細い声で、そう問う。

ラ・ピュセル

「……ん」

ラ・ピュセル

「それは………違う、と思う……」

ラ・ピュセル

首を、横に振る。

ラ・ピュセル

「…………ボクは……」

ラ・ピュセル

─────小雪を、救いたかった。その想いで、一杯だった。

ラ・ピュセル

「………」

ラ・ピュセル

「……ボクの、心」

ラ・ピュセル

「………！」

ラ・ピュセル

顔を見上げ、ルコアを見て。

ラ・ピュセル

「─────それは、あるッ！！」
一歩、前へ。

ラ・ピュセル

「そう、か……うん……そういうこと、か、ルコアさん」

ラ・ピュセル

「………ボクがここで、矢神を救うことを諦めてしまえば、もうそれは……」

ラ・ピュセル

「"魔法少女"、失格」

ラ・ピュセル

「でも─────」
また、拳を握り締め。

ラ・ピュセル

「─────この先、もしかしたら……見つかるかもしれない、ジャーム化を治す方法が」

ラ・ピュセル

「それはもしかしたら……何十年後、何百年後かもしれない」

ラ・ピュセル

「でも」

ラ・ピュセル

「─────ボクは、それを……見つけ出す。……ボクが、というのだと難しいけど……でも、それでも、その方法を見つけるために、ボクも手助けしたい、UGNに……！！」

ラ・ピュセル

「だから……ボクは、矢神を救うのを……」

ラ・ピュセル

「─────まだ、諦めない……諦めたくない……！！」

ラ・ピュセル

「……へへ、ボクは……"魔法少女"でもあるけど……"騎士"でもあるから、ね……！」
バーヴァンを見て。

ラ・ピュセル

「……うん、ボクは………"英雄"、とまではなれないかもしれないけど」

ラ・ピュセル

ルコアを見て。

ラ・ピュセル

「忘れない、絶対に」

ラ・ピュセル

「……なぁっ……！？ちょ、ルコアさん……！子ども扱いは……むぅ……」
少し不貞腐れながら。

ラ・ピュセル

ぐっ……！25点足りず、か……！

ラ・ピュセル

「！？！？」

ラ・ピュセル

「道は……大分、険しく、遠いね……！でも……それならそれで……」

ラ・ピュセル

「挑み甲斐がある、ってもんだよね！」

ラ・ピュセル

ああ。と頷き。
そこには迷える少女の姿はなく、"魔法少女"の姿があった。